総務大臣賞(一般部門)
「防災と備えの絵本」の制作等地域防災力向上のための活動
大日通周辺地区まちづくりを考える会(兵庫県神戸市)
事例の概要
■内容
未曾有の被害を受けた、あの阪神・淡路大震災の経験から、「災害時に住民が力を合わせるためには、日頃の人と人とのつながり、人の輪、地域の人が一体となることが重要である」ことを学んだ。これが、地域による自主防災の土台であり、かつ地域防災力を向上させていくために不可欠な要素である。
このような考えのもと、地域の防災力向上のために各種の活動に取り組んでいる。
- 1.「防災と備えの絵本」の制作(7カ国語版を目標:現在日本語・英語・インドネシア語版を刊行)
震災体験から「当時役立ったこと」、「今後必要なこと・必要な情報」などを地元商店街の買い物客にアンケートを実施し、これを地元デザイナー学院の学生や市の協力を得て、未来の防災の担い手である子供たちに託すメッセージとして「絵本」を制作し、全国の自治体等に寄贈した。その後、神戸は外国人が多く居住することから、まず英語版を制作し、続いてインドネシアからの留学生の「母国の子供たちにも」との要望に応え、インドネシア語版1,800部をインドネシア政府に寄贈した。インドネシアでは、現在、小学校での防災教育に使用されている。現在4カ国語目であるポルトガル語版制作の準備を進めている。 - 2.「必ず役に立つ防災カード」の制作
震災体験者である地域住民からのアンケートをもとに、児童生徒等に伝えたいことを生徒手帳に入る大きさで「必ず役に立つ防災カード」として30,000枚制作し、地域の児童生徒等に配布した。また修学旅行で「震災を学ぶ」ため神戸を訪れる生徒達へも配布している。 - 3.希望の輪「千羽鶴プロジェクト」
震災10年の節目に、子供たちに震災をあらためて考えてもらい、将来につないでいくことを目的に心をこめて一人一羽折鶴を折ってもらう「千羽鶴プロジェクト」を実施した。マスコミにも取り上げられたことから、全国にその輪がひろがり、最終的に21万5千羽の鶴が集まった。
この千羽鶴で神戸をイメージした絵を作り、この絵は震災を思い起こす「モニュメント」となり、国内各地だけでなく、米国のシカゴにまで貸し出された。(現在も各種のイベントに活用) - 4.「宝島ネットワーク」の創設(現在新たに取り組んでいる事業)
現在、行政(兵庫県・神戸市)、特定の事業所の支援を得ながら各種の事業を展開しているが、今後、活動を確実に継続させていくためには、自給自足の自主運営体制が必要であると考えている。
現在、「考える会」の支援・連携48団体(小中専門学校・商店街・病院・介護施設・事業所・婦人会・PTA・郵便局・商工会議所等)の得意分野(支援・協力いただける内容)を一括登録・管理し、各種イベント、防災訓練等を実施する際に、資機材・運搬車両の提供、人的負担、広報、救護、場所の提供、ボランティアの受付窓口等それぞれ得意分野での協力をいただき、自給自足の自主運営できる体制づくりを進めている。この体制を「宝島ネットワーク」と名付け、現在、23団体から理解を得ている。
この「宝島ネットワーク」を確立することにより、自主運営で、かつ継続的な活動が容易となり、またより緊密に連携の取れた活動ができるのではないかと考えている。 - 5.その他の事業
1月17日の阪神・淡路大震災メモリアル「鎮魂火」の実施、震災を学ぶ修学旅行生の受け入れ、地域児童等の避難訓練の支援等の活動を行っている。また、これまでの活動経験をもとに、会長が「まち」の先生として、小学校での授業も担当している。
「ふれあい広場」のクリーン作戦
保育園児の避難所への誘導
「防災と備えの絵本」インドネシア語版制作に伴う打合せ
「防災と備えの絵本」
インドネシア留学生による「インドネシアを知る」授業風景(「防災と備えの絵本」のインドネシア語版贈呈に伴う)
「防災と備えの絵本」(インドネシア語版)をインドネシアに贈呈したことに対してインドネシア総領事による感謝状の贈呈
「希望の輪 千羽鶴プロジェクト」(おりがみ教室)
震災を学ぶ修学旅行生の受入れ
手作りによる「阪神・淡路大震災メモリアル鎮魂火」
