ここ最近はコードを書いている時間がかなり長かったのですが、学んだ事をまとめるために昨年を少し振り返ってみました。
ほとんど技術的な内容はない雑記です苦笑
- なぜ同じ組織でも人によって重要と思う領域は大きく違うのか
- エスタブリッシュな世界もテクノロジーが混ざって再構成が起きる
- 今と未来との視点がチーム内でずれていると大変
- まだない未来の市場を戦場とするベンチャー界隈
- 相手にする市場によって今と未来の視点を使い分けられるか
- 変化のタイムラグから起きる影響を先読みできるか
なぜ同じ組織でも人によって重要と思う領域は大きく違うのか
「技術者は使われるだけなんだから、財務や会計をやるべきだ」
これは、私が前職で暗号通貨監査の技術部分に専念するため、研究開発部門へ異動したいと会計士の上司に相談した2017年5月当時に言われた言葉です。
2016年~2018年前半にかけて、私はBig〇と呼ばれるファームに中途入社してエンジニアとして勤めていました。和名は監査法人なので、エンジニアとして勤務していたというと?な顔をされるのですが、ITを用いたアドバイザリー業務もしており、データ分析を専門とするチームにいて、会計監査に対して不正なリスクを検知するためのデータ分析をどのように用いるか、という業務をしていました。データサイエンティストと言えるかもしれません。
技術とビジネスが混ざるところに身を置いてみるのも面白いかな、と思って入社してみて、機械学習を用いたテクニカルな業務をする事もあったのですが、入手データ量の制約、監査業務としての制約などから財務指標を利用した、ややビジネスよりの分析がどうしても多めだったように思います。
そんな中、たまたま暗号通貨監査の業務に携わる事になりました。ビットコインをはじめとした暗号通貨がモノからお金として認められたのは2017年8月。一方で数百・数千億円分の時価相当の暗号通貨を持っている会社が出てき始めた状態でした。会計の歴史に出てこなかった「お金」をどのように財務諸表に載せるのか、どのように残高を確認するのか、所有していることの証明をどのように確認するのか。「お金」の概念が変わると「会計監査」の概念も大きく変わり、ブロックチェーン技術に詳しい人材が必要とされました。 「テクノロジーでお金の概念が変わって既存の業界や概念が壊れ始めた」興奮を感じた事をよく覚えています。
未上場企業でも交換業免許を取るためには監査が必須です。暗号通貨監査手法を確立する事は国内規制に則って交換業を育てるという観点においても重要な業務でした。暗号通貨監査の仕事を傍らに手伝う中で、お金の概念が変わる事による監査法人全体への影響の大きさや、専門人材の不足、テクノロジーがバックグラウンドである自分の経歴との相性を感じ、本格的に暗号通貨監査の仕事に取り組みたいと研究開発部門への異動を当時の上司に相談した際、冒頭の言葉を受けました。
エスタブリッシュな世界もテクノロジーが混ざって再構成が起きる
2017~2018年にかけて暗号通貨をビジネスに扱う会社は大きく増え、上場企業も業界参入を次々と発表していきました。上場企業には監査が義務付けられていますので、法人全体、また監査業界全体で暗号通貨監査の重要性が急速に増していきました。
ハードフォークやエアドロップなども勘定科目として何か載せるべきなのか。システム統制とどのように絡むのか。「監査」という伝統的な世界観に突如現れた「暗号通貨・ブロックチェーン」という新しい世界観をどのようにコミュニケーションさせるのかと考えると論点はつきません。暗号通貨監査業務で関わったら「技術によるお金の成立」という事が成り立った世界において、「ビジネスサイドの人間が技術者を使う」という従来型の価値観は全く成立しませんでした。むしろ前線でお互いに協力して新しい世界観を作り上げていく作業のように思えました。
私はこの混ざり合う世界というのは非常に面白く感じました。研究開発部門長と話した時、短期的に役立つかどうかはあまり問われず、法人にとって重要だと思い、かつ興味のある事を研究して欲しいと言われました。退職前には研究開発部に異動できるのですが、このパートナーには本当に助けていただきました。
