小さな命の灯、絶やさぬように……小児救急を守る「最後の砦」の理想と現実
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小さな命の灯、絶やさぬように……小児救急を守る「最後の砦」の理想と現実

国立の専門病院がネットで広く寄付を募る真意とは。

重い病気やケガで、一刻を争う状況の子どもたち。その命を救う「最後の砦」になるのが、国内の小児科病院の拠点である国立成育医療研究センターです。24時間365日、全国から子どもが運び込まれます。

そんな救急搬送の現場を、見学させてもらいましょう。今回、注目したのは医師の乗るドクターカー。119番通報ではなく、クリニックや総合病院からの要請で出動し、到着直後から治療を開始します。まずは患者さんを迎えに行く準備。

小児の重症患者は1000人あたり約1.4人。多くはありませんが、それだけに対応できる医師の数も少なく、どんな病院でも命を救えるわけではありません。そこで、ドクターカーの出番です。

通常は医師2名と看護師1名で1チーム。特殊な搬送では、機械担当の技師が加わったり医師を増員したりするそうです。

準備ができたら、出発です。昨年1年間で、約500人の小児の重症患者がドクターカーで救急搬送されました。

現場に到着。車内から現場と情報共有をしておいて、スムーズに引き継ぎ、同センターに戻ります。このように、治療を継続したまま搬送できるのが、ドクターカーの利点です。それにしても、さすがにちょっと、狭そう……。

受け入れるセンター側も、ドクターカーが帰ってくるまでに、慌ただしく準備をしていました。

小児の重症患者が到着。ドクターカーの中では難しい、より高度な治療もできるようになりますが、油断は禁物。

スタッフによる懸命な処置の結果……、このお子さんは無事に退院できたということです。

子どもはドクターカーだけでなく、ヘリコプターや民間のジェット機で近くまで運ばれることもあります。こちらは2016年7月におこなわれた肝移植手術で連携した、航空自衛隊・航空機動衛生隊の乗る輸送機。

3人の重症患者を収容したユニットを、輸送機1機につき、一度に2台空輸することができます。

内部の様子です。1ユニットにつき、医官を含む4人1組で出動。ドクターカーのように、治療しながら搬送できます。

今でこそ、充実した体制の同センターですが、かつて搬送に利用していたのは、なんとタクシー。タクシーに器具や機械を積み込み、小児の重症患者の元に向かっていたのです。もちろん、この中でできることは限られます。

座席の合間に積み込まれる担架。試行錯誤を重ねてこの方法に行き着いた、と当時を知る医師。

当時、タクシーの運転手さんにも、自然と救命チームの一員という意識が生まれていたとか。

現在のドクターカーを使い始めたのは、2012年からと、ごく最近。同センターのOB医師が、ドクターカーを病院に「寄付」したのだそう。自身も開業直後で決して豊かでない中、小児救急医療の発展のために、私費で寄贈したといいます。

以来、たくさんの子どもの命を救ってきたドクターカー。しかし、車内が狭いため、医師が患者の両側に立てず、容体が急変した際に対応できない、という問題もあります。車内に置けない機器もあり、伴走車が必要な場合もあります。

そこで、同センターはネット経由で広く寄付を募るクラウドファンディングを実施。新しく高規格なドクターカーを購入するための支援を呼びかけています。必要な費用は1500万、支援は3月9日までで、集まった金額がドクターカーのために使われます。

「小児救急は小児科・救急科・集中管理など、複数の領域にまたがる高い専門性が求められます。国内にもそれを担える施設がまだ少なく、教育プログラムと搬送システムの確立が必要です」(同センター救急診療科・植松悟子医長)