筑波大学長と早稲田大総長が語る、入試改革の必要性 「共通テストは年内に」「全科目を受験すべき」【前編】 | 朝日新聞Thinkキャンパス

筑波大学長と早稲田大総長が語る、入試改革の必要性 「共通テストは年内に」「全科目を受験すべき」【前編】

2024/10/17

■学長対談 「リーダーが語る10年後の大学」

早稲田大学の田中愛治総長と筑波大学の永田恭介学長は、大学のトップであると同時に、それぞれ日本私立大学連盟、国立大学協会の会長を務めています。異なる立場で改革を進める二人は、日本の高等教育についてどう考えているのでしょうか。今、私たちが考えるべき大学の課題について語ってもらった対談を、3回にわたって紹介します。(聞き手は「朝日新聞Thinkキャンパス」の中村正史・総合監修者と平岡妙子編集長)

入試改革を全国に広めていくべき

――大学入試は知識を問うだけではなく、高校時代に何をしてきたのか、大学で何をしようとしているのかなど、多面的な評価が必要だという認識が世の中に広まりつつあります。早稲田大学と筑波大学でも入試改革を進めていますが、現在の入試の問題点をどのように考えていますか。

早稲田大・田中総長(以下、田中総長):戦後日本の教育は、答えのある問題をいち早く解く学生が優秀で、社会に出てからも答えを知っている人材が優秀だという神話に取りつかれてきました。アメリカというモデルがあり、追いつこうとしてきたからです。しかし、現在、人類は気候変動、紛争や戦争、パンデミックなど、答えのない問題に直面しています。知識偏重の教育では、答えのない問題に解決策を出すことができません。これは今、日本が行き詰まっている原因の一つでもあるので、入試改革を全国に広げていかなければなりません。

早稲田大学の政治経済学部では、2021年から大学入学共通テストを使い、そのほかに学部独自の試験を行っています。共通テストは基礎学力を確かめるためのものであり、それで合否判定をする必要はないと思っています。共通テストで自分の大学の授業についていける学力があるかどうかを確認して、あとはその学生の尖ったところ、優れたところを見ればいいのです。創造力があるとか、社会貢献への意欲があるといったことは、学力テストではわかりません。政治経済学部の独自試験は、英語と日本語の長文を読ませて、それぞれ日本語と英語で論述する問題です。どういう考え方をしているのかを見て、自分たちの大学に向いている学生を採ろうとしています。

日本の大学生の約8割は私立大学にいます。私立大学の入試に共通テストを使えるようにするのがいいと思いますが、共通テストの成績が大学に提供されるのは2月初旬なので、2月1日から入試が始まる立命館大学、関西学院大学をはじめ、多くの私立大学は日程の関係で使えません。12月に共通テストを行い、1月上旬までに結果を出していただければ、全国の私立大学で使えるようになります。

筑波大・永田学長(以下、永田学長)入試改革はいろいろな観点から考える必要がありますが、我々が入試で何を見ているかというと、高校までの勉強がちゃんとできているか、我々の大学に合う学生か、という2つだけです。前者は、本来は高校がやるべきことです。高校の学習指導要領に沿って、どこまで勉強して、どこまで習熟しているかという基礎学力を高校が保証してくれれば済むことですが、それが標準化されていないから、共通テストを行っているわけです。本学の受験生は、共通テストで高得点を取る人が多く、選抜的な要素はあまりありません。そこで、大学のポリシーに合う学生かどうかを見るために個別試験をします。大学に入ると、こういうことをしますけど、あなたはできますか、ということを試すのです。

筑波大学は国立大学で初めて推薦入試を導入しました。学生に面接で直接問いかける入試も早期に取り入れました。現在はSAT(アメリカの大学進学希望者が受ける標準テスト)、IB(国際バカロレア資格)での入試も行っていますが、共通テストの受験者と比べて何の遜色もないですね。例えば、IBで高得点だった学生は医学群に入学し、すでに医師になっています。

