コラムVol.8 スポーツ用大型器具に関する事故 ―取扱いに注意しましょう―
体育の時間や部活動など、学校生活ではスポーツをする機会が多くあります。大型で重量のある器具を使用することも少なくありませんが、これらの中には使用・保管・運搬等の際にバランスを崩しやすいものもあり、取扱いには注意が必要です。
新学期を迎えたこの時期、進級や進学を機に新たに部活動に参加するなど、スポーツを巡る環境が変わる人もいるでしょう。そこで、防球ネットやゴールなど主に大型のスポーツ用器具について、事故を防ぐためにはどのような点に注意すればよいのかを、学校生活における事故事例とともにお伝えします。重大な事故になりかねない危険が潜んでいることを念頭に、日頃から十分な安全管理に努めましょう。
スポーツ用大型器具による事故事例
学校生活に関連して起きたスポーツ用大型器具関連の事故事例をご紹介します(※1)。
事例からも分かるように、スポーツ器具にはその種目に携わる人だけが触れるとは限りません。体育館やグラウンドなど、様々な人が立ち入る場所に置かれた器具の場合、他の種目の競技者が取り扱うこともあれば、本来の使用目的とは異なる使い方がされることもあるかもしれません。設置や保管等の際には、そのような状況も想定しておくことが必要です。
- 部活動中、高さ・横幅のある移動式防護ネット(折り畳み式)が、複数の部員による移動作業中に倒れ、うち1名がその下敷きになり、頭部外傷を負った。意識不明の重体。(高校生)
- 部活動で使用したバッティングケージを生徒3名で移動していた。風にあおられケージが倒れそうになったため、別の生徒1名が支えにいったところ、倒れたケージの下敷きになり、救急搬送された。頭部外傷。(高校生)
- バレーボール部の活動後、後片付けのため学校の体育館倉庫の引き扉を開けようとしたところ、倉庫内に立て掛けていたバレーボール用の支柱が倒れ、生徒の足に当たった。左第4、5趾の機能を失った。(高校生)
- 体育の授業でサッカーをしていた際、児童が、自陣が得点したことに喜び、サッカーゴール(ハンドボール用ゴール)のネットにぶら下がってバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。直後にゴールポストが転倒し、うずくまっていた児童の肩や背中を圧迫した。救急移送されたが、同日死亡した。(小学生)
- バスケットボール部のウォーミングアップ中、運動場でハンドボール用ゴールのバーにぶら下がったところ足がネットに引っかかり、ゴールごと転倒した。右前頭部をバーで強打し、右眼を失明した。ゴールは、杭等で固定されていなかった。(中学生)
【ゴール等へのぶら下がり】~転倒実験結果から~※
サッカーゴールが転倒したときの衝撃力や、どの程度力がかかるとゴールが転倒するかを計測した実験があります。この実験では、例えばアルミ製のサッカーゴールを倒した場合、地面とゴールに挟まれた人体が受ける衝撃力は約1.9tの力であることが示されました。これは、人の頭蓋骨が折れるといわれている力(約350kg~500kgの力)の数倍にあたります。また、ゴールの転倒については、中学生1人がぶら下がって揺らしただけでも転倒するおそれがあることが明らかになっています。
※(独)日本スポーツ振興センターの資料等(※2・3)を参考に消費者庁で記載
取扱いのポイント
スポーツに関わる事故は、種目の特性、競技者の特性、施設の立地や設備・器具の状態など、様々な要因が組み合わさって起こります。事故の防止には、関係する全ての人が安全に関する知識と理解を深め、これを実践していくことが求められます。器具についていえば、十分な安全性能を備えた製品の選択、取扱説明書に沿った取扱い、日頃からの点検・整備、適切な保管・管理の徹底などが大切です。スポーツを安全に楽しむために、以下を参考にしてください。
- 共通
- 器具の扱い方を確認し、注意事項等を遵守する
器具には、安全に扱うための注意事項があります。新しい器具はもちろん、使い慣れた器具であっても、取扱説明書や器具本体に貼られている注意シール等を確認し、記載事項を遵守しましょう。このほか、ヒヤリハットを含めた事故情報を知ることも、安全な扱い方を学ぶ上で役立ちます。
