青学や立教…キリスト教系大学の歴史と学び 聖書の教えが人間関係の解決のヒントに | 朝日新聞Thinkキャンパス

■令和の大学を考える

大学選びの際、偏差値や知名度だけでなく、「どんなことを学べるか」「どんな歴史を持った大学か」といったことまで、興味を持って調べることが大切です。特に宗教系の大学は、独自のルーツを持ち、教育内容にも影響しています。教育ジャーナリストの小林哲夫さんが、キリスト教系大学について解説します。(写真=関西学院大学、2022年朝日新聞社撮影 本文中の学生数、就職先採用人数などは『大学ランキング 2024』<朝日新聞出版>から、2022年の数字)

>>宗教系大学を知る【前編】 仏教系大学の魅力とは

カトリック系の有名大学

キリスト教系大学を見てみよう。ミッション系と呼ばれるが、カトリックとプロテスタントでは大学のカラーが違ってくる。

カトリック系は男子修道会、女子修道会に分かれて布教活動を行っていた。16世紀半ば、フランスの男子修道会系、イエズス会のフランシスコ・ザビエルは「日本の首都に大学を」という希望をローマへ書き送る。これが350年以上の時を経て、1911年設立の上智学院の創設につながった。上智大の起源である。オランダの男子修道会によってつくられたのが南山大(愛知)だ。上智大と南山大はスポーツで交流戦を行うほど仲が良い。

 

フランスの女子修道会系では、1881年設立の高等女子仏英和学校(校名は1898年から)が白百合女子大、1908年設立の語学校が聖心女子大の源流となる。スペインの女子修道会系として1950年、清泉女子大が開学した。いずれも東京都内にキャンパスを持っており、3大学の関係者は「3S」と自称していた。メディアから「お嬢さま大学」と称されることがあった。これは、かつて厳しい生活指導(通学服、身だしなみ、礼儀作法など)が行われていたことによる。

なかでも聖心女子大には皇室(上皇后美智子)およびその関係者、また、いわゆる「社長令嬢」といわれた学生が多く通っていたため、昭和の時代、卒業アルバムが数十万円で出回っていたこともあった(いまでは個人情報保護の観点からあり得ない話である)。いまは、このような見方はあまりされなくなった。2020年代、「3S」ではさまざまな学生が学んでいる。生活指導も緩くなり、学生がメディアに出ることについても、たとえば聖心女子大では「本学では学生のマスコミ活動・芸能活動などの希望がある場合には事前に届け出ることとしています」(大学ウェブサイト)と理解を示すようになった。

卒業生の進路も多様だ。「家事手伝い」はほとんどいなくなり、清泉女子大から警察官2人、自衛官1人、聖心女子大から警察官3人、自衛官6人を送り出している。ミッション系大学のイメージは時代とともに大きく変わった。

ドイツの女子修道会が1925年に北海道に札幌藤高等女学校を設立した。1961年に藤女子大として引き継がれた。謙遜、忠実、潔白を象徴した言葉である「藤」が校名の由来となる。

プロテスタント系の有名大学

プロテスタント系を見てみよう。16世紀、ドイツ人牧師、マルチン・ルターは、ローマ・カトリック教会のあり方(信仰の儀式化、教義の形骸化、組織の腐敗など)を批判して宗教改革をすすめた。「抗議する」「告白する」などの意味合いを持つ、プロテスタントの誕生である。プロテスタント系からは多くの教派が続々と登場し、明治維新以降の日本にも広がっていく。

宗教改革によって、18世紀のイギリスにメソジスト教会が生まれた。規則正しい生活方法=メソッドを推奨する、から名付けられた。1870年代、欧米のメソジスト教会の宣教師が来日する。1874年、アメリカ・メソジスト監督教会は青山学院を設立した。青山学院大のルーツである。

2022年、青山学院大はキリスト教系大学としての誇り、責任を示した。同年、安倍晋三元首相の襲撃事件に関連し、世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)が過去に引き起こしたトラブルが問題になった。これについて、大学は「危険な宗教集団(カルト集団)」が「通常の市民生活を破壊し、様々な社会問題を引き起こす」と強く非難し、「例えば、『統一協会(原理運動)』や『摂理』などと呼ばれるものにはその傾向が強く、本学内でも勧誘活動をしているという疑念が報告されています」と警鐘を鳴らした。

青山学院大はキリスト教を名乗る「カルト集団」を許せなかったようだ。こう説いている。「カルト集団はマインド・コントロールを組織的かつ巧妙に駆使して、学生としての貴重な時間を奪い、経済的・肉体的に大きな負担をかけ、大切な学生生活を台無しにしてしまいます。これらのカルト集団は、真の人格形成を大切にする本学の建学の精神である福音的・聖書的キリスト信仰とは全くの別ものです」(以上、カッコ内引用はすべて青山学院大学ウェブサイト)。ミッション系大学の矜持ともいえる、骨太な姿勢である。

