4月の日本選手権の100mバタフライでワンツーフィニッシュを飾った水沼尚輝選手(新潟医療福祉大学職員)と川本武史選手(トヨタ自動車株式会社)。
準決勝では51秒00の日本タイ記録を樹立した川本選手に軍配が上がり、決勝では自分のレースに徹した水沼選手が勝利しました。
切磋琢磨しながら日本のバタフライをけん引し続けている2人。前編では、選手として大切にしていること、アイテム選びで大事にしていることについてお話を伺いました。
――4月の日本選手権、お2人の対決は見応えがありましたが、プレッシャーもあったと思います。そういうなかで、記録、結果を出せた理由を教えてください。
川本:やっぱり、練習です。練習のときから自分が思うような泳ぎ、テンポ、レースのコントロールなども含めて納得のいく練習ができていました。
だから、自分が思い描いているようなレースができれば、間違いなくタイムが出せる、という自信がありました。それができたので、日本選手権の準決勝では日本タイ記録の樹立につながったのだと思います。
決勝ではライバルが左右にいるなかで自分のレースができませんでした。一番悔しい点ですね。ただ、それも含めて次につなげるための収穫が多かった大会だったと思います。
水沼:僕は準決勝で自分のレースが終わった後に(川本)武史さんが51秒00で泳いだことを知りました。そのタイムを見て不安になることはなく、むしろ僕もやっぱり日本記録を出したい、武史さんと50秒台でワンツーフィニッシュを飾りたい、という気持ちが沸いてきました。
決勝は、正直に言って誰が勝つか分からない状況でした。だから、もうあとは自分を信じて、周りを見ずにどうやって自分がやってきた練習の成果を発揮するかそれだけを考えて挑みました。もうレース自体は目をつぶって泳いでいたような感じで、あまり記憶がないくらいです。
でも、それだけ集中して挑めたレースだったのだと思います。自分の集中力って意外とすごいな、と思ったくらいです。
川本:僕ははっきり覚えています。最初はあまり緊張しなかったのですが、決勝レースが近付くにつれて脈拍が上がっているのがはっきりと分かるくらいドクドクしていて。自分で自分をコントロールできていない、という感覚があって、ちょっと不安があるなかで決勝を迎えました。
僕はどちらかと言うと前半から飛び出して、後半に失速してしまうタイプ。今回の決勝レースのラスト15mあたりで、今まで逆転されて負けてきた記憶が一気にフラッシュバックして…。そこから一気に泳ぎが固くなってしまいました。
ただ、そんな状態でもある程度の結果を出せたことにホッとしていますし、あれだけの緊張感を乗り切ったということもあって、夏は思い切ったレースができそうだな、と感じています。
――名勝負が繰り広げられた日本選手権の決勝では、お2人とも同じ「ARENA BISHAMON COLLECTIONデザインのアルティメットアクアフォースX」を着用していましたね。
水沼:僕、ネットで調べたんですよ、毘沙門天(びしゃもんてん)を。そうしたら、戦い・勝利の神ということが分かったんです。僕、結構そういうのを信じるタイプで。勝負の神様がついていてくれるなら「これを着たらめっちゃ速くなるじゃん!」と。
川本:このデザインは今まで日本にはなかった感じですごく新鮮に感じています。レースでも目立ちますし、レースで着るとすごく自分に気合いが入るような水着だな、と改めて思います。
水沼:そうなんです。後輩たちも「それめっちゃかっこいいですね!」と。武史さんがおっしゃるように、日本の水着はデザインされたものが少ないな、と感じていました。そういった意味でも、今回新しいデザインのレース水着の先駆者になれた、というのはすごくアリーナメンバーとして誇らしく思います。
――水着も含めて、アイテム選びで大事にしていることはありますか?