これらの事項は、取り扱う人全員に共有されていることが大切です。部員の入れ替わりなど取り扱う人に変更がある場合には、改めて注意喚起するようにしましょう。 - 指導者や管理者の下、その指示・指導に従って取り扱う
指導・管理にあたる人は、器具が正しく組み立てられているか、劣化はないか等を前もってチェックしておきましょう。不具合が見られるものは使用を控えてください。
取り扱う人は、指導者等の指示を守りましょう。器具の不具合等に気づいたときは、使用をやめて、すぐに指導者等に報告してください。
万が一の事故に備えた対応(応急手当や報告体制等)の確認もしておきましょう。 - 安全確保に足りる十分な人数で取り扱う
大型の器具は非常に重く、器具の転倒や落下により身体が挟まれると大きなけがに繋がります。取扱説明書の記載等を参考に、安全を確保できる十分な人数で取り扱うようにしましょう。 - 適切にメンテナンスする
ネットが破れている、支柱が傷んでいるなど、器具に劣化や不具合が見られる場合は使用を控え、修繕・修理や買い換え等を検討しましょう。器具の耐用年数等を踏まえ、適切なメンテナンス計画を立てておくことは有用です。
- 器具の扱い方を確認し、注意事項等を遵守する
- 運搬・設置・使用時
- 事前に運搬経路や設置場所の安全確認を行う
地面の状態・通路の幅など運びやすい経路を選び、平坦な場所に設置しましょう。特に、慣れない器具、慣れない場所では注意が必要です。運搬経路や設置場所等を下調べするなどし、安全が確保できるかきちんと確かめましょう。 - バランスが取れない状態での無理な運搬・設置・使用は避ける
強風などの悪天候時、運搬・設置をする人同士の力や体格に差があるような場合などは、器具のバランスが失われがちです。互いに声を掛け合いながら慎重に運搬・設置するようにしましょう。不安定な状態のまま無理に運搬・設置したり、使用したりすることは危険ですのでやめましょう。 - ぶら下がらない、跳びつかない
器具本来の使い方とは異なる力がかかると、器具が転倒するおそれがあります。誤った使い方をしているような場合には、危険なのでやめるよう声を掛けましょう。 - 設置時は、転倒しないようしっかり固定する
強風などの予期しない荷重にも耐えられるよう、器具は杭などでしっかりと固定しましょう。製品に杭などが付属されていれば活用してください。固定方法が分からない場合は、メーカーに問い合わせてみましょう。
- 事前に運搬経路や設置場所の安全確認を行う
- 保管時
- 適切に固定するなど器具の安定を確保する
保管時にも事故は起きています。保管場所によっては、普段その競技に関わらない人が取り扱うこともあるかもしれません。器具の思わぬ転倒・落下の危険がないか等、保管場所や保管方法について今一度見直してみましょう。
- 適切に固定するなど器具の安定を確保する
- ※1:事故情報データバンク:消費者庁が(独)国民生活センターと連携し、関係機関から「事故情報」「危険情報」を広く収集し、事故防止に役立てるためのデータ収集・提供システム(平成22年4月運用開始)。
- ※2:(独)日本スポーツ振興センター「ゴール等の転倒による事故防止対策について」(平成29年度スポーツ庁委託事業 学校における体育活動での事故防止対策推進事業)
- ※3:編集代表 望月浩一郎ほか「これで防げる!学校体育・スポーツ事故 科学的視点で考える実践へのヒント」pp.25-28(中央法規出版、2023年)
- (参考)
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- 文部科学省「学校事故対応に関する指針【改訂版】」(令和6年3月)
- (独)日本スポーツ振興センター「災害共済給付Web」
- (一社)スポーツ用品工業協会・(公財)日本スポーツ施設協会 施設用器具部会 企画編集・発行「事故防止のためのスポーツ器具の正しい使い方と安全点検の手引き 改訂第4版」(体育施設出版、2022年)
担当:消費者安全課