■大学のダイバーシティ
理系分野で学ぶ女子学生を増やす取り組みの一つとして、多くの大学が女子トイレの増設やロッカールームの設置など、ハード面の環境整備を進めています。なかには、女性専用のリフレッシュスペースを設置している大学もあります。どのような工夫を取り入れているのでしょうか。(写真=東京工業大学の女性専用リフレッシュスペース)
体調不良時に横になれる場がほしい
多くの大学には、学生が自由に休息したり、自習したりするスペースが設置されています。しかし、体調不良のときなどに横になりたくても、異性の目があると安心して休めないという女子学生が少なくありません。また、搾乳や授乳、着替えのためにプライバシーが守られる空間が必要になることもあります。そこで、女性専用のスペースを設置している大学が増えています。
早稲田大学や芝浦工業大学、山梨大学、長岡技術科学大学、京都大学などでは、学生、教職員問わず、女性であれば利用できるスペースを設置しています。
東京工業大学は2023年10月、大岡山キャンパス本館に女性専用のリフレッシュスペースを新設しました。企画を進めたのは、女子学生と女性教職員が中心のプロジェクトチーム「女性活躍環境改善モデルプロジェクト」です。東工大は「だれもが使いやすいキャンパス」を目指して環境改善を実施しています。女性専用リフレッシュスペースの新設に関しては、社会連携課の女性職員らが「自分たちが使うスペースなのだから、自分たちで考えたい」と手を挙げ、プロジェクトを立ち上げました。プロジェクトメンバーの一員である社会連携課の保坂ゆきさんはこう話します。
「プロジェクトチームのメンバーは、学生、教員、職員ですが、ライフステージやライフスタイルは多様です。それぞれが意見を出し合い、さらに学内構成員への意識調査の結果も踏まえて検討を重ねました」
多くの声が上がったのが、「体調が悪いときに周りの目を気にせず横になれるスペースがほしい」ということでした。
「キャンパス内には学生が自由にリラックスして過ごせる学生交流施設があり、男子学生がよくソファに寝転んでいますが、女子学生が横になっているのを見たことはありませんでした。確かに男子学生が多いスペースでは、心理的に横になりにくいと思います」
東工大の学部生の女性比率は13.1%(23年度)。女子が増えているとはいえ、同大学のような理工系大学は、キャンパス内に圧倒的に男性が多いのが現状です。また、理工系学部では、実験や研究などで作業着に着替えなければならない場面も少なくありません。しかし、更衣室が同じ建物にないなど行きづらい場合は、トイレの個室で着替えるしかありませんでした。
アイデアでセキュリティーも確保
こうした課題や要望を踏まえて決まったコンセプトは、「東工大女性の毎日を支える、安らぎのあるエッセンシャルスペース」。設置する際に優先したのは、セキュリティーの確保でした。
「この点はかなり議論して、女子トイレを経由しなければ、リフレッシュスペースに入れないような設計にしました。つまり女子トイレを利用する人でなければ、中に入ることができません。入り口はわかりにくいのですが、それよりもセキュリティーを優先しました」
また、どこでも横になれるように室内は靴を脱いで上がる畳敷きにし、テーブルやデスク部分は掘りごたつ式になっています。
東工大の大学院生が設計
設計は環境・社会理工学院の修士課程2年(当時)の女子学生が担当しました。デザインには、本館の特徴であるアーチ形のモチーフを取り入れています。
例えば、着替えや授乳ができるスペースの入り口にはカーテンがあり、プライバシーが守られるようになっています。
リフレッシュスペースの手前にある女子トイレもリニューアルし、デザインに統一感を出しました。
設置後、学生や教職員からの反応はどうだったのでしょうか。
「多くの女子学生が自由に利用し、『リフレッシュスペースができてよかった』という声が上がっています。意外だったのが、ここで自習する学生が多かったことです。というのも、キャンパス内には図書館をはじめ自習できるスペースがたくさんあり、学内で自習することは普通のことになっているからです。女性専用スペースでは、周りの目を気にせずに勉強に集中できるのかもしれませんね。今後も利用者である学生や教職員の声を拾いながら、さらに使い勝手のいいものにしていきたいです」
リフレッシュスペースは、構想が立ち上がってから約1年というスピードで完成しました。新しい設備は費用面がハードルになり、時間がかかることがありますが、同プロジェクトは「女性活躍応援キャンペーン」として寄付金を集め、費用の一部に充てました。
「キャンパス内の一部の女子トイレや多目的トイレでは生理用品の提供をしているのですが、これも女子学生からの要望によって決まりました。東工大は現場から意見を吸い上げるボトムアップがスムーズにできていると思います」
当事者の声を反映し、さまざまな人を巻き込みながらプロジェクトを迅速に進める環境こそが、ダイバーシティ実現への近道といえそうです。
(文=中寺暁子)
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