1957年(昭和32年)6月
“計算”という事務作業の効率化・省力化に貢献
世界初の小型純電気式計算機「14-A」
「14-A」はリレーと呼ばれる継電器を使用した世界初の小型純電気式計算機です。従来の事務用計算機には歯車が使われており、1回の乗除算にかかる時間は平均して10秒程度。さらに歯車を電動で高速回転させるため、騒音が発生してしまうという問題も抱えていました。これらとは異なり、全く新しい発想の計算機を開発するために目を付けたのが、当時の電話交換機に使用されていたリレー素子です。すでに大型コンピューターには、1万3000個のリレーが使われていた時代でした。しかし、「14-A」はわずか341個で14桁の四則演算を実現。本体の大きさもオフィスに設置できる机サイズとすることに成功しました。歯車式と比べると、10秒程度かかっていた乗除算も5〜6秒程度と早く、音も静かでした。また、当時の計算機では桁ごとに0から9までの数字キーが並ぶ“フルキー方式”が常識だった中で、現代の電卓と同様の“テンキー”を採用。ユーザビリティを考慮しながら、計算の効率化と省力化を果たしました。
1962年(昭和37年)1月
研究者の技術計算をより手軽なものに
プログラム機能がついた科学技術用計算機「AL-1」
リレー式計算機「AL-1」は、プログラム機能がついた科学技術用計算機です。60の歯を持つ歯車6枚を用いてユーザー自身がプログラムをセットしておけば、その計算手順で自動的に計算を行うことができます。また、6枚の歯車のユニットは取り外しが可能なため、複数の計算手順を入れ替えることもでき、その使い勝手の良さから官庁や大学の研究者を中心に多くの支持を集めました。カシオがこのような機能を開発できた理由の一つは、平方根の計算機能を備えた技術用リレー式計算機「14-B」(1959年発売)の開発をきっかけに、カシオが研究者の方々と緻密な対話を重ねていたからです。当時、高度な技術計算のプログラム機能を備えた計算機はなく、研究者は本務でない計算に多くの時間を費やしていたのです。2014年、「AL-1」は日本の科学技術史上重要な成果を示したことが認められ、国立科学博物館が選定する2014年度重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録されました。
1965年(昭和40年)9月
電卓初のメモリー機能であらゆる計算の効率化を
電子式卓上計算機「001」
「001」は、カシオが初めて開発に挑んだ電子式卓上計算機です。「001」という名前には、加減算の速度が0.01秒であったことに加え、「電子時代のゼロ地点から再スタートする」という反省と決意が込められています。というのは、カシオは1957年にリレー式計算機「14-A」を開発後、業界をリードする存在でしたが、1962年に英国のメーカーが世界初の電子式卓上計算機(=電卓)を発表。1964年には日本メーカーも電卓開発に乗り出し、電子式が注目されるようになっていったからです。当時のカシオはまだリレー式計算機の改善を開発の中心に据えており、新たなリレー式計算機を発表するものの、技術の中心はすでにリレーから電子式のトランジスタに移っていました。卓上で使えて演算速度も速く、音も静かな電子式。ユーザーが求める最先端の製品開発に遅れたら計算機専業メーカーはなくなる──こうした思いからカシオは電子式計算機の開発に本格的に舵を切ったのです。こうして発売した「001」には、四則演算の高速化だけでなく、あらゆる計算業務の能率向上を目指し、電卓として初めて7桁の定数記憶ダイヤルやメモリー機能を搭載しました。ユーザーにとって便利な機能の開発はその後も続け、2年後の1967年には、計算手順をキーボードの操作で簡単に記憶できるようにした世界初のソフトウエア型電卓「AL-1000」を発売します。こうしてカシオは、電卓市場においてもその存在感を発揮していきます。
1972年(昭和47年)8月
計算を、もっと多くの人に、もっと手軽なものに
世界初のパーソナル電卓「カシオミニ」
