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2023年2月、政府は東京23区における大学の定員増や学部新設を、デジタル分野に限り容認する方針を固めました。背景には政府が目指す「Society5.0」の実現やIT人材不足があり、キーとなるのは「データサイエンス」です。注目のポイントについて解説します。(写真=Getty Images)
IT人材の不足を解消
東京23区内に本部を置く大学は、地方大学・産業創生法により、定員増を原則的に禁じられており、学部新設が自由にできません(18年から10年間の時限措置)。今回の規制緩和は大きな方針転換と言えます。
この政策は、時代の変化と無関係ではありません。日本が目指すべき未来社会の姿として政府が提唱している「Society 5.0」は、IT技術によって構築された「サイバー空間(仮想空間)」と「現実空間」を融合させ、経済発展と社会課題の解決を両立する概念です。Society 5.0の実現のためには、コンピューターによる「人工知能(AI)」や、人とモノがつながる「IoT(Internet of Things)」、膨大な情報群である「ビッグデータ」を、社会発展に向けて有効活用できる人材が不可欠となります。
しかし、IT人材の育成は十分ではないという予測がされています。大学受験などに関する情報を発信しているリクルート進学総研で所長を務める小林浩さんはこう説明します。
「16年の経済産業省の発表によると、労働人口の減少も影響し、IT人材の需要と供給のバランスは、やがて需要が上回り、30年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予想されています。デジタル分野の学部・学科に限る今回の規制緩和は、IT人材不足という見通しによる危機感から発生したものと言えます」
一橋大学はソーシャル・データサイエンス学部を新設
定員増が認められるデジタル分野の学部・学科は、公募によって決まる予定です。要件としては「高度なデジタル人材を育成する情報系学部・学科であること」「一定期間後、もとの定員に戻すこと」「学生が東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)以外の企業での研修やインターンシップなどに一定期間参加すること」の3点が挙げられています。
どの大学のどんな学部や学科が定員増の対象になるかは、今後のことですが、小林さんによると、共通するキーワードのひとつは「データサイエンス」だといいます。
「Society 5.0というデジタル社会では、課題解決までの思考や技術を身につけたIT人材が必要とされています。データサイエンスは多種多様なデータから社会の課題解決などに有益な知見を得る学問分野です。その重要性はまだ世の中に十分に認識されていないように思えますが、これからの時代は、かつての『読み書きそろばん』のように、データサイエンスが基礎的な能力になるでしょう」(小林さん)
2017年に滋賀大学から始まり、全国へ
日本で初めてデータサイエンスを学べる学部ができたのは、17年の滋賀大学です。18年に横浜市立大学、19年に武蔵野大学、21年に立正大学、23年4月には大阪成蹊大学、名古屋市立大学がデータサイエンス学部を新設しました。21年には、中央大学が理工学部経営システム工学科をビジネスデータサイエンス学科に名称変更しています。
この5年あまりでデジタル人材を育てる新しい学部・学科が広がってきていることがわかりますが、視点を変えれば、それだけ社会がIT人材を求めているということでもあり、データサイエンスの学びは「就職力」につながると見ていいでしょう。
小林さんは次のように話します。
「データサイエンスが一般教養的な位置づけになっていくとしたら、単にデータサイエンスだけを学ぶのではなく、データサイエンスに専門分野を掛け合わせるような学部や学科で4年間を過ごしたほうが、より社会で活躍できる可能性が高まると思います。
例えば23年度に一橋大学が新設した『ソーシャル・データサイエンス学部』は、社会科学とデータサイエンスを結びつけて社会課題の解決の道を学ぶことができる、注目の学部のひとつです。23年度入試の志願倍率は6.1倍と、他学部の2倍以上の高倍率となりました。
私立では順天堂大学が23年度に『健康データサイエンス学部』を新設し、健康とデータサイエンスを掛け合わせた学びを提供していきます。24年度にはお茶の水女子大学が人間環境工学科と文化情報工学科を備える『共創工学部』を立ち上げる予定です」
「数学I」と「数学A」はきっちり学んで
統計学の要素も含むデータサイエンスは数学的素養が不可欠で、理系の側面がありますが、文系の学生にもデータサイエンスを必修とする大学も増えてきました。
「『データサイエンス×アルファ』の形でデジタル人材を育てる新しいマーケットは、ますます広がっていくと見られ、文理融合型の学部が増えていくでしょう。それに合わせて、入試で数学を必須科目とする大学が多くなっていくはずです。世の中が求めているIT人材を目指すうえでは、高校の早いうちに文理選択をするのはリスクが高い。少なくとも『数学Ⅰ』と『数学A』はきっちり学んでおくべきです」(小林さん)
高校生の立場からすると、文系、理系の区別なく幅広く学習を進めることで、入試の変化に対応できるだけでなく、将来、デジタル社会で活躍するIT人材になる可能性も高まると言えます。大学卒業後も見据えれば、「データサイエンス×アルファ」の学びに注目しておくのがいいでしょう。
(文=菅野浩二)

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