地上からの温室効果ガスカラム平均濃度観測法の拡大: 可搬型フーリエ変換分光計の校正
世界26の観測サイトからなる全量炭素カラム観測ネットワーク(Total Carbon Column Observing Network: TCCON)では、地上設置型の高分解能フーリエ変換分光計(Fourier transform spectrometer: FTS)により、太陽を光源として温室効果ガスカラム平均濃度の観測が行われている。TCCONのデータは、これまで炭素循環に関する研究や温室効果ガス観測技術衛星(Greenhouse gases Observing SATellite: GOSAT)及びその後継機であるGOSAT-2をはじめとする衛星データの検証に使用されてきた。
近年では、より安価で可搬型のFTS(EM27/SUN)が開発され、都市部や農地からの温室効果ガス排出量を推定するためのキャンペーン観測に使用されるようになってきた。また、衛星データの検証にも使用されつつあり、共同炭素カラム観測ネットワーク(Collaborative Carbon Column Observing Network: COCCON)として、TCCONと同じくネットワーク化が進行中である。
FTS等の分光装置から得られたスペクトルデータからカラム平均濃度を推定するには、仮定した濃度プロファイルから放射伝達計算に基づいて計算されたスペクトルと観測スペクトルを比較し、その両者のスペクトルの差が最小になるように濃度プロファイルを最適化する。放射伝達計算に使用する分光パラメータ (例えば吸収線の強度や中心波数、線幅) 等に誤差があると、推定された結果はバイアスを持つことになるため、これまでの研究でTCCONデータについては、多くの航空機データ等との比較により補正係数が導出されている。
ただし、バイアスの大きさは分光装置の波長分解能によって異なるため、本研究ではEM27/SUNに対応する補正係数を2つの国際キャンペーン(米韓大気質観測キャンペーン(The Korea-United States Air Quality: KORUS-AQ)と領域及び全球スケールにおける大気汚染物質の輸送・変質に関する大都市の影響観測キャンペーン(Effect of Megacities on the transport and transformation of pollutants at Regional and Global scales: EMeRGe))において取得された航空機データとの比較により決定した。
KORUS-AQは韓国周辺、EMeRGeは台湾周辺において大気汚染に関する研究を主目的に行われたものであるが、本格的なキャンペーン観測が開始される前にそれぞれの移動ルート(米国から韓国及びドイツから台湾)の途中に位置する陸別(北海道)とBurgos(フィリピン)のTCCONデータを校正することを目的として、それらのサイト上空を飛行する貴重な機会を得ることができた。
そこで、EM27/SUNを各TCCONサイトに一時的に設置し、EM27/SUN、TCCON、航空機の同期観測を行った。どちらのサイトでも、降下飛行と上昇飛行で差異のある濃度プロファイルが取得されたことから(図a)、客観解析データや気象解析予報モデル(Weather Research and Forecasting: WRF)の計算値に基づいて要因を調べたところ、陸別ではtropopause folding(対流圏界面褶曲)に伴う成層圏起源空気の流入により、Burgosではマニラ起源の大気汚染の影響を受けた空気塊の輸送により、降下/上昇飛行間に差が発生していたことがわかった。
これらを基にEM27/SUNで観測された空気塊の特性とより一致していたと考えられるプロファイルを選択した。
本研究で算出した補正係数を適用したEM27/SUNの二酸化炭素とメタンのカラム平均濃度は、TCCONのデータと0.2%以内で一致することが示された(図b)。EM27/SUNにおけるこのような研究は殆ど行われておらず、EM27/SUNの校正法に関する貴重な知見を与えることができた。今後は、EM27/SUNのデータを衛星データの検証や排出量推定等の研究に利用する計画である。
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