NTTデータとデンソーの連携で「世界一の車両システム」を目指す|DRIVEN BASE(ドリブンベース)- デンソー

NTTデータとデンソーの連携で「世界一の車両システム」を目指す

2社の包括提携による、SDV時代の車載ソフトウェア開発の体制構築

  • 株式会社NTTデータMSE
    デンソー事業本部 副本部長鈴木 直行

    1992年NTTデータMSEの前身である松下システムエンジニアリング(株)に入社。約20年間携帯電話の組み込みソフトウェア開発に従事。その後、国内電気通信事業者への出向、営業、クラウドサービスでの経験を経て、2018年より現在までデンソービジネスを担当。

  • 株式会社デンソー
    ソフトウェア技術1部第2設計室 担当次長高島 亮

    2004年にデンソーに入社。複数OEMのコックピットシステムを担当。トヨタ自動車(株)への出向を経て、2010年ごろからソフトウェア開発のプロジェクトマネージャーとして、トヨタ純正カーナビや(株)SUBARUのコックピットシステムの開発を担当。2016年にNTTデータMSEへ出向し、現在も複数のコックピットシステムの開発を担当している。

近年、クルマに搭載されるソフトウェアによって、走行に限らないさまざまな価値が生まれています。アプリケーションを追加することで、クルマが自分好みにパーソナライズされ、将来的にはデータ活用による渋滞の緩和なども実現するかもしれません。

こうした「便利な機能」を実現するには、高度かつ大規模な車載ソフトウェアの開発が求められます。しかし、高度ゆえに一社での実現は難しく、新しい体制を構築する必要がありました。

デンソーは、NTTデータと包括提携を締結。高度なソフトウェアにより、幅広い社会課題への対応が可能になる、2社連携による未来に向けた新しい取り組みをご紹介します。

この記事の目次

    クルマにも「ソフトウェアファースト」なモノづくりの時代

    クルマにも「ソフトウェアファースト」なモノづくりの時代が訪れようとしています。これまでのクルマにおいて、その性能や機能の大部分を決めていたのはハードウェアでした。しかし、今後はソフトウェアがクルマの価値(機能・性能)を左右し、購入後もその価値がアップデートされ続けるようになると考えられています。

    具体的にいうと、これまでの自動車販売においては、新車販売後に機能や価値を高めることが容易にはできませんでした。そのため、OEMやサプライヤーは、新車販売時点での価値を最大化するため、ソフトウェア・ハードウェアを念入りにつくり込み、世の中に製品を送り出していました。この常識が大きく変わるきっかけになったのが、「SDV(ソフトウェア定義型自動車:Software Defined Vehicle)」の登場でした。

    SDVとは、クルマの内部と外部との間の双方向通信機能を使ってクルマを制御するソフトウェアを更新し、販売後も機能を増やしたり性能を高めたりできるクルマのことを指します。ソフトウェアの更新を通じて継続的にクルマのアップデートが行われることで、ユーザーはより長く同じクルマに乗り続けられるようになります。

    SDV時代が到来すると、大きく変化するのが開発プロセスです。販売時にあらかじめインストールされるアプリケーションはもちろん、将来インストールされる可能性がある膨大なアプリケーションや追加されるサービスを想定しながら、ソフトウェアの開発を行わなければなりません。

    また、こうしたソフトウェアのアップデートに対応できるハードウェアの開発となると、従来の方法から変更が必要です。例えば、ハードウェアの限界を超えた、高負荷な処理を求めるソフトウェアを動かしてしまうと、走行中にクルマのメーターがフリーズもしくは再起動してしまい、非常に危険な状態での走行や大きな事故につながるといった不具合が起こり得ます。

    その不具合が、人の命を預かるクルマにおいて生じてしまうことは避けなければなりません。ソフトウェアとハードウェアの両方においてエラーを起こさない、万が一エラーが発生した際でも問題なく処理を継続するための「先を見越した」開発が求められているのです。

    「先を見越した」ソフトウェア開発の体制構築を目指す提携

    きたるSDV時代に求められる高度で大規模なモビリティ開発の実現に向けて、デンソーは新たな取り組みを始めることになりました。2024年6月13日、日本におけるソフトウェア開発の“巨人”であるNTTデータとの包括提携における基本合意を発表しました。

    この基本合意は、NTTデータとデンソー両社の戦略・人財・技術の協力関係をさらに深化させ、日本の自動車産業の発展や、社会課題解決への貢献を目的としたものです。両社が有する先進的な開発手法やAI活用実績などを連携・発展させ、 SDV時代に向けて一層大規模・高度化する車載ソフトウェアを、高速かつ効率的に開発・提供することを目指していきます。

    これまでも、NTTデータとデンソーはさまざまな領域で提携を結んできました。2016年におけるNTTデータMSEへの出資、2021年の「車流×人流データを活用した移動体験変革の実証」実験、2022年には電動車向けバッテリーの業界横断エコシステム構築の開始を発表しました。