結局、こういう学生がほしいというのは個別試験で見るしかなく、それが総合型選抜や推薦入試(学校推薦型選抜)、あるいは面接や小論文が主体の試験になっています。学科目、コミュニケーション能力など、学科ごとに必要な力があれば、それを中心に見ます。そういう入試をしていくのが今の大きな流れで、入学後に学生と大学の間に齟齬(そご)がないようにしたいと思っています。学生のやりたいことに大学がフィットしているか、学生が大学にフィットしているか、その適合性を見るのがいちばん重要です。

筑波大学では、入試の約3割が一般選抜以外の様々な入試です。また、2年進学時に学類・専門学群を決める「総合選抜」を前期日程に導入して4年になりますが、問題はないので、さらに増やしていきたいと考えています。入試は最終的には面接と小論文や、面接と1科目という方式になるのが理想です。例えば、英オックスフォード大学では物理を専攻したい人は、面接と物理の試験だけを受けると聞いています。

 

 

 

 

高校生で文系、理系を決めるのは難しい

田中総長:永田先生も私も考えていることはほぼ同じです。早稲田大学は共通テストと大学独自の試験ですが、独自試験は知識を問う問題から、その場で考えて答える問題に変わってきています。やはり自分の頭で考えることができる学生を採りたい各学部の入試は独自性が強いので一律にはしていませんが、総合型選抜は各学部で試みており、枠を広げていこうとしています。

永田学長:これまでの入試は高度成長期にはフィットしていましたが、そこから変えていかないといけません。入試を変えるのは、社会改革なのです。

共通テストは、科目を絞るのではなく、高校生に全科目を受けてほしいと思います。そうすれば文系、理系の区別なく、ある程度の水準ですべての科目を理解した学生が入学してくるようになります。高校では大学受験のために文系、理系を分けていますが、高校生にその時点で人生を決めさせるのは無理です。

田中総長:文理融合しないと世界の問題に対応できないと言われていますが、日本では大学に入ってからも文系と理系に分かれています。理系の学生は経済学や政治学を、文系の学生は物理や化学を一般教養でしか学んでいません。私の母校の米オハイオ州立大学で昨年まで副学長(プロボスト)だった人は、学部はイエール大学の英文学、大学院修士はオックスフォード大学の哲学と政治学、博士号はハーバード大学のメディカルスクールで取りました。そういう人が何人も出てくるような教育体系がアメリカにはあるのです。日本では中学生くらいから、自分は文系か理系かを問いかけられていますからね。

永田学長:明治から昭和初期までの旧制中学校は文理横断が当たり前で、寺田寅彦のように理系の先生が文学を書くのも当たり前でした。それを戦後、大学受験が変えてしまいました。高校までの学びが一定レベルに達していれば、今度は大学とのマッチングをどうやっていくかを本気で考えないといけません。

私は英語の試験もしたくないと思っています。大学では全部英語で授業をするようにすれば、英語の試験をしなくても、英語のできる学生が入ってきます。それが、受験生が大学のポリシーに合うかどうかということです。

【動画はこちらから】

写真左から朝日新聞「Thinkキャンパス」中村正史・総合監修者、早稲田大学の田中愛治総長、筑波大学の永田恭介学長、朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長

 

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 >>大学の研究力とは? これからの学生に求められる力とは? 筑波大学長×早稲田大総長からのアドバイス【後編】

永田恭介(ながた・きょうすけ)/筑波大学学長。専門は分子生物学、ウイルス学、構造生物化学。東京大学薬学部卒、同大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。米国留学後、国立遺伝学研究所分子遺伝研究部門助手、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院生命理工学研究科助教授、筑波大学基礎医学系教授などを経て、2013年から現職。国立大学協会会長などを務める。

田中愛治(たなか・あいじ)/早稲田大学総長。専門は政治学。早稲田大学政治経済学部卒、米国オハイオ州立大学大学院政治学研究科博士課程修了。Ph.D.(政治学博士)。東洋英和女学院大学助教授、青山学院大学教授、早稲田大学政治経済学術院教授、International Political Science Association(世界政治学会)President(会長)などを経て、2018年から現職。日本私立大学連盟会長、日本私立大学団体連合会会長、全私学連合代表などを務める。

(文=仲宇佐ゆり、写真=今村拓馬)

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