【大学トレンド】増える公立大学、9つの魅力 東大、早慶など「難関大」志向に変化? | 朝日新聞Thinkキャンパス

【大学トレンド】増える公立大学、9つの魅力 東大、早慶など「難関大」志向に変化?

2024/03/09

進学にかかる費用を抑えるために、自宅から通える大学を選ぶ学生は少なくありません。学費が安い公立大学は年々、その数を増やし、地元での存在感を高めているようです。教育ジャーナリストの小林哲夫さんが、公立大学の現状を解説します。(写真=Getty Images)

【令和の大学を考える】

増加する公立大学 その背景とは

全国各地の受験生の間で地元志向が広がっている。地方の進学校教員がこう話す。

2000年代ぐらいまで東大や京大、早慶上智、関関同立など難関大学を目指していた成績優秀な生徒層が昨今、地元の大学に進むようになった

地元志向を証明する確たるデータはない。だが、関東、関西の都市部の大学では、入学者のうち地方出身者が減っており、その裏返しとして地元の大学を第1志望とする受験生が多くなったようだ。このように進学校の教員は見ている。

地元志向で存在感を示しているのが、公立大学である。学費が安く、自宅から通えることで人気が高い。そして、公立大学そのものも数が増えて、受け入れ定員枠が広がった。 01年度からの公立大学の数、学生数の推移を見ると、次の通り

(図=文部科学省学校基本調査をもとに編集部で作成)

なぜ、公立大学は増えたのだろうか。ざっとこんな背景が考えられる(カッコ内は設置地域、開校年)。

  1. 地元の公立短期大学が「短大離れ」を見越して4年制大学化した。福山市立女子短期大→福山市立大(広島、11年)、新見公立短期大→新見公立大(岡山、10年)など。
  2. 自治体の少子化対策、地域活性化政策。若い世代の地元からの流出を防ぎ、他地域から若い世代を集めて地域の活性化を図る。芸術文化観光専門職大(兵庫、21年)、叡啓大(広島、21年)
  3. 定員割れとなり、経営難の私立大学を地方公共団体が救済する。徳山大→周南公立大(山口、22年)、旭川大→旭川市立大(北海道、23年)


高い就職率 福祉・医療系の国家試験合格率100%の大学も

受験生目線から公立大学を見てみよう。

全国各地に公立大学がつくられるのは、地元の高校生にとってはありがたい話だ。自宅近くに、自分の将来につながる分野を学べる大学・学部がなく、関東や関西の大学に進まなければならない。そんな状況が解消しつつあるからだ。

例えば、看護師や保健師、リハビリテーションを支援する理学療法士や作業療法士になりたい場合、以前ならば、地域によっては地元を離れなければならなかった。だが、いまでは、自宅から通える大学にこうした専門職養成機関が増えた。

その柱となるのは公立大学である。就職率や専門職になるための国家試験合格率がかなり高いことが、地元の受験生に支持されている。

就職率が高い学部を持つ公立大学がある。

◆観光系学部:長野大環境ツーリズム学部97.9%(1位)
◆理・工・理工学部:名古屋市立大総合生命理学部100%(1位)
◆国際系学部:公立小松大国際文化交流学部98.6%(2位)
◆商・経営・経済学部:横浜市立大国際商学部96.9%(4位)
◆文学部:群馬県立女子大文学部92.3%(7位)
◆保健・福祉・健康系学部:愛知県立大教育福祉学部98.9%(10位)
(23年度、大学通信調査)

福祉・医療系などの国家試験合格率100%は次のとおり。

◆社会福祉士:名古屋市立大
◆精神保健福祉士:神奈川県立保健福祉大、福井県立大、岡山県立大
◆理学療法士:青森県立保健大、千葉県立保健医療大、神奈川県立保健福祉大、大阪公立大、県立広島大
◆歯科衛生士:埼玉県立大、九州歯科大
◆臨床工学技士:公立小松大
◆管理栄養士:長野県立大、熊本県立大、福岡女子大
◆臨床検査技師:埼玉県立大

(23年度、厚生労働省資料から)

