「マンガは、もはやサブカルではない」 マンガから本と出合う大学図書館の仕掛けとは | 朝日新聞Thinkキャンパス

「マンガは、もはやサブカルではない」 マンガから本と出合う大学図書館の仕掛けとは

2024/10/30

「マンガじゃなくて、ちゃんとした本を読んで勉強しなさい!」という親の小言は、もう時代遅れかもしれません。いまやマンガは立派な学びの教材になり、大学図書館でも取り扱いが見直されています。そもそも、大学図書館の様相が保護者の学生時代とは大きく様変わりしています。蔵書のラインアップはもちろん、図書館という場のあり方自体が変化しています。(写真=近畿大学提供)

■特集:大学図書館のいま

図書館がより学生にとって意義ある場所になるように、大学もさまざまな工夫を凝らしています。

藤女子大学(札幌市)の図書館では、学生スタッフLiSt(リスト)が定期的にテーマ展示を企画しています。「パケ読み『ミッケ!』」と題して、思わず「パケ読み」したくなる(パッケージを見て読みたくなる)きれいな表紙の本を集めて展示したり、中身が見えないようにラッピングした本に「創作四字熟語」のポップをつけて、その言葉のみで本を選んでもらったりするなど、さまざまな本との出合い方を提案しています。

明治大学和泉キャンパス(東京都杉並区)の図書館は、ウェブ上に本棚を作るサービス「ナラベル」を利用してテーマ展示を行っています。例えば、夏にちなんだ「怪異」本や、レポートの締め切り時期に合わせた「レポートの書き方」本など、時期的なテーマも意識しながら、常時300以上のテーマの本棚をウェブ上に展示しています。

デジタルハリウッド大学(東京都千代田区)のメディアライブラリーは、教員や学生の企画によるイベントを数多く開催。本の著者やメディアの作り手たちなどを招いたセミナーやワークショップでは、著者らとの直接交流を通して、学生に興味関心の深掘り、各業界へ入るきっかけなどを提供しています。

大学図書館の進化系ともいえるのが、近畿大学東大阪キャンパス(大阪府東大阪市)の図書館「ビブリオシアター」です。2階の「DONDEN(ドンデン)」には、2万冊以上のマンガと、それに関連する新書や文庫を合わせて約4万冊をそろえ、マンガを「知的好奇心を刺激するきっかけ」と位置付けています。そしてマンガによって想像力を触発し、すぐそばに置かれた関連の新書や文庫を読むことで、興味や関心をさらに深めるという読書体験「DONDEN読み」を提案しています。「DONDEN」という名も、「マンガを起点に知の奥へ向かう『知のどんでん返し』を起こす」という狙いからです。

DONDENの監修者は、編集工学を提唱し、8月に亡くなった編集工学研究所所長の松岡正剛氏です。「マンガを活用したい」という松岡氏の提案を受け、編集工学研究所スタッフと近畿大学図書館職員の間で幾度も意見を交換し、2017年にオープンしました。

「DONDEN読み」を案内するパネル。マンガ作品に関連する、新書、文庫を紹介している

「新書、文庫からマンガへ」の逆アプローチも

DONDENのマンガは、MODE(文学)、ENGINEERING(科学や工学)、GROWTH(仕事や人としての成長)、BODY(スポーツ)など11のエリアと32のテーマで構成されています。本の分類は、「近大INDEX」と呼ばれる独自の実学的、文理融合的分類法に基づいています。そのため、通常の図書分類ではまず隣り合わない本同士が並び、予定調和ではない本との出合いが生まれやすいのが特徴です。

DONDENの書棚の一部。従来の図書分類とは違い、隣り合う本のラインアップによって知的好奇心が刺激される並びになっている

近畿大学中央図書館の八角聡仁館長(文芸学部教授)は、こう話します。
「ただマンガを置くのでは面白くありません。編集工学研究所と話し合いながら、本学らしい領域横断的で文理融合的なリベラルアーツ感覚を意識した配架を目指しました」

迷路のように配置された書棚のレイアウト、本に関連するオブジェや装飾、書棚に並べずに横置きにした本なども独特の空間をつくっています。

来館者の動線にも気を配っています。例えば、2号館のキャリアセンターに近い場所には、仕事や人としての成長をテーマにした「GROWTH」エリアがあり、「近大生のためのハローワーク」「仕事術と処世術」といったテーマの棚が並びます。「働くサプリレディ」の棚には『サプリ』『逃げるは恥だが役に立つ』などのマンガや、『モダンガール論』などの文庫、『なぜ理系に女性が少ないのか』といった新書など、女性の働き方やキャリア選択、仕事術などに関する本が置かれています。

「GROWTH」エリアにある「近大生のためのハローワーク」がテーマの書棚

八角館長はこう続けます。
マンガはもはやサブカルチャーではなく、研究テーマや学習の教材としても扱われる一つの領域です。マンガから学べることは多く、新書や文庫とともに分け隔てせず、読むべき作品も多いです。学生の中にはマンガを全く読まない人もいるので、『マンガから新書、文庫へ』だけでなく、『新書、文庫からマンガへ』の逆アプローチもしたいです。迷路のような空間で迷いながら、本との出合いを楽しんでもらいたいです」

学生目線の展示やイベントも

DONDENの運営には図書館サポーター(Apricot Concierge)たちが積極的に関わっています。学生目線で、定期的にテーマ展示などを行い、テーマの選定や関連書籍の展示、ポップや飾り付け、ポスターの制作なども手掛けます。館内にある黒板も学生ボランティアによるもので、自分が選んだ本の印象的なフレーズを紹介し、イメージするイラストを描いています。

学生による手描きの黒板。教員や職員からは出てこない感想や言葉が書かれることも

人とのつながりを広げる場へ

定期的にイベントも開催しています。人気は年1回開催の「マンガ○○総選挙」。○○に入るテーマはこれまで、「イケメン」「脇役」「死に際がカッコいいキャラクター」などで、得票数の多かったキャラクターが登場するマンガ作品10位までを特設棚に展示し、関連する書籍やテーマも一緒に紹介して、興味を喚起しています。

マンガ総選挙の様子。「死に際がカッコいいキャラクター」というテーマは、「ネタバレになるのでは」という声もあったものの、テーマの面白さで投票は盛り上がったという
マンガ総選挙の結果とともに、作品や関連本を展示した棚

DONDENのマンガは、学生と教員間のコミュニケーションを促進する役割も果たしています。中央図書館学生センターの岡友美子さんは、「意外なことに、マンガを積極的に利用してくださる先生方も多く、それが学生とのコミュニケーションに役立っているようです」と話します。

進化を続けている大学図書館。社会の変化に対応し、学生たちのニーズに応えながら、「図書館」という枠を超えて、学生の学びにどう関わっていくのか、各大学の動きに注目するといいでしょう。

(文=石川美香子 写真=近畿大学提供)

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【写真】「マンガは、もはやサブカルではない」 マンガから本と出合う大学図書館の仕掛けとは

DONDENの書棚の一部。従来の図書分類とは違い、隣り合う本のラインアップによって知的好奇心が刺激される並びになっている
DONDENの書棚の一部。従来の図書分類とは違い、隣り合う本のラインアップによって知的好奇心が刺激される並びになっている

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