【大学ゼミ紹介】人間が飲んだ薬で、魚が行動異常を? メダカを使って影響をみる「環境生物学」 | 朝日新聞Thinkキャンパス

【大学ゼミ紹介】人間が飲んだ薬で、魚が行動異常を? メダカを使って影響をみる「環境生物学」

2024/07/01

■特集:大学の人気ゼミ・研究室

動物は周りの環境から常に影響を受けています。例えば、ワニ、トカゲなどの一部の爬虫類は温度によってオス・メスの性別が決まります。東京理科大学先進工学部生命システム工学科の宮川信一教授のゼミでは、動物が環境にどう反応するのかを研究しています。大学院先進工学研究科生命システム工学専攻1年の金子蓮司さんに、「環境生物学」という分野の研究の面白さを聞きました。(写真=金子さん、東京理科大学提供)

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■研究室データ■
東京理科大学先進工学部生命システム工学科
宮川信一ゼミ
研究分野:環境生物学
ゼミ生:20人(男12人:女8人)(2024年4月時点)

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メダカの脳の遺伝子を見る

病気の治療のために人は医薬品を服用しますが、体内から排出された成分が川に流れていくことがあります。環境中に放出された化学物質は魚にどんな影響を与えるのでしょうか。宮川教授のゼミでは、メダカを使ってこの変化を調べています。

金子さんはこう説明します。
「人間に使われた医薬品が、薬の効果を保ったまま環境中に出てしまうことがあります。人の体から排出された後に下水処理はされますが、完全には処理しきれずに、川に放出されてしまうからです。その影響を見るために、メダカに医薬品を暴露する(体内に入れる)実験をしています」

実際に川から検出された医薬品をメダカの水槽に入れ、1週間、飼育します。その後、解剖して脳を取り出し、遺伝子の変化を見ます。期間を1週間と決めたのは、ゼミの先輩による先行研究で、3、4日で異常が出ることがわかったからです。

研究室ではマウス、魚、爬虫類を使って実験をしている。トカゲがどのように温度を感じてオスとメスに分かれるのかを調べている学生も

「薬によって遺伝子が変化し、行動にも異常が現れます。代表的なのは、水面近くを泳ぐようになる『表層遊泳』です。自然界では鳥に見つかりやすくなるので、生存という点から見ると異常な行動です」

変化した遺伝子によって体の中のどの機能が変わったのかを調べ、行動異常を起こすシステムを解明するのが金子さんの研究の目的です。
「実験をして、コンピューターで解析して、どういうデータが得られるか。実験の結果が出ること自体が楽しくて、やりがいがあります。新しいことを発見する可能性にも魅力を感じています」

実験の前には200匹近くのメダカを孵化させ、3、4カ月かけて育てます。1年に3、4回の実験をして、修士論文を作成します。しかし、実験はいつもうまくいくとは限りません。メダカが大量に死んでしまって解析するだけのデータが得られず、落ち込むこともあります。そんなときは宮川教授や先輩に相談し、「よくあることだよ」などと励まされたりしながら、研究を進めてきました。研究を始めてから、思い通りにならなくても、あきらめずにやり続ける力がついたといいます。

宮川教授(右)と金子さん

社会貢献をしたい

金子さんは動物が好きで、高校生のときから生物学に興味を持っていました。大学4年次に宮川ゼミに入ったのは、身近な動物を使って遺伝子などの研究をしたかったことと、研究室を見学したときに雰囲気の良さを感じたからです。

「ゼミに入ったら、想像以上にアットホームな雰囲気でした。先生は優しく接してくださるし、先輩や後輩とはプライベートで遊びに行くこともあって、研究のことも話しやすい雰囲気です。メダカの脳から遺伝子をうまく取り出せなかったときは、同じ作業をしている先輩に指導していただいたことで、できるようになりました」

宮川教授(前列左から2人目)とゼミのメンバー

研究を始めてみて、4年次の1年間では時間が足りないと思い、大学院に進学しました。「研究をするからには社会貢献をしたい」という気持ちがあり、環境に関する研究テーマを選びました。ゼミでは医薬品に関連する研究を3人の学生が分担して進めています。今後、魚に影響を与えるメカニズムや、どのくらいの量の医薬品で異常が起きるのかが判明すれば、河川中の化学物質の許容量がわかり、下水処理場で特定の物質を取り除く対策を取ることができます。

修士課程を終えたら、研究を生かせる企業の研究所などに就職したいと考えています。

 

宮川信一教授からのメッセージ

研究で大切なのは好奇心

大学3年までの授業は座学が中心ですが、4年でゼミに入ると学びの形態がガラッと変わります。それまでに習得した教科書の知識を前提にして、実験をして新しいものを見つけるのです。最初は受け身だった学生が、自分で課題を見つけて論文を調べるようになり、見ていて驚くほど成長していきます。

研究で一番大切なのは好奇心です。実験結果が出たとき、知識に触れたときに、「へえー」で終わるのではなく、なぜそうなったのか、その疑問を解決するにはどうすればいいのか、深く掘り下げて考えてほしいです。

ゼミの指導では、チームワークを大切にしています。研究は個人が行うものとイメージされるかもしれませんが、メダカの飼育もチーム単位で行っています。単に仲良く共同作業をするだけではなく、ダメなところをお互い指摘できて、内部で課題を解決できるような研究室にしたいと思っています。だから僕はなるべく口を出さないようにして、学生同士で話し合ってもらっています

学部生の大半は修士課程に進みます大学院修了後の就職先は食品、化粧品、製薬などのバイオ関連、情報関連の企業が中心です。大学を選ぶときは、研究室まで調べると、その学科の雰囲気がわかって参考になると思います。

宮川信一(みやがわ・しんいち)教授/横浜市立大学理学部卒、総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程修了。博士(理学)。熊本大学博士研究員、基礎生物学研究所助教、和歌山県立医科大学講師、東京理科大学先進工学部生命システム工学科准教授を経て、2024年から現職。専門は環境生物学。

 

>>【特集】大学の人気ゼミ・研究室

(文=仲宇佐ゆり、写真=東京理科大学提供)

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