写真説明:能登半島地震で建てられた仮設住宅では、暑さ対策で住民にかき氷が配られた(2024年6月15日、石川県珠洲市で)
能登半島地震から学ぶ南海トラフ地震への備え③
能登では災害関連死が犠牲者の2割に
地震の揺れや津波から助かっても、その後の避難生活で体調を崩すなどして亡くなる「災害関連死」。能登半島地震では、石川県輪島、珠洲両市など5市町で3日までに計70人が認定され、全犠牲者(299人)の2割強になった。同県は「関連死をこれ以上出さないよう、仮設住宅などの見守りを強化する」(危機対策課)としている。
珠洲市内25か所に建設された仮設住宅約980戸(5日現在)には、一人暮らしの高齢者も多い。市社会福祉協議会が運営する「珠洲ささえ愛センター」の職員や看護師らが訪れては健康状態を聞き、必要なら病院など関係機関に連絡する。「血圧も測ってくれるし、ありがたいねえ。誰かとしゃべるだけでも気持ちが楽になる」。70歳代の女性が感謝した。
塩井豊・同協議会事務局長は「近所との付き合いが変わり、外と関わりを持たない人もいるので顔を出してつながりを保つ。アルコールに依存していないか、薬を飲んでいるのか。訴えをよく聞くことで災害関連死を未然に防ぐ」という。
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熊本地震では全犠牲者の8割
災害関連死は阪神大震災(1995年)で初めて対策が求められ、熊本地震(2016年)では218人と全犠牲者の約8割を占めた。
高知防災プロジェクト代表の山崎水紀夫さんは「自宅などにとどまる人の被災状況は見えにくく、支援が手薄になる可能性がある」と指摘。「被災後に住民のつながりが分断され、地域の担い手も少なくなるなか、外部からの支援も受け入れながらコミュニティーを再構築していくことが重要になる」
高知県では条例制定が5市町にとどまる
災害関連死の認定は遺族らの申請をもとに医師、弁護士らでつくる審査委員会で議論され、因果関係が認められると災害弔慰金が支給される。国は審査会設置を条例に定めるよう求め、市町村の努力義務としているが、県内では5市町にとどまるという。2024年6月の南海トラフ地震対策推進本部会議で明らかにされた。
黒潮町は2019年12月に審査会設置を規定。能登半島地震を受けて委員の委嘱を急ぐ。2024年4月に震度6弱の地震があった宿毛市は2024年度中に条例を改正する方針。一方、高知市は条例規定はないが、南海トラフ地震で多数の関連死が懸念されるため、桑名龍吾市長は「必要性は感じており、前向きに検討したい」。
認定が遅れると、その後の生活再建にも影響する。県子ども・福祉政策部の西森裕哉部長は「申請があった場合には、速やかに認定できるよう市町村と体制を整える」と話す。
関連死の防止、迅速で適正な審査……。南海トラフ地震に備え、さらなる対策が急がれる。
(読売新聞 2024年7月8日掲載 「備える 能登から南海トラフへ(下)」 高知支局・石渕譲、古谷禎一)
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