「虎に翼」主人公が学んだ法学部のいま 「彼女が道を切り開いた」後輩たちに引き継がれた思い | 朝日新聞Thinkキャンパス

「虎に翼」主人公が学んだ法学部のいま 「彼女が道を切り開いた」後輩たちに引き継がれた思い

2024/08/27

■現役大学生による 学部・学科紹介

現在放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」は、日本初の女性弁護士でのちに裁判官となった女性が主人公です。モデルとなったのは、明治大学法学部出身の三淵嘉子さんです。困難な時代に道なき道を切り開いてきた女性法曹の情熱は、現代にどのように受け継がれているのでしょうか。現在、同大学で学ぶ女子学生に、先駆者への思いや法学部での学びについて聞きました。(写真=明治大学博物館特別展示室 連続テレビ小説「虎に翼」展〈NHK財団主催〉)

「虎に翼」で感謝の気持ち

日本の大学で最も歴史がある学部の一つが、法律を学ぶ法学部です。東京大学は1877(明治10)年の創設と同時に法学部を設置。その後、法整備が進むなかで法曹の育成が急務となり、1880(明治13)年から1885(明治18)年にかけて私立の法律学校が相次いで創設されました。主要な5校が「東京法学校社(法政大学の前身)」「専修学校(専修大学の前身)」「明治法律学校(明治大学の前身)」「東京専門学校(早稲田大学の前身)」「英吉利法律学校(中央大学の前身)」で、「五大法律学校」と総称されています。
明治法律学校は1903(明治36)年に明治大学と改称し、1929(昭和4)年に専門部の一部門として「女子部(法科・商科)」を開設しました。そして1931(昭和6)年には女子部の卒業生に対して、明治大学が設置する学部への入学を認めました。日本で初めて女性に法学教育の門戸が開かれ、日本初の女性弁護士が誕生します。そのうちの1人が「虎に翼」主人公のモデルとなった三淵嘉子さんで、日本初の女性判事、家庭裁判所長でもあります。
明治大学法学部法曹コース4年の土屋穂波さんは、「虎に翼」を見て三淵さんの存在を知ったそうです。

「私は弁護士を目指しているので、今まさに司法試験に合格することの難しさを実感しています。三淵さんたちの時代は、それだけではなく、女性の権利が制限され、さまざまな逆風があるなかで法曹の道を志し、実際に弁護士や裁判官になっています。強い意志が必要だったと思いますし、その思いを貫き、女性に道を開いてくれたおかげで、今の私はなりたい道に進めています。ドラマを見ながら尊敬や感謝の気持ちでいっぱいになります

このドラマでは、「すべて国民は法の下に平等であって」という日本国憲法第14条が、ストーリーの核となっています。

 「法律の歴史を勉強していると、男性の法律家が取り上げられることが多いのですが、今は当たり前となっている第14条が、かつて女性たちが平等を訴えたところから成り立ったのだと思うと、感動します」(土屋さん)

明治大学博物館では、連続テレビ小説「虎に翼」展を開催中(2024年3月25日~10月28日)。8月8日時点で、約4万5000人が来場(写真=明治大学博物館特別展示室「女性法曹養成機関のパイオニア-明治大学法学部と女子部-」展)

キッザニアが夢へのきっかけに

明治大学法学部は、1年次に法律の基礎や教養科目を学び、2年次からは卒業後の進路を想定した「ビジネスローコース」「国際関係法コース」「法と情報コース」「公共法務コース」「法曹コース」の5つのコースに分かれて専門性を身につけます。途中でコースを変更したり、ほかのコースの科目を受講したりすることも可能です。

「弁護士を目指すようになったのは、小学生のときにキッザニア(子ども向けの職業体験施設)で裁判所体験をしたことがきっかけです。裁判官、弁護士、検察官役などがいて、事件の裁判をするのですが、それぞれが自分の考えを主張して、そのうえで判決を下すという流れが楽しく、そのまま夢は変わりませんでした。明治大学は司法試験合格をサポートする法制研究所があるほか、各法科大学院との連携もあり、進学を決めました」

土屋さんは刑事訴訟法を中心としたゼミに所属(写真=明治大学提供)