「カシオミニ」は、パーソナル使用を前提に開発した電卓です。サイズは当時主流の4分の1、価格は3分の1に抑えた1万2,800円を実現。当時、電卓のヒット商品といえば年間10万台前後でしたが、カシオミニは発売後10カ月で100万台を販売する大ヒットとなりました。これにより、1960年代後半から数十社におよぶメーカーがしのぎを削った電卓戦争の大勢が決まりました。開発のヒントとなったのは日本中でブームを巻き起こしていたボウリング。当時のスコアは手計算で算出しており、ボウリング用に小さくて安い電卓を開発することを思い付きました。事務用の電卓は8桁表示が当たり前の時代に、家庭用として6桁表示に絞り込むとともに、大量生産に適する部品の開発、高度でスピーディーな計算を実現する大規模集積回路(LSI)の開発にも取り組み、「カシオミニ」が誕生したのです。一家に一台を実現した「カシオミニ」のヒットは電卓市場の拡大、半導体産業の発展にも貢献しました。その後、電卓の技術進化はさらなる小型化・省電力化の道を進みます。カシオは1983年に、厚さ0.8ミリという世界最薄の電卓「SL-800」を発売。クレジットカードサイズの電卓は、電卓のパーソナル化、薄型化の技術的な終着点としてニューヨーク近代美術館(MOMA)の永久所蔵品となり、「カシオミニ」と同じく重要科学技術史資料(未来技術遺産)にも選ばれています。
1974年(昭和49年)5月
個人でも手軽に関数計算ができる
パーソナル関数電卓「fx-10」
「fx-10」は、ポケットサイズのパーソナル関数電卓です。1970年頃の日本では、関数計算は小型とされるものでも現在の冷蔵庫ほどの大きさだったコンピューターの役割。価格も100万円以上と実用的ではなく、多くの技術者は計算尺と呼ばれる物差し型の器具を使って計算していました。1972年、カシオは本格的な関数計算を手軽に行える電卓「fx-1」を発売します。「fx-1」は16種類もの関数計算をワンタッチのキー操作で扱える使い勝手の良さから多くの支持を獲得しました。その2年後、「fx-1」の重さを約7分の1、価格を約13分の1にして発売したのが、国産初の関数計算用LSIチップを搭載した「fx-10」です。三角関数、指数関数、対数関数など、使用頻度の高い10種類の関数計算キーを装備し、ワンタッチでの処理が可能。持ち運びがしやすく、これまで計算尺を使っていた技術者が個人で関数電卓を持つことができるようになりました。現在、幅広い国々で愛用されているパーソナル関数電卓の原点がここにあります。
1974年(昭和49年)11月
日付修正の手間をなくすオートカレンダーを搭載した
電子腕時計「カシオトロン QW02」
カシオトロン「QW02」は、カシオが発売した初めての腕時計です。当時は、機械式時計からクオーツ式へと切り替わる技術変革期。電卓業界でトップの座を不動のものとしたカシオは、新規事業として時計業界への進出を決定します。クオーツ式の中でもデジタル時計は、カシオが電卓で培ったLSI技術を最大限生かせる製品だと考えたからです。
「QW02」は、“完全自動腕時計”という開発思想により、時・分・秒の表示はもちろん、大の月・小の月を自動的に判別する世界初のオートカレンダーを搭載していました。従来の腕時計を使用する場合は、月が替わった日にカレンダーの日付を直す必要がありましたが、この手間を省くことに成功したのです。その後、閏年の2月29日まで自動判別を可能にしたフルオートカレンダーの腕時計も実現します。1976年には、時計機能に加えて、ストップウオッチや世界時計機能(ワールドタイム)の機能を備えた「X-1」を発売。その後、カシオのデジタル技術を駆使した多機能デジタルウオッチの開発が進められていきます。
1980年(昭和55年)1月
さまざまな楽器の音色が、鍵盤で楽しめる
「カシオトーン201」
カシオの電子楽器は、電子キーボードの「カシオトーン201」から始まりました。音楽が好きだった樫尾俊雄が抱いていたのは「演奏の難しいバイオリンやギター、尺八の音を自分の手で美しく奏でてみたい」という思い。悲願を叶えるべく、俊雄は従来にない発音システムである「子音・母音システム」を開発します。これは音が“子音”と“母音”で構成されていることに着目し、この2つを微妙に変化させながら合成して1つの音を創り出すというもの。これにより、ピアノ・チェンバロ・オルガンなどの鍵盤楽器はもちろん、ハーブ・琴などの弦楽器、トランペット・トロンボーンなどの管楽器など29の音色を創り出すことに成功。さまざまな楽器を演奏するには、それぞれの演奏方法を習得するのが常識でしたが、「カシオトーン201」は鍵盤演奏という身近な方法で、自然で味わいのある演奏を可能にしました。「誰でも手軽に音楽を楽しめるようにしたい」というカシオの電子楽器の原点が、ここにあります。
1981年(昭和56年)10月
「ちょっと知りたい・調べたい」に大活躍
英和辞典を内蔵した電子辞書「TR-2000」
