■現役大学生による 学部・学科紹介
ロボットの技術は急成長し、いまや私たちの生活のさまざまな場面で活躍、人間をサポートしています。大学でもロボットを扱う学部・学科が数多くあります。ロボットは幅広い分野で研究開発されているため、具体的にどの分野で何を学び、どんな力を身につけられるのかを詳しく調べてから、ロボットに関する学科を選ぶことが大切です。(写真=早稲田大学提供)
複合的な学びが必要なロボット研究
ロボットというと、アニメや映画などに出てくる人間の形に似たものをイメージする人がいるかもしれません。しかし、現代のロボットの定義は幅広く、「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」(日本ロボット工業会)という定義があります。つまり、さまざまな工学の技術を1つの形に統合した機械システムのことを指し、ロボットを学ぶには機械工学、制御工学、電気工学、情報工学などの分野を学ぶ必要があります。では、工学部ではどのような学科でロボットについて学べるのでしょうか。
わかりやすいのは、「ロボティクス学科」「ロボット学科」といった名称の学科です。信州大学繊維学部機械・ロボット学科、近畿大学工学部ロボティクス学科、立命館大学理工学部ロボティクス学科などがあります。工業大学では、日本工業大学先進工学部ロボティクス学科、千葉工業大学先進工学部未来ロボティクス学科、大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部ロボット工学科など、多くの大学で設置されています。
近畿大学工学部の環境ロボティクス学科は、1年次にロボットの開発に必要な基礎知識と技術を修得し、2年次からは「ロボット設計コース」もしくは「ロボット制御コース」を選択できます。設計コースでは、ロボットを設計・開発するための知識と技術を、制御コースではロボットの知能化を実現するための知識と技術を重点的に学びます。
ロボットに特化した学科ではなくても、機械工学、電気工学、情報工学などの学科では、多くがロボット開発の研究室を設置しており、ロボットについて学ぶことができます。早稲田大学創造理工学部総合機械工学科4年の福田大朗さんは、高西淳夫教授の研究室で、投球ヒューマノイドロボットの開発に取り組んでいます。
「人間のピッチャーのようにボールを投げるロボット(投球ヒューマノイドロボット)の研究を、スポーツ科学が専門の教授と共同で行っています。ロボットの設計には野球選手の投球動作のデータを使っていて、将来的に、大谷翔平選手のような有名選手と同じ投球ができるロボットが実現すると、バッティング練習用のピッチングマシンとして使えるかもしれません。また、どのような投球フォームが最も効率よく速い球を投げられるのかを研究することで、体への負担を軽減し、ケガを防げるかもしれません。夢は広がります」(福田さん)
映画でヒューマノイドロボットに興味がわく
福田さんの大学選びは「ロボットづくりを学びたい」というところから始まりました。
「子どものころから機械やものづくりが好きで、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)に興味がありました。『スター・ウォーズ』や『トランスフォーマー』などの映画ばかり見ていた影響かもしれません。早稲田大学の総合機械工学科は、受動的に学ぶ座学だけではなく、実践的な授業もある点に魅力を感じていました。さらに調べていくと、早稲田大学にはヒューマノイド研究の世界的な第一人者である加藤一郎先生の研究室があったということがわかりました。加藤先生の研究が高西淳夫先生の研究室で受け継がれていることを知り、ぜひこの研究室で学びたいと早稲田大学を受験しました」
入学後は主に「4力」と呼ばれる材料力学、流体力学、熱力学、機械力学を座学で学んだほか、実践的な授業ではものづくりに取り組みました。
「旋盤やフライス盤といった金属を精密に切削することができる装置を使って機械工作を行う授業や、マイコン(マイクロコンピューター)を使って電子工作を行う授業などがありました。特に印象に残っているのが、1年次後期のメカトロニクスラボAという授業です。この授業の中では、1人で1つの『誰かの役に立つ』ロボット・システムを提案し、製作する、という課題がありました。僕が作ったのは、勉強に集中したいときなどに一定時間スマホにロックをかけられるデバイスです。市販品にはない機能も追加しました。入学してから学んできたプログラミングや電気回路の知識を生かして、試行錯誤をしながら初めて実装に挑戦したので、完成したときには達成感がありました」
ロボット開発で人間を知る
高西研究室では、投球ヒューマノイドロボットのほか、走行、楽器演奏、情動表出などのヒューマノイドロボット、その応用としての手術トレーニング用のロボットや、農業支援ロボットなど幅広いタイプのロボットを研究・開発しています。学生はこれらの中から、研究したいロボットを選択します。高西教授は次のように話します。
「ロボット研究は研究室だけで完結することはなく、ほとんどがほかの分野の専門家とのチームプレーです。スポーツ科学や心理学の専門家、農業に携わる方、外科医などの協力のもと、研究を進めます」
「ヒューマノイドを作ることで人間のことがわかる」と高西教授が話すように、福田さんも人間の骨格や筋肉のつき方などを勉強しながら投球ヒューマノイドロボットを研究しています。
「人間は、大きさや体重の割に、瞬発的に動いたり、強い力を出したりすることができます。例えば、ピッチャーは筋肉や腱のもつ弾性をうまく利用して、素早く腕を回転させることで投球を行っています。この弾性をロボットにも再現することで、人間のような投球動作を実現しています。ただ、人間の身体特性を再現しつつ、人間並み、あるいはそれ以上の投球能力を実現することは簡単ではなく、そのための方法を探求していくことが面白い点です」
研究室での活動は、ロボット製作だけではなく、研究内容を発表する機会も頻繁にあり、研究室内での報告会は月に1回あります。さらに、共同研究先や企業、研究所の人たちも集まる発表会が年に3回開催されます。
「専門家からは厳しい質問をされることもあります。この経験によって、卒業発表は余裕をもって臨むことができます」(高西教授)
福田さんは学部卒業後は大学院に進んで投球ヒューマノイドロボットの研究を続け、将来的には「社会の役に立つようなロボットやシステムづくり」を目指しているそうです。
高西研究室では、8~9割が大学院に進み、修了後は多くがメーカーの開発職に就きます。
「いまの家電製品のほとんどは、ロボットのシステムが導入されています。大学でのロボット開発の知識や技術は、幅広い分野で生かすことができるのです」(高西教授)
大学でロボットを学ぶことが珍しくなくなっている今、具体的にどんなロボットを研究したいのかというところまでイメージできていると、行きたい大学、学部・学科、研究室が見えてきそうです。
(文=中寺暁子)
【写真】ピッチャーの特徴を取り入れた投球ロボット 早稲田大学で開発中
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