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コラム|ホテル業界コラム 第2回 競合と差別化で際立つホテルと抱くジレンマ[2024.8.7]

ビジネスホテル

本連載の第1回では、ビジネスホテル総論ともいうべきテーマで深掘り、コロナ禍前のインバウンド活況を起因とした競合ホテルの増加による競争激化から朝食提供などで試みられてきた差別化について一部触れた。また、ビジネスホテルの持つチープさというイメージから、宿泊に特化しつつも「ビジネスホテルと呼ばないで」という声があることを紹介した。

今回はビジネスホテルと呼称されることそのものについてのジレンマについて考察する。
宿泊に特化したホテルはコロナ禍前のインバウンド活況で競争が激化し、差別化の結果として際だったコンセプト下において、デザイン性やサービスの多様化も進み、人気を博する施設も増えた。

リッチモンドプレミア京都四条

従来から知られるブランドもコンセプト性高き施設が目立つ
(リッチモンドプレミア京都四条)

私事で恐縮であるが、2016年11月に放送された筆者出演のTBS「マツコの知らないビジネスホテルの世界」では、もはやビジネスホテルの持つイメージにはそぐわないようなハイセンス、高級感のある“宿泊特化型ホテル”も紹介、大反響となり中には4,000件もの予約が入ったホテルもあった。

とはいえ、番組の企画段階から違和感を抱いていたが、そもそもビジネスホテルの呼称に関する業界のジレンマは、上述の番組も含めホテル評論家として11年弱活動してきた筆者のジレンマでもある。メディア相手の仕事が主立つ筆者にとって、視聴者や読者にフックするワードは重要であり、メディアからもそれを求められる。

ビジネスホテルは宿泊に特化した業態であり、業界では宿泊特化型ホテルという表現も定着しているが、テレビや雑誌の企画で“宿泊特化型ホテル特集”というタイトルはまずありえない。とはいえメディアからは「凄いビジネスホテルを紹介したい」と相談を受ける。ビジネスホテルも多様化しており、もはやそのイメージから離れた宿泊に特化するホテルも増えているので、そうしたホテルの紹介も希望されるのであればビジネスホテル特集という表現は正確ではない、と筆者が説明したところで、やはりビジネスホテル特集というタイトルが付される。

星野リゾート

星野リゾートの“OMO”も宿泊特化型ホテル

それだけビジネスホテルは圧倒的な周知性も併せ持つパワーワードであり、代わる表現は定着していないのが実情だ。
ところで、ビジネスホテルと呼ばれることに対する違和感や代替ワードについて2021年6月にアンケートを取ったことがある。
同テーマについての記事執筆に際し業界関係者の力添えをいただき実現した。以下再掲する。

「ビジネスホテルと呼ばれることについて」という質問へ57件の回答を得た

  • 問題ない26.3%
  • やや違和感を覚える50.9%
  • 非常に違和感を覚える(心外だ)15.8%
  • その他7%

やや違和感を覚える・非常に違和感を覚える(心外だ)で約7割という結果になった。この割合の示すところは、まさに従来のビジネスホテルのイメージとは一線を画す、宿泊特化・宿泊主体ホテルの増加傾向を示しているといえる。

違和感を覚えるという回答者へ「どんなカテゴリー名・呼称が適しているか」について聞いた

  • バジェットタイプホテル
  • リミテッドサービスホテルまたは宿泊特化型ホテル
  • ブティックホテル
  • ライフスタイルホテル
  • 観光ホテル
  • エコノミーホテル、バジェットホテル
  • 非日常系リゾート満喫ホテル
  • 観光客型宿泊特化型ホテル
  • カジュアルホテル
  • コンドミニアムホテル
  • スマートホテル
  • シンプルホテル
  • フォーカスサービスホテル

・・・羅列してみたが様々な表現が登場した。

有名ホテルの公式サイトを確認してみると、「単身寮の運営で積み重ねたノウハウを、惜しみなく投入して生まれたビジネスホテル "ドーミーイン"」「スーパーホテル ホームページ【ビジネスホテル予約】」というように自らをビジネスホテルという。
まさに我々がイメージするビジネスホテルのイメージがあるブランドであろうか。

スーパーホテルの客室

スーパーホテルの客室

ドーミーインEXPRESS富士山御殿場

滞在型など多様化する宿泊特化型のコンセプト
(ドーミーインEXPRESS富士山御殿場)

まさにビジネスホテルといえば、全国最大規模のチェーンである「東横イン」も、自称ビジネスホテルの代表格であったが、「出張、観光、旅行で格安利用ができるビジネスホテル」と表しつつ、近年イメージ脱却とでもいおうかブランディング戦略が活発になっており、脱ビジネスホテルイメージとも評せる「基地ホテル」というブランドコンセプトも掲げている。

とはいえ、なかなか定着しない例はこちらもパワーワードである“カプセルホテル”も同様だ。脱カプセルホテルとして“コンパクトホテル”と掲げたブランドもあった(その後破産申請した)。メディアそしてパワーワードへの依存と脱却について考えるほどに、言葉としてのビジネスホテルの凄さを改めて実感するのだ。

筆者紹介

瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)
ホテル評論家

1971年生まれ。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。

ホテル評論家 瀧澤 信秋

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