「TR-2000」は、英和・和英辞典機能と計算機能を搭載したカシオ初の電子辞書です。1981年に発売された「TR-2000」は、電池込みで53gという軽さでありながら、最大約388時間もの電池寿命を備えています。新開発された大容量C-MOS LSI(196Kビット/チップ)に、英単語・熟語2020語、日本語1976語を収録。独自のサーチアルゴリズムの開発によって高速検索を実現し、翻訳時間の大幅短縮を可能にしました。また実務計算機能をフル装備した8桁の計算機としても使え、スイッチをスライドさせるだけで、辞典と電卓を使い分けられるようになっています。表示には、文字の形を埋め込んだタイプではなく、ドットマトリクス液晶を採用したことにより、アルファベットやカナを読みやすく表示。「何かを調べたいとき」や「言葉の意味を知りたいとき」にすぐに調べられるようになり、バッグにしのばせておく新定番として、ビジネスシーンや学習に活用されました。
1981年(昭和56年)11月
楽譜が読めなくても、演奏を楽しめる
メロディガイド機能を備えた「カシオトーン701」
「カシオトーン701」は、「楽譜は読めないけれど、演奏を楽しみたい」──そんな初心者の思いに応えるべく開発された製品です。その最大の特長は“楽譜を電子で読み取り、しかも記憶する”ということ。世界で初めて楽器にバーコードリーダーを採用し、楽譜に併記されたバーコードを読み取って本体に登録する仕組みです。この他にも、鍵盤の上部に備えたLEDが次に弾く鍵を教えてくれるメロディガイド機能や、記憶された曲を自動的に演奏し、同時にアンサンブルも楽しめる自動演奏機能、そして、指一本で演奏が楽しめるワンキープレイ機能など、従来の楽器にはなかった画期的な機能を搭載。初心者のみならず、楽譜が読めないことで演奏をあきらめていた人々に対して、音楽を楽しむための新しい選択肢を提供したのです。1994年には、鍵盤そのものが光って次に弾くべきところを教えてくれる「ML-1」を発売。「誰もが簡単に楽器を弾けるように」というカシオの思いは脈々と受け継がれていきました。
1983年(昭和58年)4月
腕時計の常識を覆し、“タフ”という新たな価値を提供
耐衝撃腕時計G-SHOCK「DW-5000C」
「G-SHOCK(Gショック)」が登場するまで、腕時計は慎重な取り扱いが必要とされる精密機器でした。その常識を覆し、さまざまな悪条件下においても正確に作動する耐衝撃・耐振動を実現し、壊れにくい“タフ”な腕時計という新しい価値を打ち立てたのが「DW-5000C」です。ガラスやボタンなどを強力にガードするウレタンベゼルで時計本体であるケースを包み込み、時計内部のモジュールや重要なパーツは緩衝材で保護するなど、外部からの衝撃を5段階で吸収。さらに、モジュールがケースの中であたかも浮いているように点で支え、衝撃を伝えにくくする中空構造を採用しました。水にも強く、20気圧防水も実現しています。その性能は、過酷な現場に出動する消防士などから評価されたほか、スケートボードなどを楽しむ若者まで、安心して腕時計を利用できるようになりました。1990年代半ばには、ファッション的にも若者から支持されていた「G-SHOCK」の利用シーンを広げるため、大人に向けたフルメタル仕様の「G-SHOCK MRG-100」を開発。“タフ”であることにこだわりながら、素材や構造など、常に進化させることを続けています。2017年8月、「G-SHOCK」シリーズは世界累計出荷数1億個を突破。「DW-5000C」が打ち立てた壊れにくく“タフ”であるという新たな腕時計の価値は、今も多くのお客さまに支持され続けています。
1983年(昭和58年)6月
場所や時間を選ばずに番組を視聴できる
ポケット型液晶テレビ「TV-10」
「TV-10」は、当時世界最小のポケット型液晶テレビです。日本で地上波テレビ放送が開始されて以来、家電の王様として親しまれてきたテレビでしたが、最大の難点はテレビの前でしか視聴できないこと。1980年代には、アンテナ付きのポータブルテレビはありましたが、重量やバッテリーの問題で実用的ではありませんでした。「TV-10」は、新開発の液晶と高輝度のELバックライトを搭載し、ポケットに入るコンパクトサイズと重さ335gを実現。また乾電池や家庭用電源をはじめ、使用状況に応じて選択できる4電源方式を採用することで、見たい番組を場所や時間に縛られずに見られるものでした。1992年には、世界最小・最軽量のカラー液晶テレビ「CV-1」を発売。コントラストのはっきりしたTFT液晶を採用し、胸ポケットに入れられるサイズを実現しました。娯楽や情報収集においてテレビの役割が大きかった時代、「いつでもどこでもテレビを見たい」という人々の夢を叶えた商品です。
1984年(昭和59年)11月
オフィス外の作業を、楽に、そして効率的に
ハンディターミナル「DT-6000」
