■特集:キャンパスと大学選び
ここ数年、大学のキャンパスを郊外から都心に移転する動きが目立っています。こうしたキャンパス移転は、学生の日常生活に変化をもたらします。「郊外より都心のほうが交通の便がいい」「課外活動や就職活動にも便利」など、都市部にキャンパスを移転するメリットはいろいろと見てとることができます。実際のところはどうなのか、キャンパスが都心に移転した中央大学の学生に聞きました。(写真=中央大学茗荷谷キャンパスの屋上庭園、中央大学提供)
都市部にあるメリット
郊外から都市部にキャンパスを移転したり、都市部に新設したりする大学が増えています。例えば、関東学院大学は2023年、横浜市中心部に横浜・関内キャンパスを新設しました。東洋大学は24年4月、板倉キャンパス(群馬県板倉町)にあった生命科学部と食環境科学部を、朝霞キャンパス(埼玉県朝霞市)に移転しました。板倉キャンパスの最寄り駅から都心の池袋駅までは電車で1時間20分ほどかかっていたのが、朝霞台駅から池袋駅まで18分にぐっと短縮され、都心に気軽に行けるようになったことで、「交通費もさほどかからないので、行動範囲が広がった」といった声もあがっています。
中央大学法学部も23年4月、多摩キャンパス(東京都八王子市)から茗荷谷キャンパス(東京都文京区)に移転しました。法学部を含む文系4学部が都心の駿河台から八王子に移転したのは1978年なので、親世代にとって中央大学といえば、緑に囲まれた郊外型のキャンパスという印象が強いかもしれません。現在、法学部があるのは、地下2階、地上8階建ての最新設備が整ったキャンパスで、法律学科、国際企業関係法学科、政治学科の学部生と法学研究科(修士・博士課程)の大学院生の約6000人が多摩キャンパスから大移動し、学んでいます。

中央大学入学センター事務部入学企画課の永田洋一さんは、「茗荷谷キャンパスには、法学部生に必要な学びの環境が整っている」と言います。
「授業の中で、現役の弁護士から最新のリアルな判例について解説してもらえるなど、学生にとってはこれまで以上に学びの環境が整いました。外部講師による授業回数は、2022年の多摩キャンパスで46件だったのが、23年の茗荷谷キャンパスでは66件に増えました。茗荷谷キャンパスからほど近い裁判所を訪れて、民事・刑事裁判を傍聴したり、国会議事堂や弁護士事務所などで学んだりする機会も増えています」

このように都市部へのキャンパス移転は、都内で活躍している専門家などを授業に招きやすくなるなどのメリットがあります。大学にとっては、少子化が進むなかでも志願者を獲得しやすくなる面があります。
では、学生たちには都市部へのキャンパス移転は、どのように映っているのでしょうか。中央大学法学部3年の山下知大さんは、1年次を多摩キャンパスで過ごし、2年次からは移転した茗荷谷キャンパスで過ごしています。学生生活の変化を聞きました。
「移動が楽」コンパクトなキャンパス
――法学部が茗荷谷キャンパスに移転して、良かったと感じることがありますか。
きれいなキャンパスで過ごすのは、純粋に気分がいいですね。新築の部屋に入居した感じで、「汚さないように美しいまま使っていこう」と背筋が伸びます。
ICT環境が整っていて、少しでもトラブルがあると、ITサポートデスクの方がすぐに解決してくれるのも安心です。全教室に設置されたAV機器も起動がスムーズになったからか、語学の授業で映像を活用して学ぶ機会も増えました。ITツールを使った講義も増えて、理解しやすくなったと感じます。
学生が使えるプリンターの数も多く、学生証をかざすだけで、無料で印刷できるのも助かります。多摩キャンパスは広くて自然が多いところが良かったのですが、法学部だけのコンパクトなキャンパスになったことで、教室から教室へ、またキャンパス内にある郵便局や生協などへの移動が楽になりました。また、同じ学部の友人と遭遇する機会も多くなりました。

――授業以外の面で変化はありましたか。
都心に移ったことで、大きな書店へ行く機会が増え、本の街である神保町にも気軽に行けるようになりました。僕は在籍している政治学科の勉強以外にも、第2外国語のロシア語の勉強に力を入れていますが、神保町にはロシアの書籍を輸入している書店があり、勉強面でも便利になったと感じます。多摩キャンパス時代は近くの動物園に行って息抜きすることが多かったのですが、移転して授業以外の時間の過ごし方が変わったと思います。友人のなかには、バイト選びに困らなくなったと話す人もいます。
インターンと就活が便利に
――茗荷谷キャンパスからは、ビジネス街の大手町なども近いですね。
多摩キャンパスからは都市部まで電車で1時間くらいかかりましたが、今は大手町や池袋といったビジネス街や繁華街が近くなり、インターンや就職活動をしやすくなったと感じます。複数の企業を効率的に回れるようになり、実際、インターン先も幅広い業界を候補にあげています。

郊外から都市部へのキャンパス移転を計画している大学は、ほかにもあります。25年には、東京理科大学薬学部が千葉県野田市から都内にある葛飾キャンパスに移ります。30年には、法政大学経済学部が多摩キャンパスから市ケ谷キャンパスに移転を予定しており、都心移転の傾向はまだ続きそうです。
郊外型キャンパス、都市型キャンパスには、それぞれの良さがあります。大学を選ぶ際、キャンパスの立地についてもよく検討するとよさそうです。
(文=中原美絵子、写真=中央大学提供)

【写真】「就活やバイトにも困らない」 大学の「都心移転」で勉強だけでない変化が
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