
D2Cビジネスモデルは、サブスクリプションコマースやパフォーマンス(成果報酬型)マーケティングの重視により、「サブスクリプション疲れ」や「ダークパターン(意図的に誤った判断に導くデザインや手法)」などの課題が浮上しています。消費者の信頼を損なうこれらの問題に対し、今求められているのは、より顧客中心のアプローチです。
そこで、「スキンケアブランドにおけるデータ駆動型CX(顧客体験)」をテーマに、パーソナライズスキンケアブランド「COCO.skin」を展開する株式会社Skin Code代表の三輪みゆきさんと、EC特化型CRMツール「EC Intelligence」を提供する株式会社シナブルの曽川雅史さんにインタビューしました。スキンケア業界の現状と、顧客視点に立ったCXの革新についてお話を伺います。
この記事の目次
顧客視点からみたスキンケアCXの現状と課題
――はじめに、三輪さんにスキンケアマーケットの現状と消費者の動向についてお聞かせいただきたいです。
三輪さん:私たちは、肌を正しく理解して、スキンケアをすることで、個々が本来持つ「キレイ」を引き出せると考えています。そのため、購入前にこれからのコミュニケーションの共通の課題テーマとなる顧客データをお預かりすることが大切だと思っています。
私たちが実施したスキンケアユーザーへの調査では、全員が「自分の今の悩みに合わせてスキンケア品を選びたい」と回答しました。とはいえ、皮膚科学などの専門知識がないユーザーが、無数にある化粧品の中から自分の肌に合うスキンケアを見つけることは難しく、頼りにするのは主に化粧品売り場のカウンターになるかと思います。
しかし、同調査で63.5%の人が「肌の診断をしたいが、化粧品売場のカウンターなどは苦手だ」と回答しているのです。また、心理的ハードルを超えてカウンターで診断してもらっても、正しい環境下(汗ばんでいなかったか、メイク落としで保湿されていなかったかなど)での計測とは限らないですし、そのメーカーの商品しかお勧めしてもらえない、といった問題もあります。
その結果、自分の肌質や肌の悩みとは違う人たちの口コミを参考にスキンケア品を購入し、肌の悩みが改善されず、「自分の肌の悩みはスキンケアでは改善されない」と思うユーザーが増え、スキンケアに対する期待値は下がってきているのです。
悩みに合ったスキンケアを提供するために
――たしかに、そういった現状では自分の肌に合ったスキンケア品を見つけることは難しそうですね。
三輪さん:そこで、COCO.skinでは皮膚科学を基本とした31問にもなるオンライン肌診断を行っています。D2Cブランドがよく実施されている、自社プロダクトに落しこむパーソナライズ診断ではなく、本来の自分の肌を多角的に知ってもらうための診断です。診断結果をもとに、メーカー・ブランドを超えてさまざまな商品を提供しています。
ただ、オンライン肌診断では、自分基準で判断するため、次の顧客体験のステップとして、より自分の肌を客観的に診断してもらいたいという要望が出てきます。そこで、皮膚科学研究の知見を集結した独自のシステム「肌解析キット(角質メモリー、皮脂スケール、凹凸ミラーの3つのチェッカー)」を提供し、自宅に居ながら手軽に、本格的な肌解析が行えるのです。肌解析キットでは、今の肌トラブルの根本原因まで分析し、満足度の高い肌の悩みの改善が期待できる商品を提案できるようにしています。
オンライン肌診断や肌解析キットから取得したデータからわかったことは、自分が認識している肌の悩みと今起こっている肌トラブルに相違があることです。この根本にズレがあるからこそ、これだけ市場にたくさんの商品があっても肌の悩みが解決できない人がいるのでしょう。だからこそ、自分の肌を理解するサービス提供の必要性を感じたのです。
ここまでが、COCO.skinのCXにおける「購入前体験」としてのサービス提供となっています。
サブスクリプションコマースにおけるCRMの現状と課題
――ありがとうございます。お客様に合った商品を提供するための購入前体験についてお話を伺いましたが、続いて曽川さんに、購入後のCXについて伺っていきたいと思います。まずはサブスクリプションコマースにおけるCRMの現状と課題点などについてお話しいただきたけますか?