ハンディターミナル「DT-6000」は、“ハンディ”の名が示す通り、片手で持てる業務用のデータ処理端末です。前年の1983年、カシオはポータブルデータターミナル「DT-100」を発売しましたが、本体はA4サイズ、重量は1.45kgでした。「DT-6000」では幅を約半分に縮小し、重さも1kgを切る860g(プリンタ付・電池含む)。小型化・軽量化を実現し、オフィス外での入力作業にかかる負担をより軽減することに成功し、活用範囲を大幅に広げました。RAMカード方式を採用したことで、業務に必要な情報は、プログラムを差し替えるだけで変更可能。データを外に持ち出して活用できます。データを参照するだけでなく、顧客先での入金処理や受注処理、納品処理などデータの入力・記録・蓄積・伝達もその場で完結。シートキー方式の採用によって、商品名などを複雑なコード番号ではなく、アルファベットやカナで入力できます。「DT-6000」は、あらゆる業種のオフィス外業務の効率化を支える商品となりました。
1984年(昭和59年)11月
“音を創る”という喜びを、もっと多くの人に
PD音源採用のデジタルシンセサイザー「CZ-101/CZ-1000」
「CZ-101」は、簡単に多彩な音を創れるデジタルシンセサイザーです。当時、シンセサイザーはさまざまな音楽に使われていましたが、操作が難しく、かつ高価格のため、ごく限られた音楽家や愛好家の方々の使用にとどまっていました。「CZ-101」は、新開発したP.D.(Phase Distortion)音源方式を採用。これは正弦波(周期的に変化する波動)の位相(変化過程における位置を示す量)をさまざまにひずませることで波形を生み出すというものです。この波形を組み合わせることにより、数多くの音色を簡単に創り出すことが可能に。49のミニ鍵盤を採用してコンパクトな外観を実現したことで、より手軽に演奏を楽しめるようにしました。翌1985年には、サンプリングキーボード「SK-1」を発売。それまでは、高価なサンプリングマシンが欠かせなかった、人の声や雨音など身の回りにあるさまざまな音を音源にした演奏が手軽にできるようになりました。シンセサイザーとキーボード──楽器の種類は違いますが、「音を創る楽しみを広げたい」というカシオの思いは同じです。
1985年(昭和60年)8月
難解な数式もひと目でわかる
世界初のグラフ関数電卓「fx-7000G」
「fx-7000G」は、難しい数式を視覚的に理解できる世界初のグラフ関数電卓です。それまで、関数電卓やプログラム電卓を使用しても、その役割は計算することにとどまり、グラフ化は手作業で行うのが常識でした。「fx-7000G」は、96×64ドットの大型液晶ディスプレイを備え、関数のグラフ機能を搭載。1次式の傾きや2次・3次式などの曲線の形状など、数値だけではわかりにくい関数式をグラフで表示することで視覚的に理解することが可能になりました。ちなみにこの「fx-7000G」は、アメリカにおける数学教育への貢献が認められ、スミソニアン博物館に収蔵されています。また、グラフ機能のない関数電卓でも使いやすさを追求しています。2004年に発売した関数電卓「fx-82ES」は、学生に数学や物理の理解をさらに深めてもらうことを目的に、分数や平方根(√)などの数式を一般的な表記と同じように表示する「数学自然表示」を実現しました。慣れ親しんだ教科書と同じ数式で学習できるため、学生たちの強い味方となりました。
1988年(昭和63年)4月
管楽器初心者でも簡単に演奏を楽しめる
「デジタルホーン DH-100」
「デジタルホーン DH-100」は、息を吹き込むだけで管楽器の音を簡単に出して演奏を楽しめる電子管楽器です。サキソフォンやトランペットなどの管楽器を演奏するには、唇を振動させるなどの高度なテクニックが必要で、音を出すまでにはかなりの練習をしなければなりません。息を吹き込むだけで音を出せるデジタルホーンは、この悩みを解消。前述の2音源をはじめ、シンセリード・オーボエ・クラリネット・フルートの音で簡単に演奏を楽しめます。さらには息の強弱によって音量や音質のコントロールができ、管楽器ならではの感情のこもった演奏が可能。指使いは、日本の義務教育でも使用されているリコーダーと同じものを採用するなど、管楽器を演奏している気分を味わえる工夫を施しています。1987年に発売されたデジタルギター「DG-10/DG-20」とともに、音楽人口の拡大を目指し、電子楽器の普及に努めてきた開発陣の思いが込められています。
1988年(昭和63年)9月
文字入力に特化し、ポケットに入るサイズを実現
「ポケットワード PW-1000」
