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ACTIVITY
達人が語る、トレッキングの魅力
トレッキングの達人、橋谷晃さんに聞きました。
子供からお年寄りまで、年々楽しむ人が増えているトレッキング。人はなぜ、トレッキングに魅了されるのか。ネイチュアリング・スクール『木風舎』の代表で、トレッキングの達人として知られる橋谷晃さんに、トレッキング、そして、山の魅力をうかがいました。(写真提供:木風舎)
「日本の山は奇跡のような存在です」
私が初めてテント泊をしたのは、高校1年生の頃。場所は、北八ヶ岳でした。そこで見た光景が、いまでも忘れられません。真正面にそびえる中央アルプスに、大きな夕日が沈んでいくんです。まわりの山や木をオレンジ色に染めていて、ふと見ると、自分もオレンジ色に染まっていて……。体の中に電流が走りました。「これが自然なのか」と。太陽は、山も木も人も分け隔てなく、みんな平等にオレンジ色に染めます。風だって、みんな平等に吹きます。地図を広げた時、一番目立つのは境界線ですが、それは人間が勝手に引いたもの。自然の中に、そんな線はないんですよね。私の中で“自然”というものの存在が、決定的になった瞬間でした。
それから、遊びに行くといえば、山でした。世界の山々を歩く中で気づいたのは、日本の自然の素晴らしさです。海外の自然は、スケールこそ大きいけれど、どこか大味。でも日本は、同じ山でも木や花の種類が豊富で、いつまで歩いても飽きません。落葉広葉樹が多く、水は豊か。小さな島国なのに亜熱帯気候から亜寒帯気候まであって、この緯度では考えられないぐらい雪も降ります。標高も0mから3776mと、標高差による景色の変化もある。地球上の、奇跡のような島なんです。紅葉が世界一美しいのは、間違いなく東日本。こんなに素晴らしい景色がそばにあるのに、山へ行かないなんてもったいないですよね。
山では、ありのままの自然を楽しんでほしいと思います。大人たちの尺度では「○○山へ行った」「○○mまで歩いた」と、結果や数字を求めてしまいますが、それは所詮、人間の尺度です。なにに感動したのか、きれいだと思ったのか。その気持ちを大切にすれば、山は一生の楽しみにつながります。最後までコースを歩かなくても、気に入った風景に出会ったら、そこでずっとすごしてもいいんです。1枚の葉っぱを見て、美しいと思えること。美しさを共有できる人がいること。その幸福感をぜひ経験していただきたいです。
橋谷 晃
東京・阿佐ヶ谷にあるネイチュアリング・スクール『木風舎』代表。自然を楽しみながら歩くトレッキング、雪の森を歩くスノーシューウォークの国内におけるパイオニア。全国の山や森をガイドするほか、テレビやラジオ、新聞などのメディアでも活躍。『NPO法人自然体験活動推進協議会』では理事を務め、指導者養成の活動にも注力している。代表著書に『トレッキングのABC』、『失敗しない山道具選び』(共に、山と渓谷社)、監修本に『NHKテキスト・チャレンジホビー あなたもこれから山ガール』(NHK出版)など。
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