2016年10月号 [Vol.27 No.7] 通巻第310号 201610_310006
【最近の研究成果】 観測データとの比較による気候感度不確実性の低減
CO2濃度が産業革命前の2倍になった場合の世界平均気温変化(気候感度)には、気候モデル間で大きなばらつきがある。モデル間の気候感度の差は、モデルの格子(50〜300km)よりも小さいスケールの現象を近似する物理スキームの違い(構造不確実性)と、物理スキーム内のパラメータ値の違い(パラメータ不確実性)によってもたらされる。以前の研究で、我々は構造不確実性とパラメータ不確実性の影響を同時に調査するために、2つのモデルの雲・積雲対流・境界層乱流スキームを取り替えた上でパラメータを走査することで、136バージョンのモデルを用意し、気候感度を調べる実験を実施した[1]。このマルチパラメータ・マルチ物理アンサンブル(MPMPE)の気候感度は、2°C〜10°Cと非常に広い幅をもった。
先行研究[2]によって、モデル間の気候感度のばらつきは、混合強度指標[3]との間によい相関をもつことが指摘されている。図にMPMPEにおける気候感度と混合強度指標の関係を示す。観測データと比較して、現実的な混合強度指標をもつモデルバージョンは気候感度が5°C以下であり、逆にいうと5°Cより大きい気候感度は非現実的であることが分かった。これにより、MPMPEの気候感度のばらつきのうち、信頼できる範囲が2°C〜5°Cであることがわかった。
脚注
- Shiogama, H., M. Watanabe, T. Ogura, T. Yokohata, and M. Kimoto (2014) Multi-parameter multi-physics ensemble (MPMPE): a new approach exploring the uncertainties of climate sensitivity, Atmos. Sci. Let., 15: 97–102.
詳しくは、塩竈秀夫「マルチパラメータ・マルチ物理アンサンブル:気候感度の不確実性を調べる新アプローチ」地球環境研究センターニュース2013年11月号参照 - Sherwood, S. C., Bony, S. & Dufresne, J.-L. (2014) Spread in model climate sensitivity traced to atmospheric convective mixing. Nature 505, 37-42.
- 対流圏下部で空気が鉛直方向に混ざる強さを表す指標で、気候感度にとって重要な低い雲の分布に関係する。
本研究の論文情報
- Lower-tropospheric mixing as a constraint on cloud feedback in a multiparameter multiphysics ensemble
- 著者: Kamae Y., Shiogama H., Watanabe M., Ogura T., Yokohata T., Kimoto M.
- 掲載誌: J. Climate, 29, 6259-6275, DOI: 10.1175/JCLI-D-16-0042.1.