簡単な法則が思い出せない…ほぼ白紙のテスト用紙 教育系Youtuberが語る大学受験「失敗」談 | 朝日新聞Thinkキャンパス

簡単な法則が思い出せない…ほぼ白紙のテスト用紙 教育系Youtuberが語る大学受験「失敗」談

2024/01/27

大学受験のバトン・先輩の失敗から学ぶ

チャンネル登録者数が199万人*を超える教育系YouTuberの葉一(はいち)さんは、大学受験シーズンになると自らの体験談を交えて、受験生を応援する動画を公開しています。本命志望校の受験日に「大失敗をやらかした」と語るその体験とは? そして体験を踏まえて、葉一さんが受験生に心を整える方法をお伝えします。(写真=本人提供) *2023年12月現在

最悪のコンディション 1問目から頭の中は真っ白に

――国立大の2次試験当日、体調を崩してしまったそうですね。

そうなんです。センター試験のときは体調も万全で、試験の手応えもまずまずでした。あと数日で国立大の2次試験というところで、のどが痛くなり、微熱が出て……。当日は、ふわふわと宙に浮いているような最悪のコンディションで、それでも自宅から約3時間かけて東京学芸大学の試験会場に向かいました。

その段階で、腕試しで受けていた私立大3校は全滅。センター試験利用方式で東京理科大の合格は決まっていたものの、家庭の事情で私立大には進学しないつもりでした。つまり、この国立大の前期日程で踏ん張らなければ、残るは募集人数の少ない国立の後期日程のみ。そんな状況でした。

――事実上、本命の東京学芸大1本の受験だったのですね。

そうですね。東京学芸大を目指したのは、高校2年のときに憧れの数学の先生から、「教師に向いている」とすすめられたのがきっかけです。ただ、高校3年の春の時点では、偏差値が20も足りていませんでした。そこで平日は1日5時間、週末は10時間以上かけて基礎から徹底的に勉強した結果、高校3年の夏には模試がD判定に。冬にはA~B判定を取れるくらいにまで追い上げて本番を迎えました。

――その本番に体調不良。私立大が全滅という状況も重なっていました。

体調のせいにしたいところですが、いろいろなことがマイナス方向に重なって、始まる前から負けは決まっていたようにも思います。試験会場では、周りのみなが頭良さそうに見えるなど、考えることもネガティブのオンパレードでした。

そして1問目からいきなり、簡単な定理を思い出せないんです。その瞬間、アニメのワンシーンみたいに、頭の中でパンッと音が鳴りました。もう、頭の中は真っ白です。ほかの問題を解こうとあがいたものの、何も手につかない。そのまま30分くらい経ったところで、あがきが諦めに変わり、「落ちたな」と思いましたね。あとは、冷や汗なのか、発熱による汗なのかわかりませんが、冷たい汗が背中を伝うのを感じるばかりの長い120分間を過ごし、答案用紙はほぼ白紙のままで出しました。

大好きなマンガ『SLAM DUNK』で心を整えた後期試験

――結果は不合格だったんですね…。

結果を待つまでもありませんでした。約2週間後の後期試験に向けて、勉強しないといけないのですが、気持ちがズンと沈んでしまって、朝、目覚めた瞬間から「嫌だ」「ダメだ」という思いがこみ上げ、机に向かえば吐き気がするようになってしまいました。

それが1週間くらい続いたところで、自問自答を始めました。

「次もまたダメかもしれない。でも、後悔だけは残したくない。何が悔しいかって、1年間ずっと勉強してきたのに、努力の成果を出せないこと。だったら受かるかどうかは置いておいて、力を出し切って終えたい。そのために何ができる? 勉強するしかない!」

そう思ったら、明らかに気持ちが切り替わりました。そして、朝の目覚めが日に日によくなり、少しずつ机に向かえるようになりました。

――志望校を変えることは考えなかったのでしょうか。

恩師に東京学芸大をすすめられたということもあって、そこはブレませんでした。後期試験もダメだったら、浪人して再挑戦するつもりでした。

――勉強するしかないと思ってから、後期試験に向けてどんなことをしたのですか。

勉強は心配が残る箇所だけに絞って、1日1、2時間だけ。というのも、「勉強を頑張る」という目標を立ててしまうと、どんどんハードルが上がって、周りからどんなに頑張っているように見えたとしても、満足できずに焦るだけです。だから、自分で決めた必要最低限のノルマをこなしたら、「俺ってすごい」と自分をほめて、あとはゲームをしたりマンガを読んだりと好きなことをして過ごす。そうやって自己肯定感を上げて、コンディションを整えることに全力を注ぎました。