特に印象に残っているのは、司法演習の授業です。司法試験を受けるには、学部卒業後、法科大学院に行くのが一般的ですが、司法演習の授業では、法科大学院入試に必要な論文や答案の書き方などの指導を受けます。

「実践的に学ぶことができたし、少人数の授業なので先生との距離が近く、先輩のOGが法曹の世界でどのように活躍しているのかといった話も聞けて、将来の働き方をイメージすることができました」

土屋さんは、課外活動として法律相談部に所属し、実際に一般の相談者からの無料相談を受けています。相談は法律相談部のウェブサイトで受け付けているほか、年に一度、出張相談会を開催しています。

「相談者からの相談に対して、民法などを使って解決に導きます。学んできたことを生かして困っている方の役に立てたことに喜びを感じました。また先輩弁護士の方が指導に来てくれることもあり、やりがいを持って働いている話を聞くと、弁護士になりたいという思いが強くなります」

法律相談部の活動の様子(写真=土屋さん提供)

弁護士を目指すには、まず膨大な量の条文や解釈を覚えなければなりません。

「今は法科大学院の試験に向けて勉強していますが、覚える量が膨大で大変なのはもちろん、条文の解釈は1つではなく、学説が分かれているケースもあるのが難しいところです。周りには同じ目標を持つ仲間がいるので、問題を出しあったり、確認しあったりして一緒に励んでいます

明治大学法学部で土屋さんのように法曹の道を目指す学生は、1割強。約2割は公務員になり、裁判所の事務官など法律の知識を生かした職務につきます。土屋さんが所属するゼミの担当教員でもある黒澤睦専任教授は、こう話します。

「一般企業に就職した場合も、多くが法務部門などで法律の知識を生かして仕事をしています。また、法律には直接的に関係しない部門でも、法学部で学んだ論理的な思考がプロジェクトの企画立案や評価、プレゼンなどに役立つという話は、卒業生からよく聞きます

法曹における女性の割合は3割以下

明治大学法学部の男女比は、6.5対3.5。青山学院大学や立教大学は男女比がほぼ1対1ですが、多くの法学部は明治大学と同程度の男女比で、男子学生が多くなっています。2023年の司法試験合格者の男女比は、男性70.58%、女性29.42%、法曹界の女性の割合を見ると、裁判官28.7%、検察官(検事)27.2%、弁護士19.8%(日本弁護士連合会「基礎的な統計情報」2023年)となっています。

法学部法曹コース4年の土屋穂波さん(左)、法学部の黒澤睦専任教授(右)(写真=明治大学提供)

この現状について、黒澤教授はこう話します。

フランスやドイツは司法試験合格者の約6割が女性です。日本は女性の割合が増えているとはいえ、まだまだ少ないのが現状です。『虎に翼』で主人公の寅子が男性社会に切り込んでいけたのは、法律という武器があったからです。法律を武器にできるための法学部での学びは、女性が社会でより活躍するための突破口になるのではないでしょうか」

明治大学法科大学院では、日本ではじめて女性法曹を送り出した明治大学の歴史を引き継ぎ、2006年にジェンダー法センターが発足、ジェンダーと法との関連についての研究と、その成果を生かした法科大学院教育を実施しています。また、早稲田大学法科大学院は、2015年に女性法曹の輩出を積極的に推進するためのプロジェクトを立ち上げ、女性法曹による講演会、身近な女性法曹との交流、女子学生への学修支援に取り組み、成果をあげています。

社会の基盤である司法の世界に女性が増えてこそ、女性法曹の先駆者たちが追い求めた真の男女平等に近づくのではないでしょうか。性別や年齢、立場に関係なく、社会で活躍したい学生にとって、法学部での学びは大きな力になるはずです。

「女性法曹養成機関のパイオニア-明治大学法学部と女子部-」展(主催:明治大学史資料センター) 連続テレビ小説「虎に翼」展(主催:NHK財団)を同時開催2024年3月25日(月)~10月28日(月) 開館時間:月~金10~17時、土曜は16時まで(9月19日までの土曜は休館) 休館日:日・祝日(休日授業実施日は閉館) 観覧無料。会場は明治大学博物館特別展示室(東京都千代田区神田駿河台1-1)

https://www.meiji.ac.jp/museum/exhibition/exhibition2024.html

>>【連載】現役大学生による 学部・学科紹介

(文=中寺暁子)

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