「ポケットワード PW-1000」は、外出先でも手軽に使用できる超小型のパーソナルワープロです。当時、ワードプロセッサ(ワープロ)は文書をキレイに印刷することを目的に購入されており文字入力・編集・印刷を一台で完結させることが大前提でした。各メーカーは編集機能を競って画面を拡大したため、ワープロの大型化は加速。カシオはこうした状況に一石を投じるため、文字入力に特化した「PW-1000」を発売します。文書記憶用の磁気ディスク(FD)ドライブを搭載せず、プリンタも別売り。据え置き型のワープロと連動させる2台目のワープロとして携帯性を高め、ポケットに入るサイズを実現しました。カシオが、自社初のワープロ「WP-1」をオフィス向けに発売したのは1981年。日本語タイプライターを踏襲した漢字選択方式に加えて、かな文字を入力してから漢字に変換することもできるなど、複数の入力方式を選べる機能を実装して、当時の日本語タイピストだけでなく幅広い人が使えるビジネスワープロに仕上げました。また、1985年のカシオワード「HW-100」は、カシオ初のパーソナルワープロでした。当時は、漢字変換は文節ごとに文字を入力して変換するものが主流でしたが、最大84文字までの文章を一括入力した後に漢字変換を順次行う方式を採用。ユーザビリティの向上を目指し、カシオはワープロを進化させていったのです。
1991年(平成3年)11月
整理整頓を、エレクトロニクスの力でもっと楽に
ラベル印刷機「ネームランド KL-1000」
「ネームランド KL-1000」は、ラベルを手軽に作成できる小型の漢字ラベルライターです。以前から市場にはダイヤルを手で回す刻印式ラベルライターがあり、1988年には漢字対応の熱転写式ラベルライターが市場に出ていましたが、文字入力は刻印式を踏襲したものでした。このような時代に、漢字入りの美しいラベルを簡単に作成できることを目指して開発したものが「KL-1000」です。キーボードを搭載することで簡単に文字を入力できるほか、専用に開発されたテープは熱転写式のラベルライターに不可欠だった保護用ラミネート層を不要にし、薄くなったことで貼りやすさも向上。テープの最大幅18ミリという寸法は、当時普及していた家庭用ビデオテープにもぴったりで、録画したテープの背ラベル作成用として用いられました。整理整頓をもっと楽にする。そんなユーザーの声に、「KL-1000」はエレクトロニクスの力で応えました。
1994年(平成6年)3月
ポケベル同士での双方向コミュニケーションを実現
「NICOTO NP-500」
「NICOTO(ニコット)NP-500」は、無線呼出サービス専⽤の受信端末として当時大流行していたポケベル(ページャー)に、さらなる革新をもたらしました。それまでのポケベルは受信機能しかなく、受信できる情報も折り返しの電話を想定した番号などでしたが、送信者は固定電話のダイアルボタンを押して、「0840(おはよう)」など語呂合わせでメッセージを送っていたのです。しかし当然、語呂合わせを知っている人にしか使えない、複雑な内容を伝えられないという課題は拭えませんでした。そのような中、「NICOTO NP-500」は業界で初めて、数字だけでなくカタカナやアルファベットも送受信できる機能を搭載。「スグカイシャニTELシテ」というメッセージを作成し、固定電話の送話口に端末を当てスイッチを押す。するとメッセージがトーン信号に変換されて伝わり、受信者の端末に同じメッセージが再現されるという仕組みです。端末同士での双方向コミュニケーションを実現した「NICOTO NP-500」の発想は、後に流行するPHS(簡易型携帯電話)や携帯電話でのショートメッセージサービスを先取りしたものでした。
1995年(平成7年)3月
デジタルならではの楽しみ方を提案した液晶デジタルカメラ
「QV-10」
「QV-10」は、世界初の液晶モニター付き民生用デジタルカメラです。光学ファインダーをなくし、液晶モニターが搭載されたカメラは、写真をプリントするフィルムカメラの代替ではない、カシオならではのデジタルカメラのあり方を提案したものでした。撮影した画像を液晶モニターですぐに確認できるほか、ビデオ端子とデジタル端子を搭載し、テレビへの出力やビデオへの記録、パソコンに転送して加工・保存も可能。マルチメディア時代にマッチする多様な使い方を可能にすることで、カメラの新しい楽しみ方を提案し、1年で20万台を売り上げるヒットとなりました。「QV-10」開発の裏には、1987年に発売した電子スチルカメラ「VS-101」がありました。コンセプトは、“ビジュアル・コミュニケーションツール”。撮影した静止画をアナログの映像信号としてフロッピーディスクに記録・再生することにより、テレビに写真を映して大勢で見ながら楽しむなど、写真の楽しみ方を広げたい、という発想から生まれたものでした。その発想を受け継ぎ、デジタル技術を駆使して開発された「QV-10」は、デジタルカメラ市場を切り開くのです。
1996年(平成8年)11月
情報を持ち歩く、という発想のハンドヘルドPC
「カシオペア A-10/A-11」