川本:そうですね…水着を選ぶときは、憧れている選手たちが何を着ているか、というのも大事だと思っています。そういう選手たちと同じ水着を着ると、気合いも入りますから。また、試着しておくことも大切なことだと思います。
僕にとっては、今回の「アルティメットアクアフォースX」はバランスが取れていると感じています。足をサポートしてくれる感じもあって、すごく自分に合っていると思っています。
水沼:そうですね。それは僕も感じています。あと、水着選びで僕が大切にしているのは、デザインです。ちょっとミーハー的な感じもあるのですが、自分が憧れている選手と同じ水着を着ていると思うとモチベーションが上がりますよね。そういうのを僕は昔から大切にしています。
川本:キャップはAQUAFORCE WAVE CAPを使っていますが、すごく良いです。最初使ったとき、水中でドルフィンキックを打つと水流が頭の頂点に当たる感覚があって、軸が通るような感覚が生まれたんです。そこから水中のドルフィンキックが打ちやすくなった、という感覚がありました。
水沼:それすごく良く分かります!僕も武史さんと同じ意見で、入水した瞬間に「このキャップすごいな!」と、すごく感動しました。それに、バタフライは呼吸時に頭を上下させますが、そのときの感覚もAQUAFORCE WAVE CAPはすごくスムーズに動かせる感覚がありました。
川本:ゴーグルは今までいろいろな色を試してきました。本当は光も目に入らないほうが集中できるイメージがあるのでミラータイプも良いな、と思っていましたが、結局自分はスモークカラーが気に入って使っています。
水沼:僕も外からの刺激があまり好きではないのと、レースでは自分だけに集中したいので、できるだけ暗い色のミラータイプを使い続けています。僕はチャド・レ・クロス選手(南アフリカ)が憧れの選手なのですが、ゴーグルは彼と同じタイプのものを使っています。
――では、同じバタフライという種目で戦うお2人に、バタフライで一番大切にしているポイントはありますか?
川本:バタフライ単体で、というよりは、競技全体という感じですが、課題が出たらその課題に優先順位を付けることを大事にしています。何を最初に取り組まなければならないことか、そこから一つひとつ課題をクリアしていく感じです。
その課題は、例えばレース分析を見て、詳細なタイムのデータと自分の感覚を比較して、自分の理想のレースをするために、泳ぎをするために、目標タイムを出すために何をしなければならないか、を導き出します。
今回の日本選手権で言えば、そこから出た僕の課題は「スタートから15mの浮き上がり」でした。急浮上してしまう癖があるので、それが今の僕にとって最初に改善しないといけない課題ですね。
水沼:僕もバタフライというよりは、競技者としてPDCAサイクルを大切にしています。レースを基にして出てきた課題に対して練習計画を立てて、実際に取り組んでみる。次が大事なのですが、それらをレースでチェックする。できていたら次のアクションに移す、できなかったらどういうアクションを起こせば良いかを考えています。
最初、レースはPDCAのDだと思っていました。でも指導していただいている下山好充先生から「違う、レースはCだ」と言われて。実際にそうやってみたら、すごくうまくPDCAサイクルが回り始めたんですよね。そこからおのずと記録も出るようになっていきました。
――では改めて、今シーズンの目標を聞かせていただけますか?
川本:僕の予想だと、50秒3というタイムを出せば、夏の大会で目標としている結果に手が届くと思っています。そのタイムから逆算して練習を組んでいますが、それを一つひとつクリアして、本番に臨みたいと思います。結果は後からついてくると思うので、まずはこの自分で定めた50秒3をクリアするイメージで練習していけたらな、と思います。
水沼:僕はまず夢の舞台を楽しむ、ということ。そして日本選手権で果たせなかった日本記録を出すことを目標にしています。僕はチャレンジャーです。前を走る選手を倒すことにフォーカスを当てて練習に取り組めば、結果はついてくると思っています。なので、あとは練習を頑張るだけですね。
後編は、2021年8月中旬公開予定です。
<プロフィール>
川本 武史
トヨタ自動車株式会社所属
愛知県出身。1995年2月19日生まれ。専門種目はバタフライ。2015年にはFINA世界選手権日本代表として活躍。4月の日本選手権の100mバタフライでは準決勝で51秒00の日本タイ記録をマーク。50mバタフライは23秒17の日本新記録で優勝を果たした。
水沼 尚輝
新潟医療福祉大学所属
栃木県出身。1996年12月13日生まれ。専門種目はバタフライ。2019年日本選手権の100mバタフライで初めて優勝を飾り、初の日本代表の座を獲得。4月の日本選手権では安定感のある泳ぎで川本選手との対決を制し、二度目の日本選手権優勝を飾った。
15年もの長い間、日本代表として世界と戦い続けている入江陵介選手(イトマン東進)。今年の4月に行われた第97回日本選手権水泳競技大会 競泳競技でも、50m、100m、200m背泳ぎで3冠を達成しました。100m背泳ぎでは8年連続10回目の[…]