――メンタルを整えて臨んだ後期試験の会場で心がけたことはありますか。

直前に参考書を開いても、できていないところが目について焦るだけだろうと思って、カバンには参考書の代わりに大好きなマンガ『SLAM DUNK』を入れていき、試験前は音楽を聴きながらマンガを読んで過ごしました(笑)。

おかげで試験には最高のコンディションで臨めましたが、隣の席だった女の子と入学後に再会したときに「『この人、何?』と思った」と言われました。そりゃそうですよね(笑)。

試験前はマンガ『SLAM DUNK』を読んで気持ちを落ち着けた(イメージ写真=編集部撮影)

――そして後期試験で無事合格。受験ではメンタルも大事ですね。

本当にそう思います。勉強に限ったことではないでしょうが、例えば9割の点数を取れる実力を持った受験生が、緊張して5割の力しか出せなかったとします。一方で、いつもは7割の実力の受験生が平常心で挑めたら、結果は逆転しますからね。

親の「いつも通り」が助けになった

――過酷だった葉一さんの受験体験ですが、親のサポートはありましたか。

受験のことは子どもにお任せで、良くも悪くも親が「いつも通り」でいてくれたことが、助けになりました。実はセンター試験を受けた夜に、出来がよくなかったと思い込んで、家族に当たり散らしました。でも、そのときもいつも通り。僕が「もう受かんねえよ」「ダメだ……」なんて大騒ぎしているのを、何にも言わずに聞いているだけでした。あとで自責の念に駆られて謝りましたが(笑)、親が一緒にあわてたりしなかったことは、ありがたかったですね。

――大学受験で保護者にできることは、どんなことだと思いますか。

いつも通りでいることだと思います。ただ、僕も2人の子育てをしていて痛感しているのですが、そのいつも通りが難しいんですよね。だから言い換えるとしたら、「待つ」ということではないでしょうか。「お父さん(お母さん)は口出ししないから、やってほしいことがあったら言ってね。そのときは全力でやるから」というポジションがいいと思います。ただ、実はそれもなかなか難しくて、塾講師をしていたときに、「つい口を出してしまった」という保護者を多く見てきました。でも、その一言でメンタルがガラリと変わってしまうことが、受験生にはあるんです。だから、何か言いそうになったら「自分が言われてうれしいかを確認してください」とよくお伝えしていました。

受験シーズンになると、葉一さんは受験生の気持ちに寄り添うメッセージを投稿している(写真=YouTube「とある男が授業をしてみた」から)

自分を信じる気持ちだけは誰にも負けないで

――毎年、動画で受験生にエールを送っていますね。

受験勉強をしていると、いいときもあれば、あまりいい状況ではないときもあります。でも、何があっても勉強するしかないのが受験です。YouTubeやSNSには、受験の成功体験を語る動画が山ほどありますが、それはその人がいろいろな経験や試行錯誤をした結果、最後にたどり着いた成功を伝えているにすぎません。そして、自分の機嫌の取り方は、自分で見つけるしかない。気分転換の方法をいくつか持っておくと、状況に応じてプラスに転じることができておすすめです。

あとは、「自分を信じる気持ち」だけは、絶対に誰にも負けちゃいけないということを伝えたいです。つい周りの人と自分を比べてしまいがちですが、自分で自分のことをきちんと信じてあげることが大事。応援してます! 頑張っていきましょう!

葉一(はいち)/東京学芸大学を卒業後、教材販売会社の営業、塾講師を経て独立。2012年に開設したYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」では小学3年生から高校3年生までを対象とした授業動画などを投稿し、チャンネル登録者数は約199万人をほこる(2023年12月現在)。著書に『中高生の悩みが軽くなるヒント集めました。 勉強・人間関係・進路の不安に効く57の方法』(河出書房新社)など。

(文=竹倉玲子)

1pxの透明画像

記事のご感想

記事を気に入った方は
「いいね!」をお願いします

今後の記事の品質アップのため、人気のテーマを集計しています。

関連記事

注目コンテンツ

入試

お悩み

調べて!編集部

NEWS