なぜ同じ組織の中でも、人によって視点はこうも違うのだろうと不思議でした。その答えは「今」で思考しているか、「未来」で思考しているかという時系列の意味合いが強いと感じています。そして渋谷でベンチャー界隈を渡り歩く中で確からしさを増して来たように思います。
今と未来との視点がチーム内でずれていると大変
冒頭の異動相談で面食らったのが2017年6月の事。仕方ないので、既存部門の仕事を終わらせた後、業務外の時間でブロックチェーン関連の業務を手伝う事にしました。採用やチームの立ち上げ、システム開発をしたことがある人材が私以外にほぼいなかったので、大まかな計画やタスク分解、ブロックチェーンからデータを取得する基盤開発などをしました。その傍ら、会計士達と一緒に暗号通貨関連の事業を行なっている会社の経営陣と監査方針のディスカッションなども携わりました。
平日は既存業務がわりあてられていましたし、他の業務を手伝っていることが公になるとまずいので、平日の深夜や土日に新しい知識や技術を学習していました。現場の会計士やシステム監査人からは非常に強く暗号通貨やブロックチェーンの技術的な解説を求められ、私はほぼ平の階級にも関わらず、最上位階級である年長パートナーの方達と毎週話したりと客観的に見ても独特のポジションにいたように感じます。
私のいたポジションは、言ってしまえば「今見えている仕事の最善」を優先するか、「未来役にたつ仕事」を優先するか、との間に挟まれていたとも言えます。
冒頭の上司が私の様子に何かを感じて「ブロックチェーンなんかやらずに今の業務に集中しろ」とお叱りを受けることもありました。組織の論理に従えば上司に従うべきなのですが、私は法人全体にとって必要な事だという確信があったので評価は気にしない覚悟で臨んでいました。(既存業務の仕事は終わらせていたので、成果だけで見れば何も問題はないのですが、組織の中では上司とうまくやっているかも評価では必要なファクターでした)
理解者、仲間があまりいない中で頑張る事はなかなか大変だったのですが、最終的に暗号通貨取引の監査・分析用システムを監査法人の中で開発しました。グローバルでも先行事例だったため、「日本のファームからグローバルに通用するイノベーションが生まれた」と経営陣から高く評価をされたと伝え聞いています。私はその後、賞与ももらわず、昇格もせずに退職してしまったのですが、私の上司達は概ね出世したと伝え聞いています。
「会計や財務だけをやるべき」という冒頭のアドバイスに従っていたら上記の成果が出るかは難しかったのではないかと思います。「今」を見ている人が多い中で新しい事を遂行する事は共感が少なく、相当にエネルギーを使う作業で困難を伴います。チーム間で見ている時点を共有できないと不協和音を産むため、時点の意識を積極的に行う事は重要だと感じます。
余談ではありますが、私が所属していた法人では勤続年数、年齢と会計士資格の有無で給与テーブルはほぼ決まっていました。中途入社のエンジニアをフルタイム採用するために出せる競争力が弱く、人事制度なども「今の全体最適」なのか、ある程度の柔軟に変化余地があるかなども論点になるのでしょう。
まだない未来の市場を戦場とするベンチャー界隈
渋谷のベンチャー界隈に深く入り込んで面白いと感じたのは、未来を予想して話している人の多さです。
売上の立っていないベンチャービジネスは、ベンチャーキャピタルなどから出資を受けてスタートします。ベンチャーキャピタルは、1社が跳ねる事を期待して10社に投資します。1社の株式10%を、初期に1,000万円程度で取得したとして、その会社が成長して企業価値が20億円になれば、10%株式は2億円となり20倍のリターンでその他9社が潰れたとしても元は取れます。借入金と資本金は比較できる性質のものではありませんが、年利数%でお金を貸す銀行の事業とは異なる性質を持つことはよく分かると思います。
逆に言えば、将来的に何十倍になるようなスケールするビジネスを行う事がベンチャーキャピタルなどリスクマネーの投資を受ける条件とも言えます。
そう考えると、ベンチャービジネスを行う人たちは、すでにある市場を狙っても大きなリターンは得られません。今はないが、未来成立する可能性がある市場を狙う事を重要視している人が多いように思います。巨額の資金を持っていた事で話題になったコインチェック社も暗号通貨の取引所を5年前に立ち上げる時、国内での市場はほとんどなかったはずですし、当時は一部の物好き以外世間から認知されていなかったと思います。市場が立ち上がる中で、設立5年目の1年間で500億円もの巨額な利益を上げる事に成功しています。
