デンソーの「加工DX」におけるデータ利活用をAIによって自動化、加速する可能性を支援
背景
先進プロセス研究部の加工DX研究室のミッションは「デジタル技術を用いて新たな加工技術の研究開発から量産適用までを加速させること」です。その「加工DX」に関する課題について、朝岡氏は「加工技術の研究開発の推進に必要な情報やデータが散在しており、データの収集に際して、データの所在の属人化による背景から、経験や伝手に頼る必要がありました。また、それらデータを活用するためには、紙やデジタルなど媒体およびフォーマットも多様なデータを手動で構造化する必要がありました」と話します。
そこで、デンソーでは「ナレッジを蓄積する」「整理する」「利活用する」といったデータ利活用の一連のプロセスの中で「まずナレッジが体系的に蓄積されていない」点に着目し「ナレッジを蓄積することのメリット」をユーザーに実感してもらうためにはどうしたらよいか、アバナードに支援を求めました。
2022年3月には「現場視点で考えるこれからの情報活用」をテーマにワークショップが開催されました。同社先進プロセス研究部 加工 DX研究室 課長 田中 宏一氏は「実際の現場の悩み、課題を具体的に洗い出すことを目的に、ナレッジの収集、分析、蓄積する環境創りを検討した結果、アバナードが保有するノウハウや他社事例などを通じ、課題解決の道筋が見えてきた」と振り返ります。
また、同社先進プロセス研究部 加工DX研究室 村上 大地氏は「現状把握の面で、自分たちに足りないことは何か、アバナードのワークショップを通じて明確になった」と述べました。
ソリューション
データの利活用にはまず「非構造化データを構造化することから始める必要性がある」という課題に対し、アバナードから提示されたのが「AIの可能性の検証」です。
デンソー先進プロセス研究部内には加工技術情報や加工に関する相談業務のQ&Aなどが、手書き、PDF、Excelなどの様々な形態で、散在しています。
これらはデータの形式も統一されておらず、構造化されたデータもあれば、自然言語などの非構造化データもあり、フォーマットも定型化されていませんでした。
そこで、PoCではまず「フォーマット変換の技術検証」に取り組みました。散在している情報を自動収集とフォーマットの変換の部分に、AI活用でどの程度効果が得られるかを確認したところ「基本的な構造化、抽出はAIで何とか自動化できそうだ」(村上氏)という目途が立ちました。
続いて「自然言語・非構造化データからキー項目を抽出し構造化の可否」が検証されました。AIを用いた構造化が、求められるクオリティに達するかの検証です。そして、次に行われたのが「GPT-3 及び GPT-3.5 による構造化検証」でした。具体的には、データにタグを付与して「データカタログ化」し、使う人が欲しいときに欲しい情報を検索できるかの検証です。
システムは、マイクロソフトからエンタープライズ向けに提供されている「Azure OpenAI」と「Avanade Insight Discovery」を組み合わせたものです。
Avanade Insight Discoveryとは、Azure上で動作する自然言語処理技術を活用したデータ分析プラットフォームのことです。今回、デンソーのナレッジはAvanade Insight Discoveryに蓄積、データカタログ化し、Azure Open AIのGPTを解析リソースとして活用することで、豊富な情報量を強みとしたAIモデルを使いながらも、自社のナレッジとマッチングさせて検索するようにしました。
また村上氏は「OpenAIの提供しているサービスでは社内のセキュリティ基準を満たすのが難しいという点、非APIのChatGPTによる入力データの2次利用が懸念だった」と話します。
しかし、アバナードから「データは検索に必要となるキー項目のみを抽出してAvanade Insight Discoveryにのみ保管され、GPTは解析リソースに活用しているため、セキュリティを担保した仕組みである」 と説明があったと村上氏は振り返ります。
成果
従来、人力で行っていた作業が自動化されることにより、工数削減が見込まれるメリットがあり、また、自然言語など現場の技術情報など非構造化データを、AIを使って構造化できることが確認できたということです。
また、Avanade Insight Discoveryを用いた効果について、村上氏は「GPTのみの仕組みでは、自社のナレッジは反映されない結果となる」とした上で「Avanade Insight Discoveryを組み合わせることで、自社のナレッジを蓄積させることで、より自社のニーズにあった検索、情報活用を促すことが可能だということが、今回のPoCを通じて理解できた」と話します。目指す姿は「社内チャットGPT」のような仕組みで、その実現可能性が、PoCによって検証できたということです。
そして、アバナードの支援のメリットについて、田中氏は次のように評価しています。1つめは「提案力」で、ワークショップを開催し、現場の悩みや課題を洗い出すところから支援してくれた点を評価しています。
2つめは「技術力」。最新のAzureテクノロジーや、生成AI、特にGPTを解析リソースとして活用するなど技術力の高さをポイントに挙げます。
そして、3つめが「サポート力」。これは、クラウドやAIに関する質問に「具体的な事例や取り組みを交えて教えてくれた点や、Microsoft Teamsと検索アプリを組み合わせた統合提案など、マイクロソフト製品に強みを生かしたソリューションの提案やサポートなどが心強かった」ということです。