掲載日:2024年09月04日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/淺倉 恵介
Vespa Primavera S 150
ヨーロピアンスクーターの象徴的存在として知られるベスパは、イタリアのバイクメーカーであるピアッジオ社のブランドの一つ。ピアッジオは社名を掲げる“ピアッジオ”ブランドをはじめ、アプリリアとモトグッツィ、そしてベスパの4ブランドを展開する、ヨーロッパ最大のバイクメーカーだ。同社ではモトグッツィ以外の3ブランドで、スクーターをラインナップしているが、意匠やグラフィックを変えただけの見た目だけの別車種ではなく、ブランドそれぞれに設計思想の異なる独自性豊かなモデルが揃っている。
バラエティに富んだピアッジオ製スクーターの中でも、ベスパの個性は突出している。最大の特徴は、ベスパのアイデンティティともいえるスチール製モノコックボディ。多くのスクーターは、フレームとエンジンを抱え、樹脂製のカバーで覆った車体構成を持つ。だが、ベスパはボディそのものでエンジンを懸架、外装の多くをスチール製のボディが兼ねる、ある意味で四輪車的な設計が取られている。一見しただけではカバーに見える車体後部もスチール鋼板製で、ボディの一部として車体剛性を担っているのだ。
ベスパのスクーターが生まれたのは1946年、最初期モデルからスチール製モノコックボディを採用していた。当時、スチール製モノコックボディを模したフォロワーが登場したのだが、そのほとんどは時の流れとともに消滅。しかし、ベスパは一貫してスチール製モノコックボディのスクーターを作り続けてきた。熟成に熟成を重ねてきた、ベスパの代名詞といっても差し支えない独自技術なのだ。
Primavera S 150は、ベスパのスモールレンジの主力シリーズ「Primavera」のバリエーションモデル。ボディカラーに独自設定色の鮮烈なグリーンマグネティコを採用。ベースモデルのPrimavera 150ではシルバーメッキ仕上げの、ヘッドライトやフロントパネルのトリムをブラックに変更。前後ホイールもブラックアウトされ足元を引き締め、スポーティなイメージが与えられたモデルとなっている。
新型Primavera S 150は、車体の基本骨格や好評の排気量155ccの空冷SOHC3バルブ単気筒i-getエンジンは先代モデルから継承。デザインのリファインや、エレクトリックデバイスの強化がポイントとなっている。
まず、外観で目立つ変更点が新デザインの5本スポークホイール。また、ベスパのデザインアイコンである”ネクタイ”と呼ばれる、フロントパネルのステアリングコラムカバーと3本のホーン用スリットのデザインが変更。ハンドルグリップも、人間工学を取り入れた形状を採用した新設計品。ミラーのボディも、質感に優れる異形形状タイプとなった。ヘッドライトとテールライトは、先代モデルからLEDを採用していたが、新型ではウインカーもLED化。消費電力を抑え、長寿命化も図られている。
大きく変わったのがインスツルメンツパネル。アナログ式のスピードメーターとLCDパネルという構成は変わらないが、LCDパネルを大型化。表示される情報が格段に増えた。走行中にライダーが必要とする情報はさほど多いわけではないが、メーターは走行中常に視界に入るパーツ。そのメーターの表示が賑やかなのは視覚的に楽しいし、燃費情報など走行に役立てられる情報も豊かだ。さらに、オプションのBluetooth接続ユニットとスマートフォンアプリ「Vespa MIA」を導入すれば、スマートフォンとの接続も実現。ハンドルスイッチで、電話の着信やプレイリストのコントロールといった操作が可能となる。
Primavera S 150を前にした時、”やっぱりオシャレだなあ”とベタなセリフが口をついた。ガチガチなライディングギアで固めるより、街着で乗りたいしヘルメットだってデザインにこだわりたくなる。ベスパのデザインは、世にいうところのネオクラシックの範疇にカテゴライズしてもいいだろう。もっともベスパの場合は、わざわざ懐古的に作っているわけではなく、長い間守り続けてきたスタイルである。遠目にはノスタルジックかもしれないが、ディティールに”旧さ”はない。オーセンティックでありながら最新、単純にデザインのレベルが高いのだ。やっぱり、カッコいい。
シートもステップボードも前後長に余裕があるので、着座位置と足を置く位置の自由度が高く、幅広い体格のライダーに対応するポジション。ステップボード幅もスリムで、シート高も785mmと高くないのだが、足つき性はさほど良くはない。小柄な人の場合は、シートの前側に座ることを意識したい。
スロットルを開けると、元気の良い加速をみせてくれる。フロントが捲れ上がるような乱暴さではなく出足が良い。スロットルレスポンスというより、駆動系のセッティングではないかと感じたのだが、とにかくゼロ発進からの”一歩目”が速い。開けた瞬間に前に出る。それでいて、エンジンの回転上昇自体はマイルドなので、気後れせずに全開にできる。だから、速い。信号ダッシュではかなり強力なコンテンダーなのだ。
ベスパでは、Primavera S 150と同じ155ccエンジン搭載モデルを複数ラインナップ。大別するとPrimaveraシリーズ、Sprintシリーズ、GTSシリーズの3シリーズとなる。Primavera とSprintは、エンジンや車体の多くの部分を共有する兄弟的シリーズ。だが、GTSシリーズは毛色が異なる。PrimaveraとSprintは空冷エンジンであるのに対し、GTSは水冷エンジンを採用している。
