解説
思想又は感情を創作的に表現したもの
著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義しています(著作権法第2条第1項第1号。以下、著作権法の場合は条文番号のみを記述します)。
「思想又は感情」を表現したものとされていますので、単なる「事実」を表現したものは著作物ではありません。また、ここでいう「思想又は感情」とは人間固有のものですので、例えばサルが書いた絵や、AIが作った音楽などは著作物とはなりません。
次に、「創作的に」とは、創った人の個性が多少なりとも表れていれば著作物であるとされています。ですから、幼稚園児が描いた絵や、小学生が書いた作文なども立派な著作物です。一方で、他人が創った著作物をそっくりまねたもの、例えば『モナリザ』の模写は、どんなにそっくりに描かれていたとしても、描いた人の個性が表れているわけではありませんので、複製物でしかありません。また、誰が表現しても同じようになってしまうような《ありふれた表現》も、創作的な表現とはいえません。
それから、「表現したもの」とは、頭の中にあるイメージやアイデア、あるいは技法などは著作物ではなく、作品として具体的に表現されて、はじめて著作物となり得るということです。例えば、スポーツのルールは、それ自体は著作物ではありません。ただし、そのルールを、工夫をこらして説明した解説書は、著作物になり得ます。
最後に「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とありますが、著作物を類別し例示すると下の表のようになります。
著作物の種類
言語の著作物 | 論文、小説、脚本、詩歌、俳句、講演など |
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音楽の著作物 | 楽曲及び楽曲を伴う歌詞 |
舞踊、無言劇の著作物 | 日本舞踊、バレエ、ダンスなどの舞踊やパントマイムの振り付け |
美術の著作物 | 絵画、版画、彫刻、漫画、書、舞台装置など(美術工芸品も含む) |
建築の著作物 | 芸術的な建造物(設計図は図形の著作物) |
地図、図形の著作物 | 地図と学術的な図面、図表、模型など |
映画の著作物 | 劇場用映画、テレビドラマ、ネット配信動画、アニメ、ビデオソフト、ゲームソフト、コマーシャルフィルムなど |
写真の著作物 | 写真、グラビアなど |
プログラムの著作物 | コンピュータ・プログラム |
このほかに次のような著作物もあります。(第11条~第12条の2)
二次的著作物 | 上表の著作物(原著作物)を翻訳、編曲、変形、翻案(映画化など)して創作したもの |
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編集著作物 | 百科事典、辞書、新聞、雑誌、詩集など、複数の素材からなり、素材の選択又は配列に創作性があるもの |
データベースの著作物 | 編集著作物のうち、コンピュータで検索できるもの |
なお、次にあげるものは著作物であっても、著作権がありません。しがたって、自由に利用することができます(第13条)。
- 憲法そのほかの法令(地方公共団体の条例、規則も含む。)
- 国や地方公共団体又は独立行政法人の告示、訓令、通達など
- 裁判所の判決、決定、命令など
- 1から3の翻訳物や編集物で国や地方公共団体又は独立行政法人の作成するもの
Q&A
- 標語、キャッチフレーズ、題名などは著作物になりますか?
- 標語、キャッチフレーズのようなものが著作物として保護されるかどうかは、一概にいえませんが、通常は保護されないと考えられます。もちろん、一口に標語、キャッチフレーズといっても、その内容は様々ですから中には著作物といえるものもあります。著作物かどうかは、標語、キャッチフレーズといった表現形式によって決まるものではありません。なお、同じような観点から、著作物の題名も通常は保護されません。
- 民話、伝説などを「聞き書き」したものも著作物ですか?
- 民話、伝説など地域に伝承される話の大筋はそのままで、枝葉において多少の修正増減を加えただけのような場合は、そこに新たな創作性は認められず、新たな著作物ではありません。
一方、民話、伝説などの骨子を基にストーリー性、表現を加えて小説や物語などを書いた場合は、そこに創作性が認められるので新たな著作物になります。しかし、修正増減を加えただけなのか、それとも新たな創作性が認められるものであるかは、個々の事例に従って判断するしかありません。 - 共同著作物とは何ですか?
- 2人以上の人が共同して作った著作物で、各人の著作した部分を分離して個別に利用できないもののことをいいます(第2条第1項第12号)。したがって、著作権の行使にあたっては、共同著作物の著作者全員が共同して行うことになります。