「学歴フィルター」は都市伝説? 就活生が語る「体験談」【前編】 | 朝日新聞Thinkキャンパス

「学歴フィルター」は都市伝説? 就活生が語る「体験談」【前編】

2024/04/10

■特集:令和のキャリア教育・シューカツ事情

いい高校からいい大学へ、そして、いい会社へ――日本の学歴信仰の背景には、「偏差値の高い大学に入れば、有名企業に就職できる」という考えがあります。裏を返せば、「入社試験では大学名でふるいにかけられる」と考えている人が多いということです。そんな「学歴フィルター」は、本当に存在するのでしょうか。もしあるとすれば、大学選びにどう関わるのでしょう。働き方や就活に詳しい千葉商科大学の常見陽平准教授に聞きました。(写真=Getty Images)

「学歴フィルター」の実例

「学歴フィルター」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。新卒の採用活動で、企業が採用のターゲットとする大学を絞り、応募学生をふるいにかけて、選考を進めることを指します。この言葉が広く使われるようになったのは2010年代の初め頃ですが、以前から「いい会社に入るためには、偏差値の高い大学に入学しなくてはいけない」と言われてきました。

日本労働組合総連合会が23年に行った「就職差別に関する調査2023」によると、最終学歴が4年制大学・大学院という588人のうち「学歴フィルターを感じたことがある」と回答した人は43.9%となっています。

日本労働組合総連合会「就職差別に関する調査2023」から。2023年4月の4日間に全国の15~29歳の男女1000人を対象にインターネットで調査。うち最終学歴が4年制大学・大学院は588人(図=調査結果をもとに編集部が作成)

「あるのかないのか、都市伝説みたいですね」と笑うのは、『「就活」と日本社会 平等幻想を超えて』(NHK出版)などの著書がある千葉商科大学の常見陽平准教授です。

常見准教授は「学歴フィルターは、『ある・なし』では語れません」と言います。というのも、学歴フィルターとして考えられる選考方法にはいくつかの種類があるからです。

 

学歴フィルターの種類

1 エントリー段階での学歴フィルター
エントリーする段階で大学名でふるいにかけられてしまい、企業説明会の予約ができない、書類選考で落ちてしまって次のステップに進めないといったことが起きる。特に応募者の多い人気企業で、応募者を絞るなどのために使うケースがある。

2 選考段階での学歴フィルター
エントリーができても、○○大学から10人、△△大学から20人など、在籍大学ごとに採用人数の枠が決められているケース。採用試験などの段階で有利不利が発生する。

3 職域別の学歴フィルター
内定が出たとしても、大学によって内定が出やすい職種などが異なるケース。偏差値の高い大学は「総合職」で採用され、偏差値が低い大学は「地域限定職」「職種限定職」などでしか内定が出ないことがある。

 

以下は、就活生が実際に経験した学歴フィルターの例です。

●就職サイトのマイページから企業説明会に申し込もうとしたが、「満席」で予約できなかった。しかし、他大学の友達が同じ説明会を見たら、席はまだ空いていた。

●企業説明会に申し込んだところ、「応募者多数のため抽選となりました」という回答がきた。当選したので説明会に行くと、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)以上の学生しかいなかった。

●多くの人に添削してもらった力作のエントリーシートが書類選考を通過できなかった。一方、スカスカのエントリーシートを提出した有名大学の学生が次の面接に進んだ

いずれも学生が学歴フィルターと感じた例ですが、実際に学歴フィルターはあるのか、どの企業のどの段階で使われているのかという実態はわかりにくくなっています。「それでも希望者が集中する一部の企業で、さまざまな方法で使われているのは確かなようです」と常見准教授は話します。

「自己暗示」にかかる場合も

一方で、「学歴フィルターを設けていない企業も少なくない」と常見准教授は言います。

「近年は多様性を重視する傾向があるし、『さまざまな大学のトップ層の学生を集めたい』と言っている企業もあります。実際、エントリーの段階で大学名の記入欄をなくした大企業もあります。ところが、『いざふたを開けてみたら、応募してくるのは偏差値が高めの大学ばかり』という人事担当者の話も耳にしました。さまざまな大学から多様な人材を採用したくても、応募者が少ない大学からは求める人材が見つからないことも多く、結果として採用につながらないのです」

なぜ学歴フィルターをかけていない企業にも、限られた大学からの応募しかないのでしょうか。

「まず、情報が少ないということです。就職情報サービスからのメルマガを送るのも、大学名で分けている傾向があります。有名大学の学生には商社や銀行、大手メーカーの案内が届く一方で、そうでない大学の学生にはサービス業や飲食業、福祉系の企業の案内が届く、という具合です」

さらに「前例がない」という現実もあるようです。

「大学によっては、サークルの先輩やゼミの先輩に大手メーカーや商社に就職した人がいない、信用金庫に勤める先輩はいてもメガバンクはほぼゼロ、ということもあります。そうなると学生が『どうせ学歴フィルターで落とされる』と勝手に考えて、エントリーさえしないことも多いのです。『自分には無理』という自己暗示にかかってしまうのですね」

つまり、学生の側にも学歴フィルターの思い込みがあるということです。それを乗り越えるにはどうすればいいのでしょう。
「まずは受けることです。エントリー段階での学歴フィルターがあるかどうかは、エントリーしてみないとわかりません。会社説明会に参加するところまでたどり着ければ、次の可能性が見えてきます」

あるのか、ないのか。あるとしてもどこに使われているのか、学生にはよくわからないのが学歴フィルターです。であれば、少しでも偏差値の高い大学を目指したほうが安心と考えがちですが、常見准教授は「その考えは安易です」と言います。

受験エリートが必ずしも企業エリートになれるわけではない、ということに気づいている企業は多いです。大学名で学歴フィルターを1つ越えたとしても、その先の関門を越えられるかはわかりません。それよりは4年間で学生がどれだけ成長できるか、どんなことを学べるのか、そうしたことをしっかり考えて学生をサポートしてくれる大学を選ぶほうが、有利であるとも言えるのです」

>>「学歴フィルター」の抜け道を探せ 就職に強い大学を見極めるポイントとは【後編】

常見陽平(つねみ・ようへい)/千葉商科大学国際教養学部准教授、働き方評論家。1974年生まれ、北海道札幌市出身。一橋大学卒業後、リクルートに入社。バンダイに転職後、2010年に『くたばれ!就職氷河期 就活格差を乗り越えろ』で注目を集める。38歳で一橋大学大学院社会学研究科修士課程に入学し、14年に修了。フリーランスなどを経て現職。

(文=神 素子、写真=高野楓菜)

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