「大学の中に入ってもいいの?」 キャンパスが進化し、地域の子どもや企業が気軽に利用 | 朝日新聞Thinkキャンパス

「大学の中に入ってもいいの?」 キャンパスが進化し、地域の子どもや企業が気軽に利用

2024/07/24

■特集:キャンパスと大学選び

この10年ほどで広まった大学の取り組みの一つに、「地域との連携」があります。従来は学生が「大学から地域へ」と出ていくタイプの活動が主流でしたが、最近はキャンパスの移転・再編を契機に、市民や企業が「地域から大学へ」入ってくるという動きです。地域の人が大学に入ってくることで、どのような学びが広がるのでしょうか。(写真=立命館大学提供)

「地域から大学へ」のベクトル

「地域との連携」による学びは、文部科学省や総務省の後押しもあり、全国の大学で定着しつつあります。地域と手を取り合って、その土地ならではの課題に取り組むことは、学生にとっても貴重な学びになります。ただ、これまでは学生が、大学を飛び出して、地域に出かけていき、人と触れあう事例が一般的でしたが、最近はキャンパスの移転・再編に合わせて、地域住民が大学にやってくる「地域から大学へ」という新たな動きが広がり始めています

例えば、神奈川大学が2021年にオープンしたみなとみらいキャンパス(横浜市西区)は、街に広く開かれ、一般の人々も利⽤可能な施設があります。低層階はソーシャルコモンズとして人が行き交う「知」の交流拠点となっており、1階のカフェやレストランは一般の人々も利用できます。グローバルラウンジでは異文化体験イベントが行われるなど、社会との接点をつくりやすい仕掛けが随所に設けられており、学内外の交流が生まれ、新しい社会的価値が創造されることが期待されています。

また、地域と協力して子どもたちの祭りを開催するなど、以前から周辺とのつながりが強かった都留文科大学(山梨県都留市)でも、23年に大学と社会をつなぐ「Tsuru Humanities Center(THMC)」を開設しました。カフェコモンズやラーニングコモンズなどテーブルといすが置かれた交流スペースのほか、VR(仮想現実)などデジタル系の学びができる施設があり、学生や教職員だけでなく、地域住民も利用できます。また、多様なプロジェクトを実施することで、学内外の人が一緒に地域課題や社会問題を解決することを目指しています。

神奈川大学みなとみらいキャンパス(写真=神奈川大学提供)

そして、「地域・社会から大学へ」の姿勢を強く打ち出しているのが、立命館大学の大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)です。24年4月に同大学の衣笠キャンパス(京都市北区)にあった映像学部と、びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)にあった情報理工学部をここに移転したことで、学生数約1万人規模の大キャンパスに。15年の開設時から「地域・社会連携」を教学コンセプトの一つに掲げてきましたが、2学部の移転に合わせて新しい教室棟や施設などもつくり、地域・社会に開かれたキャンパスを強くアピールしています。

社会共創推進本部の本部長を務める三宅雅人教授はこう語ります。

「大阪いばらきキャンパスはこの春、2つの点で生まれ変わりました。一つは、それまで文系学部のみだったところに情報理工学部と映像学部が移転し、多様性を増した学部構成となったことです。もう一つは、地域・社会に開かれた『ソーシャルコネクティッド・キャンパス』を推進する組織と施設を設置したことです。同キャンパスはもともと敷地の周囲360度に塀がなく、開放的な造りになっていました。その環境を生かしつつ、地域とのさらなる融合を進めています」

地元の小学生にも研究を説明

大阪いばらきキャンパスの新棟・H棟には、先進施設が多くあります。映像学部の教室であり、多次元サウンドを体験できる空間オーディオテクノロジーを備えたシアター教室、タッチパネルを含む70以上のディスプレーを備えたホール(Learning Infinity Hall)、オンライン学習を行うための学習空間(Connected Learning Commons)などです。これだけ「ハード」の部分に力を入れたのは、最も重要な「ソフト」である教育と地域の拠点としてのレベルを高めるためです。

「Learning Infinity Hallには6人が座れるデスクが38あり、ハウリングが防止されているので、38のオンライン会議を同時に立ち上げることが可能です。教員のアイデアで、各卓からアンケートを取れるサイドモニターも備えました。先日はこの部屋に市民と学生が集まり、世界各国とつないで双方向の講義を行いました」

Learning Infinity Hallの様子(写真=立命館大学提供)

1階には地域の人々などが入ることのできるエリアが設けられ、研究成果を見せるショールームの役割も果たしています。小学生が放課後に遊びに来て、展示物などを見ながら学生に「これ何?」と尋ねることもあるそうです。

「子どもにもわかるやさしい言葉で自分の研究内容を説明することは、学生にとってもいい経験になるでしょう。また、お母さんが小学生の子どもと一緒に来て、『ここに来たら、こんなお勉強ができるんだよ。頑張りな!』とわが子に声をかけているのを見たことがあります」

研究室の学生同士だけでなく、地域の人々との交流も生まれている(写真=立命館大学提供)

こうした親しみやすい「わが街の大学」は、一朝一夕に実現したものではありません。15年の大阪いばらきキャンパス開設時、地域・社会連携を目的としたイベントを開催した際には、市民の参加者は5000人ほどにとどまりました。

「やはり『大学の中って入っていいの?』という躊躇(ちゅうちょ)があったようです。長年の地道なアピールはもちろん、中の様子がよく見えるガラス張りの校舎も功を奏したのでしょう。24年5月のイベントには、約2万3000人が来場しました。『立命館大学は一般人が行ってもいいらしい』という評判が広まり、茨木市だけでなく、北摂一帯から多くの方が足を運んでくれています

2024年5月に大阪いばらきキャンパスで開催された大学主催の地域交流イベント(写真=立命館大学提供)

融合して広がる可能性

三宅教授は「これはゴールではなくスタート」と言います。

「充実した施設ですが、その使い方を我々から学生に指導することはほぼありません。それでも学生たちは、こちらの想像以上の活用法を自分で見つけてチャレンジしています。

大学と地域・社会をつなぐ新棟・H棟のもう一つの呼び名は『TRY FIELD』。学生が失敗できる環境にこそ意味があります。先生たちは『学生をコケさす気持ち』を持って、口出ししたくなるのをぐっと我慢しています」

ライブストリーミングスタジオ(写真=立命館大学提供)

キャンパスに来るのは地域の人だけではありません。大学との協働を求める地域の企業や自治体も、日々ここを訪れています。担当職員や教員が話を聞き、どの部署につなぐべきかを考えますが、三宅教授は「企業がつながるのは、必ずしも大学とでなくてもいい。キャンパスに来ることで企業同士がつながって、新たな連携が生まれることも期待しています」と言います。

VRを中心とする先端的なXR(クロスリアリティー)を駆使する「SP LAB X」(写真=立命館大学提供)

「立命館大学は領域の異なる16学部を幅広く展開していますが、それぞれの学びの間に存在する融合領域にこそ、新たな分野の可能性があると考えています。つながりを重視するのは、立命館の体質そのものと言えるでしょう」

キャンパスの移転・再編は、学部・学科の新設・再編だけでなく、地域や企業との連携などを含めた新たな展開を生み出すことにつながっています。

 

>>【特集】キャンパスと大学選び

(文=鈴木絢子)

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