「ロボットが空気を読めたら…」 人間が「飽きる」気持ちを研究 | 朝日新聞Thinkキャンパス

「ロボットが空気を読めたら…」 人間が「飽きる」気持ちを研究

2023/06/05

名物教授訪問@京都産業大学

ロボットと仲良く共存するにはどうしたらいいでしょうか。京都産業大学情報理工学部の棟方(むねかた)渚准教授が研究するテーマは「人間と人工物との持続的なインタラクション」。どうしたらロボットなどの人工物との関係性を保ち続けることができるのか、多様なアプローチで人間の感覚を深く掘り下げています。(写真=京都産業大学提供)

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研究テーマである「人間と人工物との持続的なインタラクション」は、棟方准教授が学生時代から取り組んでいる研究です。まもなくやってくる「人とロボットの生活」に深く関係するテーマでもあります。

「最初は夢中になっていたゲームも、いつかは飽きるときが来ます。ペット用ロボットがはやったときに買ったものの、今では電源さえ入れていない、という人もいます。では、どのタイミングで飽きたのでしょうか。人と人工物がお互いにどのような影響を与え合い、どういったタイミングで飽きるのか、長くつながっていたいという気持ちは何なのかを研究しています」

レストランや病院、オフィスでも見られるようになったロボットは、今後、一般家庭に入ることで、生活をサポートしたり、孤独を緩和したりする効果が期待されています。その際、家電のように「壊れたら捨てる」、ゲームのように「飽きたらやめる」のではなく、仲良く共存し続けるにはどうしたらいいのかを考察するのが棟方准教授の研究テーマです。

情報理工学部が所有している実験住宅で撮影。人とロボットとの持続的な関係性について考えるにあたり、実験住宅を使用して、実際に人の生活の場となるリビングなどを用いてさまざまな実験を行っています(写真=京都産業大学提供)

ロボットは空気を読めるのか?

なかでも注力しているのが、家庭用ロボットとの関わり方です。たとえば人が一緒に暮らすときは、「お互いに空気を読む」ことが大切です。相手が掃除機をかけ始めたら邪魔しないように動く、相手がイライラしていたら話しかけるのをやめる、などです。棟方准教授は、「もしロボットが空気を読めたら、がっかりするようなことが減って愛着を維持することができるので、持続的な関係性を築くことができるのではないか」と考えました。

「ロボットに空気を読ませる、つまり人間の状態を理解してもらうにはどうしたらよいか、AI(人工知能)などを駆使してさまざまな実験を行っています。ロボットを使っているときの、人間の心拍や体温、発汗などのデータを測定、記録して分析しているところです」

(写真=京都産業大学提供)

先生との対等な議論が人生を変えた

 「子どものころは落ちこぼれでした」と棟方准教授は振り返ります。山と海に囲まれた北海道浦河町に生まれ、のびのびと育ちました。勉強はあまり好きではなかったものの、好奇心は旺盛。一人で電車に乗って、知らない街を探検するのが好きで、興味があることにはなんでも挑戦するタイプでした。

大学に入り、興味のある授業にしか出ていなかったために単位が足りなくなり、卒業が危うくなってしまいました。将来について真剣に考え始めたころ、ある教員から、提出したレポートのことで呼び出されました。

「レポート内容をけなされるのかと思って行ったら、予想外にほめられたのです。進化に関する考察といった内容でしたが、先生が対等に議論してくれました。70歳近い先生でしたが、私のアイデアを詳しく知りたいと言うので、自由にアイデアを話し、知りたいことを聞きました。それがすごく面白かったのです。学術とはこういうことをするのだ、と心を打たれました」

その出来事をきっかけにスイッチが入り、本気で勉強して大学を卒業。その先生との出会いは棟方准教授にとって人生の大きな転機となり、研究者として生きる原点となりました。

「あのとき、先生に出会えたことは本当に感謝しています。学術の世界の面白さに気づき、おかげで今、自分のやりたいことができています。こんなにやりたいことばかりしている研究者はほかにいないと、誰からも言われるほどです(笑)」

 

研究活動で、子ども向けの謎解き写真展を実施し、スマホのアプリで参加者の回遊行動の実証実験を行いました(写真=京都産業大学提供)

第1志望の大学でなくても、思いがけない出会いがある

こうした自身の経験もあり、研究室に来る学生たちとは毎回じっくり議論し、学生たちがやりたいこと、興味があることを深く丁寧に探り出すことを心がけています。なかには自分のやりたいことがわからず、迷ったままの学生もいますが、棟方准教授はこう考えています。

「私自身が落ちこぼれだったから言えることですが、『どこにいてもあなたは大丈夫。いつでも変われるし、やり直せるよ』と伝えたいです。たとえ第1志望に受からなくて不本意な大学に入学したとしても、そこでの出会いが人生の思いがけないきっかけになることは、よくあることです。どうか腐らず、諦めずに、自分が成長できると思う場所や人を求めて行動してほしいです」

人を対象とする実験などの設定や生体信号測定などは、データを含めて繊細な取り扱いが必要。学生たちには、実演を交えて丁寧に教えるようにしています(写真=京都産業大学提供)

人間のモチベーションとは?

研究内容は今後、医療にも役立てたいと考えています。

「例えば体が不自由になった人が、VR(バーチャルリアリティー)のゲームを通じて治療やリハビリができたら、ゲームが楽しいというモチベーションによって、治療やリハビリに前向きに取り組める可能性があります。治療のモチベーションを維持することが難しい病気であっても、エンタテインメント性を付与することで、楽しみながら治療に取り組めるシステムの開発や実験をすすめています。人間が持つモチベーションというものは、まだ解明されていません。今はさまざまな側面から実験をして、データを蓄積している段階ですが、これからのロボットとの共存社会に役立つ、やりがいのある研究だと思っています」

(写真=京都産業大学提供)

 

棟方 渚(むねかた・なぎさ)/1981年北海道浦河町生まれ。札幌啓成高校理数科、公立はこだて未来大学システム情報科学部卒。同大学院システム情報科学研究科博士課程修了。博士(システム情報科学)。札幌市立大学デザイン学部助手、北海道大学大学院情報科学研究科助教を経て、2017年から京都産業大学情報理工学部准教授。専門はヒューマンコンピュータインタラクション、エンタテインメントコンピューティングなど。人間理解に興味を持つ。

(文=江澤香織)

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