円安で海外留学はどう変化した? アメリカでの生活費は年300万円 | 朝日新聞Thinkキャンパス

円安で海外留学はどう変化した? アメリカでの生活費は年300万円

2024/03/20

■イマドキの留学・国際交流

新型コロナウイルスによる行動制限が解除され、渡航者の入国を規制していた国々が再び門戸を開いています。大学生の留学事情に、変化は見られるのでしょうか。気になる「海外留学のいま」に迫ります。(写真=Getty Images)

コロナ後は長期留学者が多い

日本学生支援機構(JASSO)が実施している「日本人学生留学状況調査」によると、2009年度から18年度までの10年間で、海外留学する学生は右肩上がりで3倍以上に増加し、18年度には約11万5千人になっていました。

留学が増えていた理由を、文部科学省を中心とする官民協働の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN(以下、トビタテ)」広報担当の西川朋子さんは、こう話します。

「大学がグローバル化を目指し、留学を必須とする国際系の学部が増えたことや、国や民間の留学生への奨学金が増えたことも後押しとなり、大学生の間で『留学しておいたほうがいいよね』という傾向が高まり、主に夏休みや春休みなどの長期休みを利用した1カ月未満の短期留学が増えました」

ところが、19年12月頃から新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大したことで、20 年度は約1500人にとどまり、前年度比でマイナス98.6%と大幅減。21年度は入国制限の解除が始まり、若干の回復を見せたものの、それまで留学の4分の3を占めていた3カ月未満の短期留学プログラムの再開は遅れ、結果的に長期留学者が多い傾向となっていました

2023年3月7日発表「『外国人留学生在籍状況調査』及び『日本人の海外留学者数』等について」から(グラフ=トビタテ!留学JAPAN提供)

学費が安いヨーロッパとアジア圏が人気

落ち込んだ留学者数の回復が期待されたのが、23年5月の新型コロナ感染症の5類への移行でした。ところが、今度は円安と世界的な物価高が留学を抑制することになりました。
アメリカの名門大学などへの留学をサポートしているアゴス・ジャパンの留学指導部のディレクター、松永みどりさんは、次のように話します。

「アメリカに留学する場合、円安とアメリカの物価高の影響で、これまで年間150万~200万円で収まっていた生活費が、200万~300万円かかる状況になっています。一般家庭で1年間の支出が50万〜100万円も変わるのは家計にとって死活問題です。そのため、海外留学する学生の数がコロナ前の水準まで戻りきれていないのが現状です」

ただし、伸びている地域もあります。

「全国調査は発表まで時間を要するため、22年度以降の正式なデータはまだ出ていませんが、物価高のアメリカが敬遠されている代わりに、ヨーロッパやアジアへの留学が増えている印象です。ヨーロッパも物価は上昇しているものの、多くの国では大学の学費が日本のそれに近く、アメリカほど高くないこともあって人気です。タイやベトナム、マレーシア、インドといったアジア圏は、EU圏同様、学費がアメリカより大幅に抑えられます。渡航費も安く済むうえに、タイのチュラロンコン大学、マレーシアのマラヤ大学をはじめ、世界大学ランキングの上位に入っている大学があります。英語で学べるコースも充実しているため、タイやマレーシアで観光マーケティングなどの専門性を追求する留学生も増えつつあります。また、非英語圏の大学では、学内では英語、学外では現地の日常会話を学べることから、2つの言語を習得できるという点に魅力を感じる学生も多くいます」(トビタテの西川さん)

●コロナ禍(2021年度)の大学生等の留学先と留学者数

「『外国人留学生在籍状況調査』及び『日本人の海外留学者数』等について」から(グラフ=トビタテ!留学JAPAN提供)

チャレンジ精神が就活で評価

では、留学するとどんな成果を期待できるのでしょうか。トビタテの西川さんはこう話します。

「慣れない土地に行って生活する上では、当然、困難なことにも出合いますし、それを自分一人で乗り越えていかなければなりません。自分で道を切り開く『主体性』簡単なことではへこたれない『タフネス』多様な人とコミュニケーションを取りながら物事を進められる『コミュニケーション力』が身につくのが留学です。企業の採用担当者への調査でも、語学力だけでなく、留学経験者は『チャレンジ精神がある』などと高く評価されています」

以下が、企業の採用担当者から見た、高校生、大学生が海外留学することで身に付くと思う力についての調査結果です。

「学生の海外留学に関する調査2023」から(図=トビタテ!留学JAPAN提供)

大学3年の冬から就職活動が本格的に始まるため、1年間の長期留学をするなら大学2年の秋から3年にかけて行くのがいいと言われています。しかし、そのためには1年秋までにTOEFLなど英語の資格試験の点数を留学先の基準まで上げておかなければならないため、現実には準備が整わず、大学3年から留学する人も少なくありません。その場合、就活に差し障るのではないかと心配になりますが、西川さんが「多くのトビタテ派遣留学生は1年休学をし、大学を5年間で卒業する選択をしています。それが就活で不利になるという話は聞いたことがありませんし、要は自分が何を得たか次第です」と言うように、1年間卒業が延びても、それ以上の武器を手にする可能性が留学にはあります。
もちろん4年で卒業したければ、最近はオンライン面接を実施する企業が増えたことで、海外にいながら日本企業の就活をすることも十分に可能です。

米ボストンで就活フェア

また、留学先で就活をする手もあります。

有名なのが、アメリカのボストンで毎年11月に開かれる就活フェア「ボストンキャリアフォーラム」(通称・ボスキャリ)です。これは日英バイリンガルのための世界最大級の就職・転職フェアで、海外留学生も参加対象となります。23年は170社を超えるグローバル企業が参加しました。当日は事前予約した企業のブースに行くと、その場で面接・選考が行われ、内定が決まるケースもあるといい、規模こそ違いますが、ロンドンやロサンゼルスなどでも同様のフェアが開催されています。

34年次に留学して、ボスキャリなどで人気企業の内定を手にする学生も少なくありません留学中に現地でインターン先を見つける学生もいます」(アゴス・ジャパンの松永さん)

留学をきっかけに多様な価値観を知って考え方は変化します。自分の目標がはっきりと定まったり、物おじしない積極性やコミュニケーション能力が高まったりして、自信がつくことで、就職活動がうまくいく学生もいます。また、語学力が身につくことで就活の対象が世界中に広がったりもします。留学の経験は学生を大きく成長させるでしょう。ただし、何事も「準備があってこそ」です。情報をしっかりと集め、計画的に進めることが大切です。

(文=中村茉莉花)

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