平成29年度大和市さくら文芸祭「短歌の部」

更新日:2021年08月23日

平成29年度大和市さくら文芸祭「短歌の部」の受賞作品および審査員講評です。

審査員

長澤 ちづ

最優秀賞 吉川 美智子

寒き夜の五叉路を渡る目の配り春降る雪のあわれにも似て

真っ直ぐに降らず揺蕩いながらゆっくり降ってくる水分の多い春の雪の降り方に五叉路を渡る自らの目配りを喩えてユニーク且つ情緒たっぷりの歌となっている。

優秀賞 遠藤 加津樹

大会に間に合うように初めての化粧おそわる十七の春

何の大会か分からないが、大会に向けて全ての準備が終った段階の余裕ある緊張感が伝わって来る。十七歳の年齢が一首を引き締めている。

優秀賞 小倉 克允

葉書にはあて名になしの印おされもどる紙面に叔母のほほ笑み

年賀葉書だろうか。年賀状の遣り取りほどしか普段は往来のない遠方の親戚もいる。そんな叔母を案じる思いが結句のほほ笑みに凝縮されている。

優秀賞 岸部 澄子

友に贈られし苗から育てた夏みかん碧天の下黄金に輝く

年賀葉書だろうか。年賀状の遣り取りほどしか普段は往来のない遠方の親戚もいる。そんな叔母を案じる思いが結句のほほ笑みに凝縮されている。

優秀賞 熊谷 うめ

山頂の鎮魂の鐘打ちたれば津波の跡地谺返さず

鐘の谺が返らないのは地形の所為なのだろうが、津波で亡くなった人々の魂が未だに帰る場を失って彷徨っているような当て処なさを漂わす一首である。

優秀賞 小林 宏子

手袋の中の百円あたたかし市民バス待つ通院の朝

市民バスは百円硬貨一つで病院まで連れて行ってくれるのだろう。生活の一齣がさりげなく温かく詠われ、コインの丸み程の幸せが伝わってくる。

優秀賞 品田 真央

シャトルだけ一心不乱に追いかけて夢の中でもラケット握る

バドミントンの試合に青春を懸け昼夜もない作者の熱中度がとても爽やか。一つことにかくも集中出来るのは十代の特権、詠い方にも無駄がない。

優秀賞 高橋 國眞佐

離陸待つ爆音木枯しに乗り広がる基地の街今日も青空

爆音は軍用機の爆音。その軍用機が飛び立つのを目前にする作者。そんな特殊な状況が日常化する違和感が、ギクシャクとした韻律に表れている。

優秀賞 高橋 スミ

去年よりの通院の先見えて来し銀の産毛の冬木が芽ぐむ

猫柳か何かだろうか。銀の産毛が芽ぐみはじめて、自分の通院の目処も付いてきたようだと、春の訪れを待つ心が詠われている。

優秀賞 冨岡 繁

バス停で「ご一緒しましょ」白い杖母に教わる小さな勇気

目の不自由な方に出会ったときどのように接するか、母上がお手本を示された様子が簡潔に詠い収められ、母への尊敬の思いが背後には感じられる。

優秀賞 中村 優奏

ふみちゃんの笑顔に救われ乗りきったバスケ部の日々いま宝もの

辛いことがあっても、心の通い合う友達がいると乗りきれるもの。そんな友達が「ふみちゃん」なのだろう。いつもの呼び名で表記した具体も身近である。

優秀賞 山崎 正治

吾の若き昭和の佳き日残りいる波郷が撮りし写真のなかに

昭和四十四年に亡くなった石田波郷は写真も巧みで、俳句と共に写真も多く遺し、それらが作者の郷愁をかきたてる。視点が面白い作品である。

優秀賞 山下 榮一

「コツコツ」の音ふりあおぐ桜樹を番の小啄鳥はらせんにのぼる

観察力が行き届き、それは啄木鳥への親愛の情の濃やかさにも通じる。先ず音がして桜樹を仰ぎ、螺旋に上りゆく過程が時をかけて詠み込まれている。

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