「カシオペア A-10/11」は、カシオがマイクロソフト社と共同開発し、北米で発売したハンドヘルドPCの1号機です。ハンドヘルドPCとは、マイクロソフトが規格化した携帯情報端末のこと。1995年にWindows 95の登場で到来した本格的なパソコン時代に合わせ、カシオはWindows CEを搭載した「カシオペア」を開発したのです。その開発の背景にあったのは、“情報を持ち歩く”という発想でした。この発想は、以前からさまざまなカシオ製品に存在しているものでした。例えば、1983年に発売した電子手帳「PF-3000」は、電話番号やアルファベットなどの文字情報を記録でき、1987年には漢字対応電子手帳「DK-1000」を発売しました。腕時計としては、1984年に発売したデータバンク「CD-40」に、10人分の電話番号を記憶できる機能を搭載。“腕に着ける情報機器”として、時計の進化にも取り組んでいきました。1993年にはPDA(Personal Digital Assistant)と呼ばれた携帯情報端末「Z-7000」を発売。その系譜は「カシオペア」へとつながっていきました。
2000年(平成12年)2月
これまでにない“タフネス”が、幅広い利用シーンを開拓
cdmaOne対応携帯電話「G’zOne C303CA」
「G’zOne(ジーズワン)」は耐水・耐衝撃性能を備えた携帯電話機です。当時、さまざまなメーカーが携帯電話市場に参入する中、カシオは最後発でした。そこでカシオ独自の強みを生かすべく、開発は「G-SHOCK」同様“タフネス”を徹底的に追求し、使い勝手という基本性能を可能な限り高めるというコンセプトで進められました。その第1号機となった「C303CA」は、雨の中でも使用でき、日常のハードなシーンでも利用できるという価値を通じて若者を中心に好評を博しました。壊れにくいというその“タフネス”ゆえに、「G’zOne」は利用シーンを選びません。結果として、アウトドア好きの方や、バイク便のドライバーや建設現場で働く人々など、日常的に屋外で働く方からも支持をいただき、長く使っていただける商品となりました。
2001年(平成13年)11月
正確な時刻を光の駆動で提供し続ける腕時計
ソーラー電波ウオッチ「WVA-300」
ウェーブセプター「WVA-300」は、時刻情報をのせた標準電波を受信することにより、自動的に時計の誤差を修正するソーラー電波ウオッチです。つまり、ユーザーが自ら時刻合わせをしなくても正しい時刻を知ることができるほか、太陽電池による充電で電池切れを心配することなく駆動することから、(充電池などの劣化を除いては)電池交換の手間がかからないといった利便性を追求した時計です。カシオは、“完全自動腕時計“という開発思想によりカレンダー表示を自動化した「カシオトロン」の発売以来、時計の精度や電池寿命、使いやすさという基本性能の向上にも取り組んできました。それは電波時計においても同様です。1995年に欧州で発売したカシオ初の電波時計「FKT-100L」に始まり、2001年に発売した「WVA-300」、その翌年に「G-SHOCK」のソーラー電波ウオッチとして世に送り出した「The G」、さらには2008年に発売した世界初の6局電波受信機能を備えた「G-SHOCK」など、ユーザーが信頼して使える電波時計を追求してきたのです。
2002年(平成14年)6月
引き算で発想したカードサイズのデジタルカメラ
「EXILIM EX-S1」
「EXILIM(エクシリム)EX-S1」は、日常の生活シーンの中で常に携帯できる“ウエアラブル・カードカメラ“という新コンセプトに基づいて開発された製品です。時代は、フィルムカメラからデジタルカメラへの本格的な移行期。カシオはデジタルだからできる価値を徹底的に追求し、このカメラを開発しました。最大の特長はカードサイズという優れた携帯性と、起動させてからわずか1秒で撮影できるクイックレスポンス。ズームを搭載せず、ピントもあえて固定。画素数も124万画素に抑えるなど、引き算の発想で機能を絞り込む分、サイズと使い勝手にこだわったのです。デジタルカメラならではの価値を追求する姿勢は、その後の開発にも息づいています。2008年に発売した「EX-F1」は、1秒間に60枚という超高速連写で、肉眼では認識できない一瞬を捉える楽しさを提供。さらに2010年に発売した「EX-ZR10」は高速連写を応用したHDR(High Dynamic Range)機能を搭載し、芸術的な写真を“創る、見せる”というデジタルカメラならではの楽しさを実現しました。これらの商品を起点に、カシオは高速画像処理エンジンを核にしたカメラの開発に注⼒し、“サクサク撮れる”や“撮った後も楽しい”カメラを実現していくのです。
2003年(平成15年)10月