新JAL社長の系列校も

話をアメリカ・メソジスト監督教会に戻そう。1879年、同教会は長崎に活水女学校を開校した。校名の由来は、聖書にある「わたしが与える水を飲む者は決して渇かない。わたしが与える水はその人の内で泉となり、永遠の命に至る水がわき出る」からで、「活ける水」はキリストの象徴という考えによる。最近、活水という校名がクローズアップされた。2024年4月、日本航空の社長に就任した鳥取三津子さんは活水女子短期大出身である。同短期大は2003年で学生募集停止となり、活水女子大に引き継がれている。

アメリカ・メソジスト監督教会は南北戦争で北部、南部に分かれる。1889年、アメリカ南メソジスト監督教会の宣教師が関西学院を設立した。ここから関西学院大(兵庫)が誕生する。この頃のミッションスクールの多くは英和学校と名付けられたが、「学院」と付けた。学校名に「学院」が付くさきがけとなる。カナダ・メソジスト監督教会も精力的に動いた。1884年に東洋英和女学校、現在の東洋英和女学院大(神奈川)のルーツ校をつくった。なお、アメリカでは19世紀初頭に外国伝道組織として教派を超えた「アメリカン・ボード」が創立された。奴隷制度への反対、南北戦争後に南部で黒人のための大学設立などを行っている。

1875年、アメリカン・ボードの宣教師だった新島襄が同志社を設立した。いまの同志社大(京都)のルーツだ。校名の由来は、「志を同じくする者が集まって創る結社」である。2023年、同志社大は司法試験合格者数29人を数えた。合格率33.3%。これはいずれも宗教系大学のなかでもっとも多く、高い数字である。日本でもっとも法曹に近いキリスト教系大学だ。

平和の尊さを学ぶ

16世紀、イギリス国教会から生まれた聖公会が世界中に広がった。日本にも19世紀後半、日本聖公会が創設される。1874年にはアメリカ聖公会の主教が築地に私塾を開校した。のちに立教学校と称し、立教大となった。校名の由来は聖公会の祈禱書(礼拝時に使う規則書)にあった「立教師」からともいわれている。1901年にはアメリカ聖公会の宣教師が聖路加国際病院(現在)を設立した。聖路加国際大の前身である聖路加看護大は1964年に設置された。「せいろか」ではなく、「せいるか」と読む。福音書の著者ルカによるからだ。

17世紀、バプテスト教会が登場し、アメリカで広がった。水の中に入って洗礼=バプテマスを行い、個人の良心の自由を大事にすることを掲げている。19世紀後半、日本にもバプテスト教会が全国につくられた。1884年、横浜バプテスト神学校がつくられた。関東学院大(神奈川)の源流となる。1916年、アメリカのバプテスト派の宣教師が西南学院を設立した。西南学院大(福岡)開学につながっていく。西南学院は平和宣言を発表している。

「自国本位の価値観を絶対視し、武力・暴力の行使によって人々の尊厳を抑圧するという過ちを二度と繰り返すことのないよう、西南学院に学ぶ者たちや教職員が目をさまして行動し、国際社会の真の一員となり、『平和を実現する人々』の祝福の中に生きる者となるよう、今その志への決意をここに表明します」(大学ウェブサイト)。キリスト教の教えに基づいた、戦争反対の意思表示である。

キリスト教系大学も多くは宗教関連科目が必修となっている。「キリスト教概論」「聖書講読」などだ。

上智大は必修科目「キリスト教人間学『他者のために、他者とともに』」についてこう説明する。「誰をも除外することなく、支援が必要な人々や、貧困の中で生きる人々の“隣人”になって欲しいとの願いが込められています」(大学ウェブサイト)。いまの日本では、キリスト教の教えに触れる機会はあまりない。大学の授業を通して、愛、平和の尊さを教えてくれる学びとなっている。生き方、人間関係に悩んだとき、解決のヒントを与えてくれるかもしれない。

宗教系大学の沿革、特徴をざっと概観してきた。

仏教系、キリスト教系は奥が深い。カルト団体への批判、「平和宣言」に代表されるような強い主張を持っている。宗教関連科目を通して、生き方を説いてくれる。国公立大学では味わえない魅力だ。宗教系大学の中身をもっと知りたくなったら、大学広報担当者を訪ねて、宗教系の授業、施設、イベントについて聞いてほしい。SNSの情報だけでなくぜひ、キャンパスに足を運び、仏教系大学ならば参拝施設、キリスト教系大学ではチャペルを見ることをすすめたい。神聖な気分にさせてくれる。

(文=小林哲夫)

>>宗教系大学を知る【前編】 仏教系大学の魅力とは

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プロフィール

小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。

 

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