■大学のダイバーシティ
男性の身体で生まれたが、性自認は女性であるトランスジェンダー女性を受け入れる女子大が増えつつあります。女子大がトランス女性を受け入れる意義はどこにあるのでしょうか。(写真=Getty Images)
「心は女性」の学生にも女子大で学ぶ権利を
2018年にお茶の水女子大学(東京都文京区)が国内の女子大で初めて、トランス女性を20年度から受け入れる方針を発表しました。それ以降、トランス女性の受け入れは全国の女子大で広がりつつあります。
20年度から受け入れを始めたお茶の水女子大学と奈良女子大学(奈良市)に続き、21年度から宮城学院女子大学(仙台市)、23年度からノートルダム清心女子大学(岡山市)で受け入れが始まり、24年度からは日本女子大学(東京都文京区)、25年度からは津田塾大学(東京都小平市)でもトランス女性の入学が認められるようになります。
なりすまし問題や男性に不安を感じる学生のケアも必要
奈良女子大学では、国内外で性的指向や性自認を尊重する機運が高まる中、17年ごろからトランス女性の受け入れを検討し始めました。18年からは全教員を対象にした研修会のほか、学生向けの意見交換会や説明会を開き、ガイドラインを作成して受け入れ態勢を整えてきました。
現状では、入学を希望するトランス女性と出願の1カ月前に面談を行い、受験時や入学後に配慮を希望することを確認し、学内のトイレや更衣室などの設備環境についても説明することになっています。その際、医師の診断書など性自認を証明する書類を一つ提出し、性自認を確認する手続きが必要です。入学後は、対応委員会や各種相談窓口を設ける形で当事者の学生生活をサポートしていきます。
トランス女性の受け入れを決定後、学生たちからはどんな反応があったのでしょうか。トランスジェンダー学生受入委員会委員長を務める西村さとみ副学長は、こう話します。
「性自認が男性なのに女性のふりをして入学する、いわゆる“なりすまし”が起こるのではないかとか、反対に、知らないうちに自分自身が当事者の方を傷つけるようなことをしてしまうのではないか、という不安の声がありました。しかし、女子大としてジェンダー問題について考える機会がもともと多かったこともあり、大きな混乱はなく、おおむね受け入れられています。とはいえ、現実問題としてなりすましが起こった場合のことや、男性と接するのが苦手で女子大を選択した学生もいることを考慮すると、すでに在籍している学生や、トランスジェンダーではない学生の権利についても引き続き考えていかなければいけません。現在のガイドラインについても決して最良ではないとの意識を持ちながら、その時々で問題点を見直していく必要があると考えています」
女子大だからこそできる問題提起
西村副学長は、奈良女子大学がトランス女性の受け入れに踏み切った背景を次のように語ります。
「社会で女性が自立し、能力を十分に発揮できる教育を提供するのが女子大としての基本的な役割です。ただ、性や性別といった定義が国際的にも大きく変化する中で、女子大の『女子』とはどういう人たちを指すのかと問い直す必要がありました。『女子』の概念をもっと拡大し、女性と自認する人たちも受け入れることが今の時代において大事なのではないか。そうした考えから、彼女たちが学ぶ権利を保障することは、女子大こそ率先してやるべきだという結論に至りました」
同大学でトランス女性の受け入れを推し進めてきた三成美保・元副学長は、20年の受け入れ開始当時、朝日新聞の取材に対して「女子大は性の問題に抑圧を感じている人にとっての避難所であり、それを組織的に研究する拠点でもある」と話しています。
共学の大学とは異なり、入学時に性別を限定してきた女子大がトランス女性の受け入れに向き合うことで、「女性」とひと口にいっても一様ではないことに気づかされます。性の多様性が浮き彫りとなり、ひいては多様な性に対する社会の理解を促すことにもつながるのではないでしょうか。性の問題で悩み苦しむ人たちの受け皿となることで、社会に対して問題提起していくことは現代における女子大の大きな役割の一つといえそうです。
(文=岩本恵美)
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