モデルハウスの外観。
出典:アダストリア
アパレル大手のアダストリアが、住宅ビジネスに参入する。
アパレルも展開するブランドでは、良品計画の子会社MUJI HOUSEが「無印良品の家」やリノベーション事業を手掛けるが、IPライセンス事業とすることで独自の形を打ち出した。MUJI HOUSEは自社で住宅建築から販売まで手掛けるが、アダストリアは雑貨や家具も扱う主力ブランド「niko and ...(ニコアンド)」の世界観を表現した住宅の意匠や住宅商品、販売ノウハウを知的財産として販売する。
まずは年間5億円。他ブランドへの展開も視野
アメリカの東海岸をイメージしたニコアンドの店舗内装に沿ったリビング。
撮影:土屋咲花
「ニコアンドは服だけでなく家具や雑貨なども扱い、複数のカテゴリーからお客様に一番近いものを選ぶ編集力が非常に強い。その編集力を生かして住空間を豊かにしようと、この取り組みに至ることになりました」
ニコアンド営業本部長の星野明執行役員は、新事業についてこう説明した。
新事業は「niko and ... EDIT HOUSE (ニコアンド エディットハウス)」の名称で、全国の工務店や住宅メーカーにライセンスを販売する。不動産関連事業を手掛ける「リブワーク」のグループ会社「リブサービス」(熊本県)と提携し、同社が販売を担う。
一般的な住宅フランチャイズでは住宅が1棟売れるごとに住宅メーカーはロイヤルティを支払わなければならないが、同事業では不要とした。指定の建築構造材の購入も義務付けない。住宅販売価格も加盟事業者に委ねるなど、制約を減らして加盟しやすさを重視した。
販売権を取得する住宅メーカーなどは加盟時に許諾一時金200万円が必要になるのほか、月額55万円(販促物使用料含む)の使用料を支払う。加盟事業者は1都道府県当たり最大3社を基本とする。
リブサービスの難家嘉之社長は価格の妥当性について
「広告費とお考え下さい。例えばタレントを起用した集客プロモーションやブランディングという手法もありますが、最近は差別化や集客になりにくくなっているのではないかと思います。月額55万円で集客や成約につながるのは魅力的な数字なのではないか」
と話す。
アダストリアは、ニコアンドのIPライセンス事業で年間5億円の売り上げを目指す。まずは新築戸建てからスタートするが、今後は市場の成長が期待できるリノベーションや、アパートにも参画していくという。
将来的にはstudio CLIP(スタディオクリップ)やBAYFLOW(ベイフロー)など他ブランドへの展開も見込み、数十億円規模の事業に成長させる計画だ。
「ニコアンドの家」は集客力4倍
外壁と床に相反する素材を使い、ニコアンドの世界観を表現した。
撮影:土屋咲花
ブランドのエッセンスを取り入れた住宅販売には既に実績がある。リブワークは2020年から、ニコアンドとコラボした住宅を販売している。イオンモール福岡内にあるモデルハウスでは、同社の総合展示場の来場者数と比べて4倍集客できた、初年度の受注数は45棟に上った。初年度の受注は通常「20~30棟あれば合格点」(難家社長)という。
難家社長は
「マーケティング会社との調査では、(ニコアンドは)若い方からのブランド認知度が非常に高く、印象も良かった。まさに住宅の一次取得者層と言われるお客さんにばっちり合った商品だと思います」
と力を込める。
公開された千葉県のモデルハウスは、国内に143店を展開する「ニコアンド」の店舗内装の要素を盛り込んだ。壁面に冷たく硬い印象のあるモルタルと、温かみのある木を使用するなど、相反する印象の素材を組み合わせる点などがブランドの世界観という。
モデルハウス内の家具類は、ほぼ全てニコアンドの商品。実際に販売する住宅には家具類は備え付けられていないが、ニコアンドで20万円分の商品購入ができる権利を購入特典とし、販売につなげるという。
ライセンス契約した事業者はニコアンドプロデュースのモデルハウスを建て、その住宅を起点に集客や販売を進めていく。既に3社ほどから引き合いがあり、いずれも地方のメーカーだという。
新築着工数は6割弱に減少
モデルハウスのキッチン。
撮影:土屋咲花
野村総合研究所によると、新設住宅着工戸数は2021年度の87万戸から、2040年度には約6割の49万戸まで減少することが予測されている。住宅総合展示場への来場者数は減少傾向で、住宅購入者を対象にしたアンケートでは、購入前にモデルハウスを見学し、比較検討した社数は2.8社にとどまった。
難家社長は
「昔は住宅展示場で7〜8社見学されるのが普通でしたが、デジタル時代になり、事前に情報を調べて来られるお客さんが非常に増えました。よって、見学する2、3社にまず選ばれなきゃならないという厳しい時代になったということになります」
と話す。
リブサービスは「ニコアンド エディットハウス」が顧客に新たな価値を提供し、差別化につながると期待する。
アパレルから「コミュニティ共創」企業へ
ニコアンド営業本部長の星野明執行役員。
撮影:土屋咲花
アダストリアは創業70周年を迎え、アパレル企業から「グッドコミュニティ共創カンパニー」への変化を掲げている。今回の新事業はその一つだ。
元々、ニコアンドはアパレルだけでなく雑貨や家具など幅広い商品を持ち、ライフスタイルの提案を行ってきたブランド。カフェ事業も手掛け、同社の30超のブランドの中で最も多様な領域に展開している。
星野役員は、
「ニコアンドは会社が大きくなるときに先陣を切り、スモールビジネスを早期に成功させるミッションを持っていると考えています。IPライセンスビジネスは特にブランドの求心力が必要。今後もブランド力を強化するための進化を続けたい」
と話した。