「ママはご飯を作ってればいいから」 母親をなめる息子…どうコミュニケーションすれば? | 朝日新聞Thinkキャンパス

「ママはご飯を作ってればいいから」 母親をなめる息子…どうコミュニケーションすれば?

2024/06/23

■思春期子育てお悩み相談

子離れ、親離れの難しさは、核家族が当たり前になった現代の課題でもあります。いつまでも子どもでいられても、逆にあまり急に大人になられても、戸惑う親は多いでしょう。思春期の子と親のリアルな悩みを聞いてくれるのは、「ビリギャル」として知られる小林さやかさん。先日、アメリカのコロンビア大学教育大学院を「オールA」で修了した彼女が、親世代に伝えるアドバイスとは?(写真=本人提供)

Q.息子は高校2年生です。中学時代から自立心が旺盛でしたが、高校に入るとますます拍車がかかり、大事なことも親には何も相談せずに決めてしまうようになりました。勉強にもスポーツ系の部活にも一生懸命に打ち込んでいて、親から見ても高校生活は充実している様子。異を唱えるつもりはありませんが、すべて事後報告なので「えっ!?」と驚くことも多く、少々寂しい気がしています。急激な成長に私が追いついていないだけかもしれませんが、「ママはご飯を作ってくれていればいいから」と言われると、なんだか少しモヤモヤ。しっかりしているとはいえ、まだ高校生ですし、受験期には親として把握しておくべきこと、サポートすべきこともあると思うのですが、このまま本人任せでよいのでしょうか。もう少しコミュニケーションを取るにはどうしたらよいでしょうか。(母親・54歳・神奈川県在住)

「私」の気持ちを、子どもに伝える

【回答】

息子さんの成長、嬉しい気持ちと寂しい気持ちとの葛藤。親御さんあるあるですよね。勉強も部活も頑張っていてなんの申し分もない様子。なので、ぜひ「大人同士」のコミュニケーションを、楽しんでほしいなあと思います。

男の子があまりお母さんにいろんな話をしないのは日本の文化でもあると思いますが、まずできることは、以前にもお話しした「Iメッセージ」での投げかけかな。「お母さんは最近こういうことを考えているんだけど、あなたはどう思う?」などと、相手のことを知りたいのなら、「私」を主語にして、まず自分の気持ちを伝えてみましょう。

ただ、見過ごせないのは、「ママはご飯を作ってくれればいい」という言葉です。普通に考えてすごく腹が立ちますよね。「だれが育ててきたと思ってんだ、ちょっと来い!」って思っちゃいました(笑)。このままじゃ息子さん、時代遅れの昭和な亭主関白になりかねません。令和ではたぶんあんまりそれモテないんで、息子さんのためにも、お母さんはもっとはっきりそこには異を唱えていいと思いますよ。

ここでも伝えるべきは、Iメッセージとしての「私はそんなことを言われたらすごく嫌だ」という気持ちです。お母さんは息子さんとのコミュニケーションのために、相手の話を聞く必要があるとか、親として何かアドバイスしてあげなければいけないとか思っているかもしれません。でも私のおすすめは、お母さん自身の話を子どもに聞いてもらうことです。「聞いて、今日こんなことがあったの」とか、「こういう問題、今はどうなっているの?」とか。相手の話は、自分が話した上で「ご意見拝聴」するぐらいでOK。

Iメッセージのキャッチボールができるようになると、信頼関係が築けます。そうすると、だんだん息子さんもお母さんに色んな話をするようになるんじゃないかな。まずは、親子という関係に甘えずに、地道に信頼関係の構築です。上下関係はそこにはなくて、対等なコミュニケーションを意識して。

5月、コロンビア大学教育大学院を修了した(写真=本人提供)

子どもの成長は、親の自己実現ではない

コロンビア大学教育大学院で「ポジティブサイコロジー」(人のプラスの感情を科学的に研究する学問)の授業を取ったとき、こんな内容を聞きました。心身ともに満たされている幸せな状態のウェルビーイングには「ヘドニック(hedonic)」と「ユーダイモニック(eudaemonic)」の2種類がある。「ヘドニック」は例えるなら、お金がたくさんあって仕事をする必要もなく、ハワイのビーチで寝っ転がって海外ドラマを見ているような状態。つまり、ポジティブ感情が多く、ネガティブな感情が少ない状態です。

一方、後者は、自分の能力を発揮して何かをやり遂げたときに感じるもの。自分の成長を感じたり、達成感を得たりしたときの「幸福感」です。私は日本の女性には、後者の「ユーダイモニック的な幸せ」が欠けていると思います。

特に専業主婦だと、日本の女性は家族に奉仕する家政婦と化してしまっていることが少なくありません。外で働く夫と話が合わなくなったり、会話が減ったりということもよく聞きます。この質問者さんの息子さんの言葉が、なにかそういったことを思わせる雰囲気を持っていると感じました。「相談したところで、お母さんに社会の何がわかるの」などと思われていたら、こんなに不本意なことはありません。家族のために尽くしているのに、そんな言われようは、たまったもんじゃないですよね。そうならないように、お母さんにも「ユーダイモニック的な幸せ」を追求してほしいのです。

まず、何でもいいからお母さんがワクワクすることや興味のあることをノートに書き出してください。「私の人生って何? やりたいことは?」と、いったん立ち止まって考えてみてほしい。子どもの成長はお母さん自身の自己実現ではないし、そう思っている限りは、お母さんのモヤモヤは埋められませんお母さんが自覚を持てば、息子さんとの対話のあり方も、彼の言葉も変わってくるはずです。

コミュニケーションの面はこうしたことで改善できると思いますが、「親としてサポートすべきこと」について答えるなら、「余計なことをしないというサポート」を提案したいですね。手出ししないのは一番難しいことだと思いますが、子どもと自分を同一視して一体化してしまったら、親も子も双方が苦しくなる。息子さんはしっかりしているので、何か困ったら向こうから言ってくるでしょう。

この先も彼が自分自身で自分の人生を歩いていける人に育つよう、お母さんには「信じて見守る」という勇気を持ってほしいと思います。そして、お母さんはお母さん自身の人生を、ぜひ謳歌してほしいと思います。

〈プロフィル〉

小林さやか(こばやし・さやか)/1988年、名古屋市生まれ。中学・高校でビリを経験。素行不良で何度も停学になり、高校2年生のときの学力は小学4年生のレベルで偏差値は30弱だったが、塾講師の坪田信貴氏との出会いを機に大学受験を目指す。その結果、1年半で偏差値を40上げて慶應義塾大学に現役合格を果たした。その経緯を描いた坪田氏の著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』は120万部を超えるミリオンセラーとなり、映画化もされた。大学卒業後はウェディングプランナーの仕事に従事した後、「ビリギャル」本人として講演や執筆活動を行う。2021年、聖心女子大学大学院文学研究科人間科学専攻教育研究領域博士前期課程修了。24年5月に米国コロンビア大学教育大学院で認知科学の修士号を取得。近著に『ビリギャルが、またビリになった日 ─勉強が大嫌いだった私が、34歳で米国名門大学院に行くまで─』(講談社)がある。

>>【連載】思春期子育てお悩み相談

(文=鈴木絢子)

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