■特集:キャンパスと大学選び
各地で大学キャンパスの移転・再編が相次ぐ背景には、少子化が進むなかでも志願者を獲得するため、通学の利便性の良い土地を求める「都心回帰」の流れがあります。しかし、それにとどまらず、移転に伴ってキャンパスを産学連携や地域連携(住民とともに地域の課題解決に取り組む活動)の拠点にしたり、地方創生の起爆剤となるように地域づくりの計画に組み込んだりと、大学と社会の関わり方にも変化がみられます。各大学の最新の動きを、専門家の解説を交えながら紹介します。(写真=都市の中心部に新設された神奈川大学みなとみらいキャンパス、神奈川大学提供)
>> 「都心回帰」が相次ぐ大学 競争激化で問われる「キャンパスに通う価値」とは…?【前編】
キャンパスの「価値」に注目
大学が郊外にあるキャンパスから都市部のキャンパスへと移転することで、学生にとってはさまざまなメリットがあります。例えば、実家から通学できることで家計の負担を抑えられたり、アルバイト探しや就職活動がしやすくなったりします。
しかし、少子化が進んでいくこれからの時代には、それだけでは競争に勝ち残れません。リクルート進学総研の小林浩所長はこう語ります。
「各大学は、キャンパス移転だけでなく、学部の新設や再編、地域との連携強化など、もっと大きな構想のもとで改革を進めています。共通する傾向は、キャンパスごとの特色をつくって、キャンパスのバリュー(価値)を高めていくことです」
その一つが、2021年4月に開設された神奈川大学のみなとみらいキャンパス(横浜市西区)です。グローバル教育に重点を置く経営学部、外国語学部、国際日本学部の3学部が集結。「街全体をキャンパスとして学ぶ」というコンセプトのもと、グローバル都市であるみなとみらい21地区の立地を生かし、社会連携活動などを通じて地域や社会とのつながりを広げていくことを目指しています。
大きな特徴は、キャンパスが地域に開かれていることです。キャンパス内のカフェ、レストランなどは一般の人々も利用可能。3Dプリンターなどを備えたラボは学外者も利用でき、グローバルラウンジでは異文化体験イベントが行われるなど、社会との接点をつくりやすい仕掛けが随所に設けられています。
プロ野球とまちづくり
地方都市でも、中心部に近くて利便性の高い土地にキャンパスが移転する傾向は変わりません。それに加えて、20年代後半に地域の再開発と密接に関係した移転が相次いで予定されています。
北海道医療大学は、23年10月、北海道北広島市の北海道ボールパークFビレッジ内に、28年4月を目指して新キャンパスを開設することを発表しました。プロ野球の北海道日本ハムファイターズの新拠点となったことを契機に、この地域の開発が進むなか、北広島市や球団の運営会社とも連携した地域づくりを進めていく予定です。
大学通信 情報調査・編集部の井沢秀部長は、次のように話します。
「ボールパーク周辺には今後、JRの新駅がつくられますし、周辺の千歳市には国産の半導体メーカーであるラピダスの工場が新設されるため、これから地域全体が盛り上がっていくと考えられます。志願者数の確保という点では、大学にとってプラスになることは間違いないでしょう」
関西では、近畿大学医学部および近畿大学病院が25年11月、現在の大阪狭山キャンパス(大阪府大阪狭山市)から、大阪府堺市に新設されるキャンパスに移転する予定です。新キャンパスは、泉北高速鉄道・泉ケ丘駅前に建てられるため、大阪中心部からのアクセスが良く、関西国際空港からも近い好立地です。
医学部が病院とともに移ってくることで地域の医療機能の向上につながりますし、26年4月には看護学部の新設が予定されています。大規模な医療の拠点ができることで、老朽化が進む泉北ニュータウン地域の再生につながることが期待されています。
市場の中に大学が…?
九州では、北九州市立大学が小倉市中心部にある旦過市場内に27年4月を目指して新キャンパスを開設し、情報イノベーション学部(仮称)を新設する予定です。1階部分が市場店舗、2~5階部分が大学という市場と一体化したユニークな構造で、企業と連携して高度なデジタル人材を輩出・供給するだけでなく、北九州市内へのさらなる企業の集積や、街の発展に貢献すると言っています。
こうした例からは、キャンパス移転が大学側の生き残り戦略にとどまらず、地方創生や街づくりの起爆剤として、地域の人々を巻き込んだ一大プロジェクトとなっていることが見てとれます。
「人口減少の傾向が強まるなか、地方経済のほうが今後、都市部よりも先に厳しい局面を迎えると考えられます。逆風のなかで地域の基幹産業をどうつくっていくかを考えると、大学が果たす役割は大きい。そうした考え方に基づいて、キャンパス移転の計画の中に、産学連携や地域連携という要素が組み込まれることが増えています」(リクルート進学総研の小林所長)
カギは「改革の継続」
このように、キャンパスの移転・再編ラッシュと並行して、大学のあり方自体にも大きな変化の波が押し寄せています。実際に進学先を選ぶとなると、やはり、大学間の競争に勝って、今後も発展していく大学を選びたくなるもの。では、どんな視点から大学選びを考えればいいのでしょうか。
「利便性が良い土地にキャンパスを移転すれば、一時的には話題になって志願者数を増やす効果があるでしょう。でも、他大学もどんどん都市部に移転してきますから、長い目で見るとそれだけで安泰とはいきません。学部の新設や改編などで学生のニーズに応える学びの形を提供したり、産学連携で学外とも大胆に連携したりと、時代に合った改革を継続的に行っているかどうかが重要になってきます。キャンパスの位置や設備の新しさだけでなく、こうした視点で気になる大学について調べてみるのがいいでしょう」(小林所長)
移転計画を知らずに入学したら、在学途中で引っ越しを余儀なくされた……などということを避けるために、事前にしっかり調べておくことは言うまでもありませんが、大切なのはあくまでも学びの中身です。キラキラした新キャンパスや、ビルが立ち並ぶ周辺地域の華やかさなどに惑わされすぎないことも大切です。
「まずは何を学びたいのか、親子でよく話し合って考えることが第一です。設備は古くても良い指導者がいて、自分がやりたかったことができるというケースもあります。そうした基盤があったうえで、交通の利便性が良いとか、最新の設備があって学びやすい環境ができているといった要素も考慮にいれて、比較検討していくのがいいでしょう」(大学通信の井沢部長)
(文=小泉耕平)
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