曽川さん:弊社のクライアントは、アパレル・ファッションなどの多くの商品カテゴリーを持ち、ECだけでなく実店舗で小売事業をされている事業者に、オム二チャネルコミュニケーションツールとして活用されています。ツールの提供だけでなく、絶えず新しい施策の開発を一緒にさせていただいているのが特徴です。
また、通販時代からの単品リピート通販事業者から、D2Cブランドのサブスクリプションコマースの事業者にもご活用いただいています。
CRMの現状とCXを意識した理想的な形
曽川さん:スタートアップにおいては、サブスクを前提としていることから、CRMによる継続・LTV向上よりも広告による新規獲得のほうに注力せざるを得ないという状況があります。とはいえ、サブスクリプションのビジネスモデルおいて、顧客獲得コスト(CAC)と顧客が生涯にわたってもたらす価値(LTV)のバランスが重要です。新規獲得がある程度伸びた時点でCAC×2=LTVに近づくタイミングがあるので、そこまでにCRMに取り組んでいく必要があると考えています。
しかし、顧客の獲得チャネルや施策などは変化しても、購入後のCRMは不偏的で、ステップメール(LINE/同梱と郵送DMなどを含む)といった鉄板施策は基本的には変わっていません。
それは、スキンケアブランドで言えば、
1. 「顧客セグメンテーション」を顧客の課題別で実施
・ 肌タイプ、年齢層、悩みなどに基づいて顧客を分類する
・購入履歴や閲覧履歴を活用した個別化されたセグメントを作成する
が重要なのですが、実際は、広告アトリビューションとコンバージョンチャネルでのオファーとコホートでセグメントしている事業者が多く見受けられます。
そして、購入後のCXとしては、
2. 「パーソナライズされたレコメンデーション」を顧客の課題に即して実施
・顧客の肌質や好みに合わせた商品の使用方法の提案を再トレースする
・肌質の改善の進捗を他のユーザーボイスと照らし合わせられるようにする
・体調や季節や天候に応じたスキンケアアドバイスの提供することで安心と信用を得る
などが、F2転換から、ロイヤルカスタマー・ファン化にとって重要になります。
商品到着後から先ほど話したシナリオを走らせて、メール・LINEなど顧客にとって適切なタッチポイントに配信することで到達率と開封率が上がっていく側面があります。
具体的には、
・ 購入後のウェルカムシリーズとしてのコミュニケーション
- 1日目:購入のお礼と商品使用方法の案内
- 3日目:効果的な使い方のコツや注意点の共有
- 7日目:初期の使用感のフィードバック依頼
・使用効果確認メール
- 購入から一定期間後(例:1か月後)に使用感や効果の確認メールを送信
- フィードバックを基に個別化されたフォローアップ提案を実施
・教育的コンテンツの提供
- 商品の効果を最大化するための使用方法や組み合わせのティップスを共有
- スキンケアの季節別アドバイスやトレンド情報の定期配信で、関心とエンゲージメントを醸成
などが鉄板のステップシナリオです。
優良「個客」に継続してもらうCRMとは
――現状について具体例を交えながらわかりやすく解説いただきました。では、お話いただいた現状を踏まえて、事業者にはどのような対応が求められるでしょうか?
曽川さん:今の時代であれば、コミュニケーションツールとしてのメール、LINE、同梱物からの顧客アクションを、コマースサイトでのパーソナライズされたコンテンツへ誘導することが大切な時代といえます。しかし、その流れに多くの事業者が対応しきれていないことも事実です。
また、購入後のCRMのスタートも、商品到着後からの従来型のCRM施策、同梱物、外装箱のQRコードでのサイト誘導、LINE登録、SNSフォローなどなどを展開しています。
Amazonやアパレルブランドなどが実施し、効果検証されている消費者行動にフォーカスした成功事例として、注文取引メールからCX活用する方法があります。注文確認メールから発送通知メールなど、エンゲージメントが一番高いタッチポイントを有効活用することで、CXが向上できるのです。これは、開封率・クリック率・継続率データでも確認されています。
一方で、多くの事業者は
・クロスセル・アップセル施策
- 現在使用中の商品と相性の良い関連商品の紹介
- 季節の変わり目に合わせた新商品や上位グレード商品の提案
・再購入促進キャンペーン
- 初回購入から一定期間後(例:2か月後)の再購入者へのオファー提供
- サブスクリプション休止、中止顧客へのオファー提供
・誕生日・記念日メール
- 顧客の誕生月や会員登録記念日などにスペシャルオファーを提供
などの「買え買え」キャンペーンコンテンツには抜かりがありません。
これでは、本来の優良顧客の「個客」はどんどんコミュニケーションによるタッチポイントからは遠のいてしまうでしょう。
※Part2へ続く
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