    そこから発展した今回の提携のなかで取り組むのは、次の4つの活動です。

    こうした一連の取り組みの背景について、本提携を担当するデンソー ソフトウェア技術1部 第2設計室担当次長の高島亮は次のように話します。

    「短期的な目線では、ソフトウェアを開発するエンジニアを拡充し、一度に扱えるプロジェクトを増やしながら、開発力を上げていければと考えています。ソフトウェアの開発手法や、ソフトウェアをどうやってビジネスにするのかという点はNTTデータが非常に長けているので、デンソーとしてもしっかり吸収していければと考えています。中長期的には、両社の強みを生かして、SDVのあるべきアーキテクチャの具現化や、物流問題や高齢者の移動などさまざまな社会課題の解決にも挑戦していきます」(高島)

    2社の強みをかけ合わせ、クルマとネットワーク・クラウドの連携による課題解決を

    今回の提携において、両社のどのような強みが大規模なソフトウェアの開発に生きてくるのでしょうか。デンソーの場合、ハードウェアとソフトウェアの融合に取り組んできた経験があり、そのノウハウが生きるはずだと、高島は語ります。

    「いまクルマに搭載されるECUの統合が進んでおり、過去はOEMが担ってきたECUに関する仕事にデンソーが取り組むようになっています。自社で統合ECUをつくってきた実績があるからこそ、他のベンダーのECUをまとめて統合する際にも強みを生かせると考えています」(高島) 

    NTTデータは、サーバー技術やAI技術、サイバーセキュリティのように今後のモビリティ社会に欠かせないさまざまな技術を有しています。本提携を担当してきたNTTデータMSEのデンソー事業本部副本部長の鈴木直行さんはその強みを次のように語ります。

    「NTTデータは、日本の基幹システムを担っている実績があります。その際にシステム構築だけではなく、世の中の変化に合わせて機能向上やカスタマイズをしながら運用しています。SDVの普及やそれに伴うデータ分析までを考えた際に、運用に関するノウハウをもつNTTデータが果たせる役割は大きいと思います」(鈴木)

    このような両社の強みを踏まえ、本提携の意義について、鈴木さんは次のように語ります。

    「今後、さまざまな社会課題が生まれることが想定されるなか、クルマ単体で解決できる課題もあるものの、それは限定的だと感じています。一方、データを集めたネットワーク・クラウドだけで解決できる課題も限定的です。つまりは、クルマとネットワーク・クラウドが連携し課題解決に取り組んでいく必要がある。だからこそ、それぞれの分野に強みをもつデンソーとNTTデータが連携することに意味があると思っています」(鈴木)

    モビリティ社会の変化を見据え、世界一の車両システムをつくる

    今回の提携は短期的なソフトウェア開発にとどまらず、長期的なモビリティ社会の変化を見据えた取り組みになります。“自動運転前夜”とも呼べる状況のなかで、これからのモビリティ社会の構想について、高島は次のように語ります。

    「自動運転が普及すると、モビリティを取り巻く景色はガラッと変わると思います。しかし、それにはまだしばらく時間がかかる。その手前で、ネットワークに接続されたクルマや、クルマ同士の通信というものが一般的になるはずです。加えて、ChatGPTのようなAIの登場で『クルマが意思をもって自分の相棒になってくれる』という多くの方が思い描いていた夢の景色が、現実にグッと近づいてきました。今後こうしたAIが搭載されることで、複雑な機能でも、ドライバーが使いこなしやすくなると思います」(高島)

    最後に、本提携後の展望や意気込みについて、高島、鈴木さんはそれぞれ次のように語ります。

    「今回の包括提携を経て、今後もパートナーシップを広げていきたいです。もっと大きな仕事に取り組むための次のステージが始まったという気持ちで、社会に貢献していければと思います」(高島)

    「包括提携というフレームを使ってより大きな輪に広げていきたいです。連携して開発する製品の幅を広げるだけではなくて、ビジネスのやり方の面での連携や社風、教育制度までと連携の深さもどんどん深くなっていく。これからはスローガンとして『世界一の車両システムをつくる』を掲げて、頑張っていければと考えています」(鈴木)

    技術・デザイン

    執筆:DENSO 撮影:DENSO

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    https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/tech-design/nttdata_teikei/

    ・クルマにも「ソフトウェアファーストなモノづくり」の時代が訪れ、「SDV(ソフトウェア定義型自動車:Software Defined Vehicle)」に注目が集まっている

    ・SDV時代に求められる高度で大規模なモビリティ開発の実現に向け、デンソーは新たに日本におけるソフトウェア開発の“巨人”であるNTTデータとの包括提携における基本合意を発表した

    ・「グローバルソフトウェアリソースの拡充」「高度なソフトウェア人財の育成」「ソフトウェア開発支援基盤の拡充」「社会課題解決への共同取り組み」の4つに関して活動を進めていく

    「できてない」 を 「できる」に。
    知と人が集まる場所。