スタイリッシュで手頃な“本格派”電子ピアノ
「Privia PX-100」
「Privia(プリヴィア)PX-100」は、場所を選ばないコンパクトサイズでありながら、グランドピアノの弾き心地と音色を追求した電子ピアノです。「Privia」は“Private Piano”からの造語。若い女性をターゲットにしたスタイリッシュなデザインで、“自分の部屋に置ける電子ピアノ”というコンセプトから名付けました。カシオは、1991年に本格的な電子ピアノ「AP-7/AP-5」を発売し、「CELVIANO(セルヴィアーノ)」シリーズとして展開していました。しかし2003年当時、「CELVIANO」をはじめとする本格的な電子ピアノは10万円以上が常識でした。「PX-100」はスリムなボディに、低音部は重く高音部は軽い鍵盤タッチ、コンサートグランドピアノの音を丁寧にサンプリングした表現力豊かな音色など、電子ピアノそのものの質を高めながら価格も重量も従来の約半分を実現し、幅広く使われるようになります。2015年には、よりレベルの高いピアノ演奏を望むユーザーに向けて、C.BECHSTEIN(C.ベヒシュタイン)社と音源を共同開発した「CELVIANO Grand Hybrid GP-500BP/GP-300BK」を発売。ピアノを習い始める子どもから、ピアノ演奏を楽しみたい大人、本格的に音楽に取り組みたい方のニーズに応える電子ピアノを揃えることで、カシオは音楽を楽しむユーザーの幅を広げています。
2004年(平成16年)3月
高校生から学んでつくった、衝撃に強いタフな電子辞書
「EX-word XD-L4600」
「XD-L4600」は、高校生を主な対象に開発された電子辞書です。その特長は、衝撃に強い頑丈なボディ。開発の背景にあったのは、「高校生が安心して扱える電子辞書をつくりたい」という思いでした。電子辞書「EX-word(エクスワード)」シリーズの歴史は、1996年の「XD-500」に端を発しますが、高校生からの支持を得られるようになったのは、古語辞典収録モデルを出した2001年頃。ところがその後、高校生が使っている電子辞書が破損するケースが相次いで発生してしまうのです。原因は、高校生による電子辞書の扱い方が想定以上に過酷だったことでした。高校生にもっと寄り添った“衝撃に強く、落としても壊れにくい”電子辞書を──。その思いから開発したのが、堅牢設計タフコット(TAFCOT)を採用した「XD-L4600」でした。また、カシオはその翌年の2005年、ネイティブスピーカーの正確な発音を、肉声に最適化した独自のTRUE VOICE技術を用いて大量に収録した「XD-LP4600」を開発するなど、電子辞書のさらなる進化に乗り出します。頑丈さはそのままに、より“学び”に役立つ製品を届けることを目指していくのです。
2007年(平成19年)8月
クラウド時代を先取りした発想で、売上管理業務を合理化ネットレジ「TE-2500/TK-2500」
「TE-2500/TK-2500」は、電子レジスター本体にVPN(Virtual Private Network)機能を内蔵し、インターネットに直接接続できるネットレジです。直接インターネットに接続できるため、複数の店舗にレジを導入した場合にも、オーナーは各店舗の最新の売上情報をネットワーク上から即座に把握できるようになりました。大規模チェーンストアなどに導入された当時のPOSシステムとは異なり、集計用コンピューターやデータ通信専用回線の導入が不要で、複数店舗の売上管理業務を合理化できることで、POSシステムをオーバースペックに感じる中・小規模の小売店や飲食店から高い支持を得ました。店舗の効率化を支援するという考え方は、1976年にカシオ初の電子レジスター「Σ-50ER」を発売した当時から変わりません。「TE-2500/TK-2500」は、クラウドという言葉が浸透する以前に、クラウド的発想で情報を獲得する機能を搭載し、売上管理業務の合理化を実現したのです。
2010年(平成22年)4月
世界初 水銀フリーで高輝度を実現した新光源を搭載
「グリーンスリムプロジェクター XJ-A145」
「グリーンスリムプロジェクター」は、高輝度データプロジェクターとして世界初の水銀フリーを実現した製品です。水銀フリーであることには、二つのメリットがありました。まず、有害な水銀を廃棄することはなく、新光源が長寿命であることからランプ交換などによる環境への負荷を軽減できること。もう一つは、水銀ランプを使わないことで、素早い立ち上がりを実現するとともに、使用後の冷却も不要となり、“ テレビのようにすぐに使える”という価値を提供したことです。当時、2000ルーメン以上の高輝度を実現するためには水銀ランプを用いることもやむを得ないというのが業界の常識でした。2003年よりビジネス用プロジェクター市場に参入していたカシオも「グリーンスリムプロジェクター」の開発までは、水銀ランプを使用していました。そこで、カシオは水銀フリーと高輝度を両立すべく“クリーン&グリーン”をコンセプトにした次世代プロジェクション光源の開発に着手。レーザーとLEDを組み合わせた独自のハイブリッド光源の開発に成功し、環境への配慮と高輝度の両立を実現したのです。