社会貢献度の高さが共通の魅力

公立大学の魅力は、次のようにまとめることができよう。

(1)伝統校は地元自治体、金融機関に人材を輩出
高崎経済大(群馬)は高崎市、宇都宮市、群馬銀行、八十二銀行(長野市が拠点)、七十七銀行(仙台市が拠点)などへの就職者が多い。都留文科大(山梨)は信州、東海、関東圏の小中学校と高校の教員を多く送り出す。この2大学は地元出身比率が低く、全国各地から学生が集まっている。

(2)医療、福祉、保健系に強い
国家試験合格率は100%またはそれに近い。優秀な学生が集まった、入学後にまじめに取り組んだ証しといえよう。高い合格率の大学は、前記のほかに岩手県立大、山形県立保健医療大、茨城県立医療大、新潟県立大、静岡県立大、滋賀県立大、山口県立大、高知県立大など。

(3)グローバル、外国語系で独自路線を推進
国際教養大(秋田)はすべての授業が英語で行われており、海外留学が必須。

(4)大規模大学は総合力を生かしている
東京都立大、名古屋市立大、京都府立大、大阪公立大などは地域に存在感を示しており、卒業生は自治体、金融、メーカーに強い。

(5)SDGs(持続可能な開発目標)などを教育のメインに置く大学

叡啓大(広島)ではSDGsを意識した教育を行っている。有信睦弘学長は東芝研究開発センター所長、東京大副学長の経験を生かし、「予測不可能な時代を切り開いていくことができる人材を育てたい」と訴えている(大学ウェブサイト)。ほかに鳥取環境大など。

(6)コンピューターなど専門分野への教育が自慢
会津大コンピュータ理工学部は優れたシステムエンジニアを多く生み出している。

(7)芸術系で個性的な人材育成
京都市立芸術大のルーツは1880年開学の京都府画学校までさかのぼり、関西で多くの芸術家を育ててきた。同校は2023年10月、京都駅近くにキャンパスを移した。京都駅から最も近い大学となる。金沢美術工芸大は70年以上の歴史があり、北陸地方の文化遺産を継承してきた。一方、2010年代に秋田公立美術大が開学、長岡造形大、静岡文化芸術大が私立から公立に移管している。

(8)ユニークな学部がある
福井県立大は25年に恐竜学部(仮称)の設置を予定している。なかなか挑戦的なテーマである。

(9)43都道府県に存在する
公立大学は全国津々浦々にあるというわけではない。栃木、徳島、佐賀、鹿児島は空白県となっている。このうち、佐賀で佐賀県立大設置が計画されている。県内に大学が2校しかない。若者の多くが県外の大学へ進んでいる現状を改善するためだ。

公立大学には、授業料が安いこともあって、地元の優秀な学生が集まる。また、都道府県を越えて意欲十分な学生がやってくる。大学周辺は若い人であふれ、街は元気になる。学生たちは医療、福祉などの専門職に就き、地域の人に安心とやすらぎを与えてくれる。地元の自治体や地元企業で活躍し、地域社会を活性化させる。あるいは、伝統文化を継承してくれる。また、大学が取り組む最先端の知が、公開講座やセミナーなどで近くの住民に伝えられる。一方でグローバル人材、AIを駆使できるシステムエンジニア、SDGsに取り組むプロフェッショナルをつくり出す。

なるほど、公立大学の取り組みに共通しているのは、将来を見据えた社会貢献に力を入れていることだ。こうした姿を見ている高校教員から、公立大学は高く評価されている。「信頼できる」「安心感がある」と。ただ、定員割れを起こした私立大学が公立大学へ安易に生まれ変わることについては、「大学の中身が変わらないならば、教育面で不安を覚える」という声は出ている。公立化した大学はしっかり教育内容をアピールしなければならない。

公立大学をチェックしない手はない。学びのメニューが数多くそろっているからだ。どれも魅力あふれる。受験生はこれらをじっくり眺めてほしい。自分の将来を探し出すヒントになるかもしれない。それは公立大学にとってもうれしいことである。

プロフィール
小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。

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