災害時の電線を守る予防伐採に「費用負担」と「役割分担」の壁|記事一覧|企業・自治体向け防災情報メディア「防災ニッポン+」読売新聞

災害時の電線を守る予防伐採に「費用負担」と「役割分担」の壁

写真説明:台風15号の直撃を受け、損傷した電線の復旧作業にあたる作業員ら。強風による倒木や飛来物が原因で電柱や電線が多数損壊し、大規模停電の長期化につながった(千葉県山武市で、2019年9月19日撮影)

房総半島台風5年 備えはいま④

千葉県いすみ市の市道で2024年8月下旬、樹木の伐採が行われていた。枝葉の近くには、病院につながる電線もある。作業員が高所作業車に乗り、ハサミを入れていた。
いすみ市内では2019年9月、台風15号(房総半島台風)で最大1万1000戸が停電した。暴風で倒れた樹木が電線を巻き込み、電線が切れ、電柱が損壊するなどしたためだ。10日間も電気が通じない地域もあった。

予防伐採の財源確保に苦慮

市は電線の切断などを防ぐため、2020年度から予防伐採を進めている。所有者の同意を得て、これまでに約50か所で伐採を進めてきた。
ただ、毎年3000万円程度を支出しており、財源確保に苦慮している。「財源は限られ、なかなか先に進まない。所有者の特定にも手間がかかる」。市の担当者は現状を打ち明ける。

被害の7割は倒木や建物の崩壊が原因

房総半島台風の当時、東京電力管内で破損、損壊した電柱は2000本ほどに上った。このうち、倒木や建物の倒壊による被害が7割を占めた。
私有地の樹木は本来、所有者に管理責任がある。とはいえ、住民の高齢化や転出によって管理が行き届かなくなるケースもあり、倒木を招く結果となった。

「サンブスギ」が被害を拡大

千葉県特有の事情もある。戦後の木材不足に応える形で植えられたサンブスギは、幹が腐ってゆがむ「溝腐病」にかかりやすく、倒木被害を拡大させる一因になった。

写真説明:いすみ市内では、電線に近い樹木の枝葉が刈り取られていた(2024年8月28日)

東電と計画的樹木伐採で協定

房総半島台風を教訓に、千葉県は2020年7月、東電側と協定を結び、計画的な樹木伐採を進めることで一致した。ただ、予防伐採を巡っては役割が明確化されておらず、協議は難航している。県の担当者は「所有者や電力事業者、市町村、県で連携して進めるのが望ましいが、費用負担や役割分担の整理が難しい」と語る。
東京電力パワーグリッドは経済産業省の基準に基づき、電線の周囲2mの範囲で植物を伐採している。しかし、あくまで風などで電線に触れないよう保安するのが目的だ。森林には高さ20mを超える木もあり、倒木から電線を守るには、踏み込んだ対策が必要だ。

国の補助金…承諾得られないケースも

このため、県は国の補助金メニューを活用し、台風被害の大きかった市町村の森林整備を後押ししている。2023年度までの4年間で約2億円かけて県内14市町の約30haで対策を終えた。
しかし、国のメニューでは伐採後に植栽が求められるため、使い勝手は悪い。農地や民家周辺では適用できないなど制約も多い。
千葉市では県の支援を受け、2024年度末に約10haの整備が完了する見込みだ。支援の枠組みでは、伐採後10年は森林として管理する必要があるため、太陽光発電の用地への転用を検討する所有者からは伐採の承諾が得られないケースもあったという。

この記事をシェア

記事一覧をみる

防災ニッポン+ 公式SNS
OFFICIAL SNS

PAGE
TOP