苦労した点
組織の中心的役割を商業者が担っていたため、当初は、商業の、「立ち直り」や「活性化」のためにしているのではないか、それに利用されるだけではないかと疑われ、なかなか協力を得られなかった。 しかし、震災直後の「炊き出し」、「行政からの情報を『まち』へ伝達すること」、「シルバー世代ヘのケア」等細々ながら自分たちにできることを背伸びせずにコツコツやっていこうと取り組んできた結果、2年を経過したころから、徐々に理解を得られるようになり、ようやく平成11年4月から本格的な組織として活動できるようなった。 当初、5団体で立ち上げたが、現在計48団体で運営できるまでになった。
特徴
背伸びをせず、手の届くところから少しずつ活動を進めてきたため、8年前から取り組んできたことが現在も続いている事業がたくさんあり、この継続していることが信頼に繋がり、現在48団体と連携している。この「継続」が信頼を生み、「信頼」が更に大きな力となって新たな活動を容易にしている。
特に、地域内の小、中学校との連携は強く、会長が小、中学校の学校評議員を引き受け、県教育推進委員にもなっているので、学校の悩み、危機感を共有できる立場にあり、「考える会」からの提案に対しては、いつも学校側から快諾を得、かつ各種活動には、授業の一環として、生徒児童の意欲的な参加となっている。
また、これまでの活動が地域のための防災活動にとどまらず、広く神戸を訪れる子ども達に対しても防災の効果をあげており、さらに活動の成果が海外での防災にも生かされている。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 澤井 安勇((財)日本防炎協会理事長))
神戸市中央区の大日六商店会は、阪神・淡路大震災で店舗の8割が全半壊し、多くの犠牲者を出した。その経験をふまえ、災害時に住民が力を合わせるためには、日頃からの人と人のつながりが重要であるとの認識から、8年前に地元商店会、婦人会など5団体による「大日通周辺地区まちづくりを考える会」が立ち上がり、現在、商店街、住民、学校、地域企業など48団体が参加する広範なネットワークが形成され、その活動も、震災直後の炊き出し、高齢者ケア、鎮魂イベント「鎮魂火」から、震災体験を広く子供たちに伝えていくための「防災と備えの絵本」(日本語版、英語版、インドネシア語版が完成、現在ポルトガル語版を製作中)や「防災カード」の製作、「千羽鶴プロジェクト」、特別養護老人ホームへの「出張市場」、小学生の放課後の居場所づくりなどきわめて多彩なものとなっており、さらに、現在は、ボランティア活動と連動した「地域通貨」事業の準備にも入っている。
「考える会」の活動は、NPO法人化もしていないインフォーマルな連帯組織であり、当初から会長を務める地元商店主の城戸氏を中心とした関係者の人的なつながり・交流によって支えられているものであって、今回の取材を通じて、信頼・互酬性の規範・ネットワークに基く人間関係の絆、すなわちソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の存在を強く感じさせられた。未曾有の大震災の共通体験を求心力として再生された新しい形の目的志向型のコミュニティ組織とも考えられるが、そのネットワークのコアを担っているのが地元商店街であることは、今後の地域商店街と周辺地域との協調関係などの面で様々な示唆を与えてくれる事例でもある。震災後、商業的には衰退化が目立つ大日6丁目商店街であるが、こうした活動を通じて、関係機関・団体などのサポートも得ながら新しいコミュニティ・サービスの担い手として地域の中心的役割を担い、さらなる賑わいを取り戻す推進力として健闘されることを切に願う次第である。
団体概要
当初、大日六商店会(30社)、大日商店街(50社)、春日野商店街(30社)及び春日野婦人会(250名)・宮本婦人会(250名)の5団体で「大日通周辺地区まちづくりを考える会」を立ち上げたが、現在これらを含め計48団体(小中高学校・保育所・事業所・郵便局・医療機関・介護施設・PTA・商工会議所等)で運営している。
実施期間
平成11年~