『認定スクールトレーナー制度の目的とその経緯』について
1.学校における運動器検診体制の整備・充実事業
「運動器の10年」日本委員会(公益財団法人運動器の健康・日本協会の前身)が、杉岡洋一委員長(第2代:2003年~2009年11月)の下、「国の規則の1行を変えよう!」とのスローガンを掲げて総力を挙げて取り組んだのが、世界運動の重点項目「小児の運動機能障害、スポーツ障害」に関わり、日本委員会3つの目標の一つであった「運動器疾患・障害の早期発見と予防体制の確立」でした。
全国10地域(北海道、京都府、徳島県、島根県、新潟県、宮崎県、愛媛県、埼玉県、熊本県、大分県)での10年(2005年度~2014年度)に及ぶ『学校における運動器検診体制の整備充実モデル事業』の調査研究成果を基盤に、文部科学省はじめ国の関係各所及び日本医師会等の学校保健関係組織・団体に様々な働きかけを積み重ねました。
そのおかげで、『中央教育審議会答申~子どもの心身の健康を守り、安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について~』(2008年1月17日)で、「子どもの健康を取り巻く状況」の中に「過度な運動・スポーツによる運動器*疾患・障害を抱える子どもも見られる状況にある」と記載され、「子どもの健康をめぐる現代的な課題」の一つとして、運動器疾患・障害が位置づけられました。そして、その脚注には、「運動器」とは、骨・関節、筋肉、靱帯、腱、神経など身体を支えたり動かしたりする器官の総称(「運動器の10年」日本委員会)との解説が付記されたのです。
2013年3月29日には、「スクールトレーナー」が、特許庁により、登録商標として承認されました(第5569187号、第41類:資格付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与等、第42類:運動器疾患・障害の予防に関する調査及び分析)。
2.学校保健安全法施行規則の一部改正
2014年4月30日、「学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知)」(文部科学省/久保公人スポーツ・青少年局長)が、各都道府県知事等に発出され、ここに学校の健康診断に、正式に運動器検診が導入されることが確定したのです。
その切所は、2012年11月19日の文部科学省「今後の健康診断の在り方等に関する検討会」(有識者会議)でした。武藤芳照(東京大学教授:当時、運動器の健康・日本協会業務執行理事)と内尾祐司(島根大学教授、同協会理事)が、参考人として招かれ、学校健康診断における運動器検診の必要性とその期待される効果等について説明すると共に、各委員からの数多くの質問に対応しました。その質疑応答の中で、児童生徒等への予防教育の一環として、当協会が「スクールトレーナー」の構想を有していることを、初めて学校保健関係者に披歴しました。
2016年4月より、改訂学校保健安全法施行規則が施行され、ここから全国の小中学校・高校等での運動器検診が始まりました。当協会が、この要望を掲げてから、実に11年の活動の成果でした。その後、着実に運動器検診は展開していきましたが、まだまだ現場の課題は少なくなく、とりわけ、健康診断後の事後措置や保健指導、日常の予防教育への運動器の専門家の支援協力が求められています。
3.認定スクールトレーナー制度の構築
そして、「認定スクールトレーナー制度」の構築への準備が進められ、2023年度には、「当協会~地域の医療機関~自治体・教育委員会のトライアングル連携体制」により、全国8都府県11自治体(東京都:港区・中野区、島根県:隠岐の島町、大田市、雲南市、神奈川県:横浜市、愛媛県:西条市、長野県:東御市、兵庫県:西宮市、佐賀県:神崎市、京都府:京都市)で、モデル事業が実施されました。
2024年2月20日には、内閣府公益認定等委員会での審議承認を経て、岸田文雄内閣総理大臣より松本守雄当協会理事長宛に、「認定書」(「児童生徒等の運動器の健康増進と健全な成長・発達に寄与する担い手の育成」を、新たに正式な公益事業として認定する)が付与されました。と同時に、同月、文部科学省が進めている「コミュニティ・スクール及び地域学校協働活動」に協力する団体等のリスト(全国都道府県教育委員会連合会他、全59団体)に、当協会が、<スポーツ・文化分野>の団体の一つとして、公益財団法人日本スポーツ協会等と並んで加えられました(運動器の健康増進、疾患・障害の予防に関わる教育・啓発等を主たる事業とする団体として記載)。
2024年8月に、初の認定スクールトレーナー養成講習会が開催される運びとなり、定員120名のところ、47都道府県理学療法士会からの推薦者各1名の他、一般公募には1114名の応募があり(平均倍率15.3倍)、きわめて社会的ニーズの高い事業であることが改めて認識されました。
このように、認定スクールトレーナー制度は、将来の社会を支える子どもの運動器の健康増進に資する取り組みとして、歴代の委員長・理事長(2000年より、初代:黒川高秀氏、第2代:杉岡洋一氏、第3代:山本博司氏、第4代:河合伸也氏、第5代:岩本幸英氏、第6代:丸毛啓史氏)以下関係者の熱意とたゆまぬ尽力とにより構築されてきた公益事業です。
決して、特定の職種・分野の社会的利得や権益を確保・増大するための事業ではありません。
少子高齢化がますます進展する日本ですが、いつの時代も、「子どもは国の宝」です。その子どもたちが、「動く喜び 動ける幸せ」(当協会の標語)を、生涯にわたって体感・実践でき、健康な社会つくりに役立つように、今後、さらにこの制度を充実していく所存です。
このような目的と経緯をご理解いただきまして、今後も当協会に対して、特段のご支援ご協力をいただければ幸いです。
令和6(2024)年7月11日
公益財団法人運動器の健康・日本協会
理事長 松 本 守 雄