■大学のダイバーシティー
多様性がイノベーションを生むカギといわれている時代、研究者の世界でも女性への注目が高まっています。女性研究者をどうやって増やしていくのか。女性のキャリア形成支援に力を入れている大学の取り組みを紹介します。(写真=Getty Images)
女性研究者の未来をサポート
お茶の水女子大学では、学内の女性研究者へのサポートだけでなく、研究職を目指す女子学生のキャリア開発にも注力しています。
学生・キャリア支援センターの山岸由紀特任准教授は次のように話します。
「博士課程を終えてポスドク(博士号取得後に就く任期付き研究職)になっても、その後、任期のない常勤の研究職にすぐには就けないかもしれないという進路不安から、博士課程への進学を躊躇(ちゅうちょ)する大学院生が出てきています。研究への意欲はあるのに夢を断念せざるを得ない人たちの背中を押すことができるよう、研究補助金や奨学金などの経済的支援とセットで、博士人材のキャリア支援に力を入れるようになりました」
女性博士人材に特化した交流会
2012年度からは、キャリア支援の一環として博士人材の採用に意欲的な企業と、研究者を目指す女子学生との交流会「ワークインプログレス」を開催しています。
23年度は10月にオンラインで開催され、同大学をはじめ、東京大学や静岡大学、奈良女子大学などの博士後期課程学生やオブザーバーの博士前期課程学生含む女子22人と、花王やNTTなどの企業や研究機関など10団体が参加しました。
女性博士人材に特化した企業セミナーをはじめ、学生たちが自身の研究について発表するプレゼンテーションや自由に話せる個別交流会を通して、企業と学生が情報や意見の交換をします。
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科の伊藤颯姫(さつき)さんは、統合失調症患者のスムーズな治療や社会復帰を促進させるための研究について発表。プレゼンテーションを見た企業から「視野が広い。一連の研究にストーリーがある」との評価を受けて、大きな励みになったと笑顔を見せていました
参加企業の人事担当者だけでなく、女性研究者の先輩たちとも直接話ができる機会とあって、参加者からは具体的な質問が飛び交いました。「企業での研究でやりがいを感じたのはどんなことですか」「働きながら博士号を取得できますか」「入社後の研究テーマの自由度は?」など、博士課程修了後のことを見据えた質問が多く出され、参加者たちの研究に対する熱意がうかがえました。
博士号の先の選択肢が広がる
「ワークインプログレス」は一般的な企業交流会と比べて小規模のため、企業と密に交流ができると好評を得ています。交流を通じて新たな業界や分野を知ることができ、選択肢の幅が広がったと感じる学生も多いそうです。
これまで参加した企業からも、「女性の博士人材に限定して話ができる機会はめったにない」「通常の募集では出会えない領域の研究をしている学生とも交流できて新鮮だった」「研究の最新トレンドがうかがえる場としても活用できた」といった声が寄せられ、ここでの出会いから就職につながったケースも出ています。
「博士課程まで進んだ大学院生は、その先の進路について大学教員や公的な研究機関というアカデミアをメインに考える傾向があります。ただし、必ずしもそれが本人にとってベストな選択だとは限りません。大学よりも大きな資金で自由に研究できる環境や、育児などとのライフ・ワークバランスがとりやすい制度が整えられている企業もあります。『ワークインプログレス』の成果の一つは、学生たちが視野を広げて進路について考えてくれるようになったことです。アカデミアか企業かにかかわらず、自身が研究を続ける場としてのメリット・デメリットを比較して選んでほしいと願っています」(山岸特任准教授)
女性研究者のための専門窓口を設置する大学も
その一方で、研究に従事する女性をサポートする専門窓口を設け、さまざまな制度を用意している大学も少なくありません。
帝京大学では、女性医師・研究者支援センターを設置。出産や育児、介護など女性のライフイベントと研究を両立できるよう、研究をサポートする人員を確保できる研究支援員配置制度や、夜間保育や学童保育などの利用に対し補助金を支給する保育施設利用補助制度などを提供しています。
大阪公立大学は女性研究者支援室を設け、帝京大学と同様の研究支援員制度をはじめ、スキルアップ支援や研究費助成制度などによって女性研究者をサポートします。小・中・高生に科学の楽しさや面白さを伝える理系女子大学院生チーム「IRIS(アイリス)」の活動も支援し、未来の女性研究者の育成にも力を入れています。
こうした大学の後押しもあり、日本の大学の女性研究者は緩やかに増えつつあります。しかし、国際的に見ると女性研究者の比率は非常に少ないのが現状です。女性研究者の増加は国からも企業からも求められているため、今後も支援策は広がっていくことでしょう。
(文=岩本恵美)
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