消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
12歳教育推進事業
12歳教育推進事業実行委員会
(愛媛県西条市)
事例の概要
■経緯
平成16年の台風災害では、予想をはるかに超えた土石流や洪水により、死者5名、家屋被害123棟(床上、床下浸水含まず)、災害復旧額約170億円という未曾有の被害をもたらした。
このような教訓を踏まえ、市では防災に強い街づくりを行ってきているところであるが、人生の節目の一つである小学校6年生(12歳児童)に体験学習等を通して、より確かな社会性を身に付けさせ、将来の西条市を担う若者を育成することを目的に、「12歳教育推進事業」を平成18年度から実施している。
■内容
- 1. 目的
- (1)小学校の集大成として、防災を切り口として広く社会に目を向けさせ、各種体験活動を通して防災に関する知識・技能、より確かな社会性を身につけさせる。
- (2)市内26校の代表児童が一堂に会し、各種体験活動等による防災学習、サミット時での意見交換を行うことにより、将来の西条市を担う若者(リーダー)の育成を図り、学校、地域と連携した防災学習に取り組み、西条市全体の防災意識の高揚を図る。
- 2. 対象
市内26小学校6年生の中から代表児童60名が参加 - 3. 行事
- (1)子ども防災キャンプ
災害から生きのびるために必要なことをつかもうと、1泊2日で防災に関する各種体験を通して、防災に必要な知識・技能・心構えについて考えた。
(煙体験、起震車体験、初期消火体験、土石流3Dシアター、土石流体験、降雨体験、非常食体験、ダンボールハウスづくり、炊き出し訓練、DIG(図上訓練)、救急法講習、先輩に学び自分たちの課題作り等) - (2)子ども防災サミット
- ・子ども防災キャンプに参加しての感想や学校や地域にどのように広めたか発表
- ・実践事例の発表
- ・パネルディスカッション 等
- (1)子ども防災キャンプ
災害伝言ダイヤル
オリエンテーション
初期消火訓練
炊き出し訓練
救急法講習
降雨体験
第3回(平成21年度)防災サミット
苦労した点
平成18年度当初は、手探りの状態からのスタートであった。当時、本事業のような活動は近隣市町村にも例がなく、軌道に乗せるまでには事前準備にかなりの時間と労力を費やした。
平成20年度から夏休みに防災キャンプを取り入れている。サミット代表児童が1泊2日間、学校の体育館に宿泊し、各種体験メニューを行っている。この体験メニューの準備について、総務部や消防、NTTへ協力を依頼し、また国土交通省から降雨体験、3Dシアター等の器具を借用して代表児童に体験させている。暑い時期での活動となるため、児童の健康観察には特に注意している。
特徴
「子ども防災キャンプ」においては、夏休みに1泊2日で開催している。参加した児童や関係者は猛暑のため体力的に消耗したが、災害時に避難所となる体育館で一晩過ごす体験を通し、避難所生活には何が必要か、また、各種防災体験で災害を知り、自分の命は自分で守るためには普段からどのような対応をすべきか等、意識の向上が見られている。キャンプ終了後はまとめを作製し、各校に配布している。
各学校では6年生を中心に全校で防災学習を取り入れ、タウンウオッチングや防災キャンプを実施する学校も見られ、地域と学校が連携して行う防災学習が活性化している。
「防災サミット」は、各学校での取り組み等の情報を共有することにより、代表児童が得たものを各学校で広め、各校でそれぞれ学習を実施している。また第3回目の防災サミットでは、市内全小学校の6年生児童が一堂に会し、防災を考える機会を持つことにより、レベルアップにつながっている。「知る」、「つかむ」、「伝える」を実践し、学校全体、地域にも広め、西条市全体のレベルアップに努めている。
委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 吉田 忠((財)日本防火・危機管理促進協会常務理事))
平成16年の台風による被害をきっかけとして、小学6年生の防災意識を高めるために積極的に教育の中に組み込み実施されている。
8月の子ども防災キャンプでは、数多くのメニューが用意されている。また、実施に当たっては、最初に学校ごとにテーマを掲げて、初期消火体験、起震車体験、災害伝言ダイヤル、野外炊飯、図上訓練、土石流体験などで、学ぼうと欲すること、分かってきたこと、今後何を行っていくことが大切かなど、「これから実践していこうとすることを見つける」ために各人が希望したテーマに沿ってメモをとり、体験の内容がまとめられている。
各人が感じたことを体験項目ごとにまとめ、防災教育としてその成果を子ども防災サミットとして、自主的な発表につなげている。
子ども防災サミットは3回実施し、7月の第1回は「学びたいことの発表」、12月の第2回は「防災キャンプ以降の取り組みまとめた提案の発表」、2月の第3回はパネルディスカッションを行い「子ども防災サミット宣言」として自ら実践できる防災対策として考えたことを宣言文として発表されている。
自主的な提案では、今日からできる防災準備の提案、安全に避難する方法の提案、避難所生活で役に立つものの提案、自分に合った非常持ち出し袋の提案、睡眠中の強い地震時に身を守る対処法の提案など、ユニークな内容がそれぞれ考え出されていると感心しているものである。
また、これらの内容は、国連国際防災戦略(UNISDR)として2010-11年の防災キャンペーンの活動の中で、世界の地方公共団体が災害リスクの軽減に取り組んだ優良事例として採用されるとともに、世界の14件の事例集の表紙を飾っている。
早い段階で数多くの防災体験や、その体験を通して自分たちで実施すべき防災を自主的に考え発表することは、「安きに居りて危うきを思える」ことを子どものころから実践することに繋がって大変良いことであり、大いに模範になる内容と深く感銘した次第である。
小学生への防災意識の高揚のために、今後全国的に広がっていくことを期待しているものである。
団体概要
12歳教育推進事業実行委員会
市内26小学校の6年生児童1,153名
(児童数は平成22年5月1日現在)
実施期間
平成18年~