大学には研究力があっても、ビジネスが出来る人材がいない――そんな悩みを解決するために、東京理科大学と転職サイトを運営する株式会社ビズリーチが手を結びました。支援の狙いは大学の研究力と経営人材を結びつけること。これまで大学発スタートアップを広げる妨げになっていた、「新しい技術があっても経営の力が足りない」という課題の解決を目指します。(写真=株式会社CoreHealthを設立した東京理科大学工学部機械工学科・小林宏教授の研究活動の様子、東京理科大学提供)
有力な研究も起業しづらい「大学ならではの障壁」
東京理科大学ベンチャーエコシステムTUSIDE(トゥーサイド)は、スタートアップ創出を加速させるため、ビズリーチと共に「大学発シーズの社会実装早期化」を目指す連携を2023年10月に開始しました。次世代の産業育成、地方創生およびSDGsの実現なども目的のひとつですが、石川正俊学長はこの狙いを次のように語ります。
「経済産業省が公表した令和4年度大学発ベンチャー実態等調査では、本学の大学発ベンチャー企業数は全国7位です。しかし教員数に対する企業数の比率で見ると、本学はランキングの上位10大学中、2位に大差をつけてトップを誇っています。ただ、大学発スタートアップのさらなる発展のためには、人材登用の点で課題があると感じています。一つは研究者や技術者の流通がないこと、もう一つは経営者や知的財産管理者など専門家人材が不足していることです。これらの課題を解決し、人とのつながりの中で新しい価値を創造するために、ビズリーチの力を借りることにしました」
ビズリーチの創業者で、現在はビジョナルの社長を務める南壮一郎氏は「大学発スタートアップの立ち上げには独特の障壁がある」と説明します。
「大学側の大きな問題は、『研究を事業化し起業できる経営者』の不在です。世界を変え得る有力な研究があっても、そもそもビジネス化の前の段階で埋もれてしまうのです」
ビズリーチの調査によると、ビジネスパーソンの約7割が大学発スタートアップの仕事に興味があるにもかかわらず、大学発スタートアップの求人情報は可視化されていません。また、経済産業省の調査(令和2年度大学発ベンチャー実態等調査)によれば、経営人材の採用方法は知人や友人のつてによる「リファラル採用」に頼っているのが現状です。南氏は「大学発スタートアップの仕事をやりたい人はたくさんいる。知らないからやれないだけ」と断言します。
「私が大学を卒業した米国と比べると、日本はまだ民間と大学との間に距離があると感じています。日本でもアカデミアとビジネスが一枚岩になって、社会により大きなインパクトを与えるべきです。この取り組みを新しい社会のムーブメントにしたいのです」
柔軟な雇用の形で企業にも人材にもメリット
経済産業省も「イノベーションの担い手」として、大学発スタートアップに期待を寄せています。22年度の「大学発ベンチャーの実態等に関する調査※」によると、大学発ベンチャー数は年々増え、3782社にのぼります。
※日本の大学や高等専門学校に関連する大学発ベンチャーの数。2021年度に確認された3305社から477社増加
しかし、ベンチャー企業には「シードステージ」「ミドルステージ」などの成長段階に応じた戦略が必要です。起業後間もない「アーリーステージ」では、資金も少なく、人材雇用に多くの予算を割くことができませんが、今回の取り組みでは副業・兼業の形で経営人材を雇用することもポイントです。これによってベンチャー企業側は人件費を抑えることができ、働く人にとっては、転職せずとも初期段階から事業に関わることができるというメリットがあります。
ビズリーチは東京理科大学との協定に先駆けて、22年12月に慶応義塾大学との「慶応版 EIR(客員起業家)モデル」構築を開始したほか、23年10月に東京工業大学と大学発スタートアップ支援のための連携協定を締結しています。慶応義塾大での取り組みにはすでに370人以上の応募があり、5人が実際に兼業・副業で採用されました。東京理科大学でも、工学部機械工学科の小林宏教授が9月に設立した「CoreHealth」がさっそく経営人材の募集しました。扱うのは腰の補助を目的とした装着型アシスト装置「マッスルスーツ®※」。「すべての人を『美しい姿勢』に」という理念を掲げ、ヘルスケア分野への応用で事業拡大を目指しています。
※「マッスルスーツ®」は株式会社イノフィス(同 小林宏教授創業)の登録商標です。
東京理科大学の浜本隆之理事長は、今回のビズリーチとの連携で大学発スタートアップのサポート体制を強化し、「2034年には、年間100社のスタートアップを創出することを目指していきたい」と語りました。大手転職サイトと連携したことが大学発スタートアップの追い風となるのか、今後の展開に注目です。
(文=鈴木絢子)
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