周囲から、「競合が出て来た時にどう差別化するか」と聞かれる事もありますし、当初私も考えていました。経営企画、コンサルティングなどにおいては、競合分析、自社リソース、自社の強みをあげて差別化のための理論を構築するのが正攻法でしょう。一方でベンチャー界隈が長い人、一度イグジットしている連続起業家の方などはむしろ競合が出てくることは市場を一緒に盛り上げてくれるから良い事だとシンプルに言って終わり、としている人が多いように感じます。
この違いについて、相手にするのが今の市場なのか、未来の市場なのかを反映していると私は整理しています。ブロックチェーン領域でプロダクトを作っている実感としても、競合に差別化される事よりも、そもそもDappsや暗号通貨を日常的に利用するサービス市場自体が立ち上がらない事の方がリスクだと感じています。差別化戦略を始めとしたMBA的な「戦略理論」は初期はこだわりすぎない方が良いのかもしれません。
相手にする市場によって今と未来の視点を使い分けられるか
ここまで見て来たように、相手にする市場によって視点を変える事が重要だと思います。エスタブリッシュな事業を批判してベンチャービジネスを持ち上げることは簡単ですが、正しくは相手にする市場によって時系列の視点を切り替えられる事が上手く物事を進めるコツなのかもしれません。
難しいのは、ロジカルシンキングだけに頼ると、現状を肯定しがちで現状の改善策の提案になりがちな事です。それは、ロジカルシンキングが「今」知っている情報を基とした論理を紡ぎ出す技術だと考えています。ブロックチェーンの世界では刻一刻と新しい技術要素や提案が出て情報が変化していきます。「今」知っている情報でいかに論理的に考えたとしても、思いも寄らない新情報によって状況が一変してしまう可能性もあります。
ベンチャーキャピタルが投資を決める際の視点も、タイミングや分野、チーム構成に比べると、厳密なロジックにはそこまでこだわっていないように感じます。
現状知ることができる情報だけで判断をしても、1ヶ月後には新しい情報が出てきて大きく土台が変わるということがあり得ます。ブロックチェーン界隈で言えば、DappsにしてもEthereum一強の状況から、状況も変わり始めています。確実性の高い分野はロジカルシンキングで、また変化の起きそうな部分は不確実性を織り込んだ上で思考する、という事が重要になりそうだと感じました。
変化のタイムラグから起きる影響を先読みできるか
では変化は全く捉えられないのでしょうか。作用が連鎖していくものなので、変化のタイムラグはあります。
私の場合は、テクノロジー => ビジネス => 経済 => 法規制 といった流れで変化のタイムラグが起きる流れをよく見てきました。
私が素人にも関わらず、会計監査という領域で一定のバリューを出せていたのは、テクノロジー情報をgithubなどから早めにキャッチして、それによってビジネス上で論点となりうるポイントを早めに出していたからだったと思います。例えばLightning Networkのようなレイヤー2技術がすでにあるが、しばらくして浸透した時、どのように既存枠組みでビジネスを邪魔せずに監査ができるのか。起きうる会計ルールや、テクノロジーを使った会計不正の手口、法規制の論点はどの辺りなのか。既にビジネスが生まれてから監査手法を考えていると、とても遅く対応しきれません。そう言った意味でも研究開発は経済色の強い監査法人で非常に必要な部門でした。
ビジネス、エンジニアという2分するのではなく、新しい技術をわかる事自体が未来を読む手がかりになり、重要さを増すように思います。おそらくこのような変化のパターンはいくつかあり、そのようなパターンを紐解いていく事が重要なのではないかと思います。
去年を振り返るとそのように思いました。2019年もよろしくお願いします。
- 作者: 佐藤航陽
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