【最近の研究成果】高CO2環境下での植物変動光利用効率の促進メカニズムの解明 | 地球環境研究センターニュース

2018年11月号 [Vol.29 No.8] 通巻第335号 201811_335006

最近の研究成果 高CO2環境下での植物変動光利用効率の促進メカニズムの解明

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 特別研究員 冨松元

自然環境下では、植物は常に変動する光環境に晒されています。しかし、これまでの植物ガス交換モデルの多くは、環境が安定した定常状態のデータに基づいています。モデルの不確実性を減らすためには、変動環境下での光合成メカニズムについて理解を深める必要があります。これまでの研究によって、植物の変動光利用効率が高CO2環境下で増加することが分かってきました(図1・A)。しかし、この増加が、光合成機能の馴化[注]の効果(長期的な高CO2効果)によるか、光合成基質の施肥効果(短期的な高CO2効果)によるのか不明のままでした。将来の高CO2環境下での、植物の成長特性や炭素同化メカニズムを明らかにするためには、植物の馴化効果と短期的な施肥効果とに分けて理解する必要があります。そこで本研究では、大型人工光室において(写真1)、高CO2濃度下でポプラを栽培し、葉の生化学特性およびガス交換特性の長期効果と短期効果を調べました。その結果、光合成機能の馴化として、Rubisco量の減少、Rubisco activase / Rubisco比の増加など、葉内タンパク質組成が変化し、高CO2の長期効果が光合成誘導応答の増加に寄与していることが示唆されました。一方で、光合成機能全体の能力低下(光合成のダウンレギュレーション)が認められ、この長期効果を相殺することが明らかになりました(図1・B)。また、短期的な高CO2効果は、光合成誘導過程における気孔制限の低下、光合成酵素の活性化などを通じて、光照射にともなう光合成誘導反応を増加させました。したがって、高CO2環境下での変動光利用効率の増加は、長期と短期の効果が共同寄与し、光合成誘導反応の増加として短期的な高CO2効果が、見かけの光利用効率増加として表れていることが明らかになりました。本研究成果は、将来予測される高CO2環境下でのガス交換モデルの高度化に貢献することが期待されます。

写真1人工光室(エコトロン)でのポプラ栽培風景 大型人工光室(エコトロン)に関する詳細は、生物・生態系環境研究センターのウェブサイトを御参照ください(https://www.nies.go.jp/biology/aboutus/facility/bio.html)。大型人工光室の内部に、ポプラを栽培するための3つのチャンバーを設置しました。各チャンバー内の微環境は、CO2濃度が380、700、1020μmol mol−1、他の環境条件が一定になるように一括制御されました。

図1光照射にともなう光合成応答特性 光強度上昇後の光合成速度の時間変化(A)と、最大光合成の50%に達するまでに要する光合成誘導時間(IT50、(B))。光合成速度の時間変化(A)は、10分後の定常状態を100%としたときの相対値で示し、CO2濃度が栽培と計測が同じ条件で測定しました。光合成誘導時間(B)は、光合成機能の馴化効果を明らかにするために、3つの栽培CO2濃度(380、700、1020μmol mol−1)の個体を、同じCO2濃度下で計測しました。また、光合成基質の施肥効果を明らかにするために、同じ個体を2つの計測CO2濃度(380、1020μmol mol−1)で比較しました。光合成誘導に要する時間(IT50)は、栽培時のCO2濃度の違いによる有意な差が認められず、計測時のCO2濃度の違いによる有意な差が認められることが明らかになりました。

脚注

  • その環境に適するように体質が変化すること。広い意味では環境への適応あるいは順応と同義で用いられる場合もあるが、生物学用語としては、適応がかなり長い時間経過の間に、形態や生理が変化し固定されることを示すのに対して、馴化はせいぜい数週間以内で生理機能を環境にうまく合わせることをいう。

本研究の論文情報

Short-term effects of high CO2 accelerate photosynthetic induction in Populus koreana × trichocarpa with always-open stomata regardless of phenotypic changes in high CO2 growth conditions
著者: Tomimatsu H., Sakata T., Fukayama H., Tang Y.
掲載誌: Tree Physiology, tpy078, https://doi.org/10.1093/treephys/tpy078.

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