■大学受験のバトン・先輩の失敗から学ぶ
「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、YouTubeやクイズ番組などで大活躍している東大発の知識集団QuizKnock(クイズノック)。2023年12月にグループ卒業を発表した大人気メンバー・こうちゃんが、大学入試センター試験でやってしまった大失敗とは? 朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長が聞きました。
「860点くらいいけるっしょ?」と調子づいた前夜から、奈落の底へ
――こうちゃんは東大に現役合格していますが、センター試験(大学入学共通テストの前身)を受けたときはどうだったのですか。
こうちゃん:900点満点中770点でした。ショックでしたね。
――けっして悪い点数ではありませんが、ほかの東大受験者と比較するとあまりよくなかったということですね。
こうちゃん:その通りです。直前の模試でもA判定だったので、センター試験前夜は「860点くらいいけるっしょ」と調子に乗っていました(笑)。それなのに会場に着いたらめちゃくちゃ緊張して、不安感にのまれてしまいました。そのせいで、1日目の夜にとんでもないことをやらかしてしまいました。
――何をやらかしたのですか。
こうちゃん: その夜に自己採点をしてしまったんです。これが僕のセンター試験の最大の敗因でした。結果がよくても悪くても、翌日の試験に影響があるから、自己採点してはだめだということはよく言われていて、僕も知っていました。でも、満点を狙っていた英語で1問間違えた気がしたんです。それが気になって、「自己採点すれば気持ちが落ち着くかな」と思って……。そしたら、間違えたのは1問どころじゃなかった。「え? これも違う?」「うそ? まじ?」って、何度も答えを見直して、解答が間違っているんじゃないかと疑って、確認して、それでもやっぱり自分が間違えていて。結局、英語は200点満点中171点止まりで、「ええええええええ!」って状態です。
――そのショックを翌日も引きずってしまったのでしょうか。
こうちゃん:「この失敗を2日目で取り返さなくちゃ」と、自分にプレッシャーをかけてしまったんです。「数学で満点を取れば大丈夫だから」って。しかも、2日目の試験でもやらかしてしまいました。数学の前に試験がある化学基礎は、ほぼ確実に満点を取れる自信がありました。余裕だと思っていたら、1問だけ知らない問題が出て、試験が終わった直後、これもやっちゃいけないのに、友だちに「あれはAだったよね」って確認してしまったんです。そしたら、その場にいた全員が「Bじゃない?」って言うので、青くなりました。でも、結果的には僕の答えが合っていて、ちゃんと50点満点を取れていたんですけどね。
――でもその状況では不安になりますね。友だちとの答え合わせも、しないほうがよかったですね。
こうちゃん:ダメ、絶対ダメ! だれも正解を知らないんだから、確認したって意味がない。それなのに、僕はその時点で「間違った」と思い込んで、ますます数学にプレッシャーがかかってしまった。そのせいで、僕は中学生レベルの1次関数を間違えたんです。答え合わせしたとき、信じられなかった。「オレ、マジでここ間違えたのか?」って。そして、これも忘れられないんですが、数ⅡBのベクトルの計算が何度やっても虚数になってしまって。「なんで?」と焦っているうちに「試験終了です」と言われて、鉛筆を置いた瞬間に計算ミスに気づくという……。
――それは泣きそうになりますね。
こうちゃん:いえ、逆に笑えてきました(笑)。「もう終わった。これからどうしようかなぁ」って。緊張やプレッシャーが、いかに実力発揮の妨げになるか、身をもって知りました。
2次試験の戦略は「一発逆転を狙わない」
――センター試験は目標点に達しなかったわけですが、志望校を変えようとは思わなかったのでしょうか。
こうちゃん:唯一の救いは、東大の入試はセンター試験の比率が低いということでした。センター試験と2次試験の割合は1:4。終わったものはどうしようもないので、2次試験に向かってどうすれば自分の力を伸ばせるか、それだけを考えました。
――どんな戦略を立てたのですか。
こうちゃん:僕の場合、センター試験の英語は得意でしたが、2次試験の英語には不安がありました。そこで英語を攻略するにはどうすればいいかを考え、リスニングに目をつけたんです。4択問題だし、配点は30点もある。ここで25点くらい取れれば合格に近づくんじゃないかと思って、直前まで聴く力を徹底的につけました。リスニング試験は英語の試験が始まって45分後に始まるんですが、試験当日は問題を解くのを40分で切り上げて、5分間でリスニング問題の選択肢を頭にたたきこみました。これはとても効果があるので、おすすめです。
――2次試験の本番で実力を発揮する方法を徹底的に考えたのですね。
こうちゃん:その通りです。実際、英語のリスニングで救われたと思っています。あとは世界史ですね。2次試験対策には新しいことはせず、世界史の教科書を丸ごと全部読み直しました。記憶にひっかかりさえすれば、解けるかなと思って。そうしたら、試験前日に「ここは学校で説明してくれなかったところだな」と思って見直した部分が出題されたんです。神様が味方してくれたと思いました。
――そして見事、現役合格を果たしたわけですね。その勝因は何だと思いますか。
こうちゃん:2次試験で一発逆転を狙うんじゃなくて、確実に点数を取ることを意識したのがよかったと思います。英語の場合、読解問題に焦点を当てて対策しても、どんな文章が出て、どんな単語がカギになるかわからない。つまり運です。でもリスニングなら対策しやすい。世界史も2次試験の前に「人が知らないマニアックな箇所を覚えよう」という人は多いと思いますが、実際にそこが出題される確率は低い。僕はそこには力を注がず、教科書を読んで、「覚え忘れている部分はないか」と見直した。それは正解だったと思います。
――親御さんはセンター試験の後はかなり心配したのではないですか。
こうちゃん:心配したと思います。母は、いろんな大学の願書を取り寄せていましたから(笑)。できれば東大じゃない大学を受験してほしかったんでしょうけれど、僕の気持ちを尊重してくれたのはありがたかったです。
――子どもを信じて、余計な口出しはしないほうが良いんですね。では最後に、これから共通テストに挑む受験生にメッセージをお願いします。
こうちゃん:重要な試験であればあるほど、「できる限り普通の状態」を保つことが大切です。たとえば僕の場合、センター試験のときには制服を着ていったけれど、本当は私服のほうがリラックスできるから2次試験は私服にしようとか、試験の合間にオレンジジュースを飲むとホッとできるから持っていこうとか。そんな小さなことかもしれないけれど、本番前に当日のイメージを持つことは、すごく大事だと思います。そして共通テストでうまくいかなくてもあきらめないこと。その失敗を糧にすれば、2次試験で取り返すことができますから。あとは、絶対に全科目終わるまでは答え合わせしないこと! これは絶対ですね(笑)。
プロフィール
QuizKnock(クイズノック)/クイズ王で知られる伊沢拓司さんが率いる東大発の知識集団。井沢さんが中心となってエンタメと知を融合させたメディアを運営する。「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、何かを「知る」きっかけとなるような記事や動画を毎日発信中。YouTube(https://www.youtube.com/c/QuizKnock)のチャンネル登録者は214万人を突破。(2023年11月時点)。
こうちゃん/東京大学法学部卒業。2017年からQuizKnockに参加、主要メンバーとしてクイズ番組などでも活躍。23年12月にグループ卒業を発表した。
(文=神 素子、写真=山本倫子)
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