2011年(平成23年)4月
自撮り専用機へと進化するフリースタイルカメラ
「EXILIM EX-TR100」
「EXILIM EX-TR100」は、自由な撮影スタイルをコンセプトに開発したデジタルカメラです。その最大の特徴は、従来のデジタルカメラとは一線を画す可変フレームデザイン。レンズ部を中心にフレームが360度回転し、モニターも270度回転する斬新な薄型ボディにより、常に持ち歩くことはもちろん、机に置いたり、壁にかけたりと、好きな持ち方、好きな撮り方で写真や動画を撮ることを可能にしました。最初は北米で「TRIX(トリックス)」のネーミングで販売しました。その後、香港の人気モデルが「EX-TR100」で自撮りした写真をSNSにアップしたところ、顔が美しく撮れることが評判となり、中国語で“自拍神器(自撮りの神の機械)”といわれるほど、中国や東南アジアの女性の間で大ヒットしました。「EX-TR100」はその後、自撮り専用機TRシリーズとして進化していきます。こうしたユニークな製品開発の原点には、「QV-10」から続く、「デジタルカメラならではの楽しみ方を広げたい」というカシオの思いがあります。その後、2014年に発売された「EXILIM EX-FR10」は、レンズとモニターを切り離すことで、構えて撮るという常識を覆し、自由自在な撮影を実現。カメラの楽しさをさらに広げました。
2014年(平成26年)7月
過酷な環境でも正確な時刻を刻む
「G-SHOCK GPW-1000」
「G-SHOCK GPW-1000」は、GPS電波受信機能と世界6局の標準電波受信機能を兼ね備えた、世界初のハイブリッド時刻取得システムを搭載した腕時計です。この製品の最大の特長は、世界中のさまざまな過酷な環境でも、“正確な時を刻む”ことに徹底的にこだわったこと。電波時計は、時刻情報を含む標準電波を受信することで正確な時刻に自動で修正してくれるものですが、「GPW-1000」は、標準電波というインフラのない地域でも、衛星からのGPS電波を受信する相互補完の時刻取得システムにより、世界中で正確な時刻を表示します。また、高精度の地図データを時計に内蔵することで、位置情報からタイムゾーンとサマータイムの有無を解析し、時刻の修正に反映します。実は、カシオは1999年にGPS機能を内蔵した腕時計「PRT-1GPJ」を世界で初めて発売しました。アウトドア用ということで現在位置計測機能などを備えるほか、GPS電波の受信により正確な時刻を表示する機能も搭載していました。当時の技術ではサイズや電池寿命など課題もありましたが、“どこにいても常に正しい時刻がわかる”という価値でユーザーに貢献する──そんなカシオの挑戦心は、その後の「GPW-1000」に結集されています。
2016年(平成28年)3月
腕に着ける“タフ”な情報機器で、アウトドアシーンを楽しく
Smart Outdoor Watch「WSD-F10」
Smart Outdoor Watch「WSD-F10」は、水辺や雨天時でも使える防水性と、さまざまなアクティビティに持ち出せるMIL規格(米国防総省が制定した、落下、振動などの試験を行う米軍の物資調達規格)に準拠したアウトドアシーンに最適なリストデバイスです。最大のポイントは、アウトドア用途に特化したこと。スマートフォンの機能が使いたくても使いにくいシーンでは、腕に着用したリストデバイスの必要性が高まります。トレッキング、サイクリング、釣りなどのアウトドアシーンで役立つ多彩なアプリのほか、内蔵のセンサーを用いて自然環境の変化や活動量を計測するオリジナルのアプリもプリセット。プラットフォームにはAndroid Wearを採用しているため、アプリを追加してさまざまなアウトドアシーンに合わせて機能を拡張することも可能です。カシオは1980年代から、脈拍の計測機能でジョギングをサポートする「JP-100」や、気圧の変化をセンサーで感知して天候の予測ができる「BM-100」など、運動やアウトドアに関する情報が得られる多機能デジタル時計を数多く手がけてきました。「WSD-F10」は、これまでに蓄積してきたカシオのノウハウを受け継ぐことで、アウトドアライフをより楽しめるリストデバイスとなったのです。