スペックを見比べれば、空冷エンジンの最大出力は12.3PS、対して水冷エンジンは15.6PSを発揮する。当然、水冷エンジン搭載車の方が、動力性能の面では優れている……と、考えていたのだが、Primavera S 150を走らせて思い違いに気付かされた。確かに高速域ではGTSの水冷エンジンに分があるが、停止状態〜60km/hといった日常で多用する速度域では、Primavera S 150は実質的に速い。Primaveraは、ベスパのスモールレンジを担うモデルとされている。コミューターに特化し、市街地での扱いやすさと速さを磨き上げているのだろう。ユースを考えての割り切った作り込みは、いかにもヨーロッパ車的。そして、スクーターだけを作り続けてきたベスパは、”やっぱり解っている”と思わせられる部分だ。
車体も市街地での走りに割り切っている。ハンドリングは実に軽快で、短めのホイールベースと相まって回頭性はかなりのもの。繁華街の狭い路地でも躊躇なく飛び込んでいけるし、Uターンだってなんの不安もない。混雑した道路で、車の間を縫うような走りも大得意。エンジンと同様に、ステアリングのレスポンスも俊敏なのだ。だが、その割り切りにはデメリットもある。コミューターとしての走りを追求したせいか、高速域での安定性は今ひとつ。ベスパならではのスチール製モノコックボディは剛性面でメリットは大きいはずだし、フロントのリンクアーム式サスペンションとの組み合わせは、乗り心地の良さとスタビリティに秀でるものだと思いこんでいたので、意外に感じた。街中ではなんとも好ましく思えた、キビキビと向きを変える車体が裏目に出る。高速域でギャップを踏むと、時折フレが続くシチュエーションもあった。個人的には高速道路を長く走るツーリングなどには使いたいとは思えない。その分、街乗りは最高に気持ち良いので、そこはトレードオフの部分なのだろう。
逆にいえば、そう感じさせるほどコミューターとしてのPrimavera S 150は秀逸だ。実用域で強みを発揮するエンジン特性と、軽快なハンドリングには代え難い魅力がある。そしてなにより、他にはどうにも真似できないベスパならではの流麗なデザインだ。バイクはカッコよく乗りたい、そう考えるのであればPrimavera S 150は、かなり魅力的な選択肢となり得る一台だ。
排気量155ccの空冷SOHC3バルブ単気筒エンジンは最高出力12.3PS、最大トルク12.7N・mを発揮。リアサスペンションはユニットスイング式モノショックで、ショックユニットは4段階のプリロード調整が可能。
フロントブレーキはφ200mmのディスクブレーキで、1ch.ABSを装備。フロントサスペンションは、ベスパ伝統の片持ちリンクアーム油圧式サスペンション。
ホイールは新デザインの5本スポーク。タイヤサイズはフロント110/70-12、リア120/70-12。小径かつナローなタイヤは、軽快なハンドリングに貢献。
ステップボードは前後長に余裕があり、足の自由度が高い。低いセンタートンネルは、スチール製モノコックボディの恩恵のひとつ。乗り降りは非常にしやすい。タンデムステップはステップボード後部に配置。
シートはコンベンショナルなダブルシート。ライダー側の座面は広く、着座位置の自由度は高い。タンデム側シートも、パッセンジャーが無理なく座れるスペースが確保される。
シート下には大容量のラゲッジスペースを装備。ヘルメットの収納可否は、ヘルメットの形状による。開閉は、キーをシリンダーに差し込みイグニションオフの状態で、シリンダー左のボタンを押すとロックが解除される。車載工具も装備し、リアサスペンションのプリロード調整用のピンスパナも含まれる。ガソリン給油口はラゲッジスペース後部に設置。
レッグシールドのコンパートメントはロック付き。キーをシリンダーに差し込み、イグニションオフの状態で押し込むとロックが解除。内部にはUSB給電ソケットも装備する。
ステアリングコラムカバー通称"ネクタイ"は、立体感が増した新デザインを採用。ウインカーの光源は、新たにLED化された。
テールランプも新デザインを採用。テールランプとウインカーは、全て光源にLEDを使用。被視認性は良好。
大きく進化したインスツルメンツパネル。スピードメーターはアナログ式で、大型の多機能LCDパネルを組み合わせる。LCDパネルの上部中央の枠は時計と走行距離を切り替え表示。上部左の枠には、走行可能距離や燃費情報、最高速、電圧などを切り替え表示。右側の枠には、オドメーター、トリップメーターA/Bなどを切り替え表示。中央のスペースは、スマートフォン接続時に多彩な情報を表示。
右ハンドルスイッチは、上からキルスイッチ、インスツルメンツパネルの表示切り替えスイッチ、スターターボタン。
左ハンドルスイッチは、上からパッシング機能付きのヘッドライトHi/Lo切り替えスイッチ、プッシュキャンセル式ウインカー、ホーンボタン。
ハンドルグリップは新設計品、ベスパらしい直径が太めで握りやすいもの。エンド部に刻まれた、メーカーロゴが嬉しい。
センタースタンドに加え、日本仕様のみサイドスタンドを標準装備する。
ウインドスクリーンは純正オプション。防風性はかなり優秀。
トップケースも純正オプションで、車体と同色にペイント済み。バックレストも装備し、タンデムライダーの快適性も向上させる。トップケースの装着には、純正リアラックが必要。
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