■イマドキの留学・国際交流
海外留学というと英語圏に行くイメージがありますが、あえて非英語圏の国を選ぶ学生もいます。名古屋外国語大学外国語学部4年の秋山あみりさんは、フランスに留学しました。なぜフランスを選んだのか、留学を通じてどんなことを得られたのかを聞きました。(写真=留学先で友人と近くの海に出かけた時の秋山さん(右)/本人提供)
きっかけは、一枚の風景写真
秋山さんは2022年9月から約8カ月間、フランス北西部の都市、カーン(Caen)にあるカーン大学で、交換留学生として語学を学びました。フランスに興味を持ったのは、小学生の時に、母親が海外出張で行ったフランス東部の湖畔の街、アヌシーの美しい街並みを写真で見たことがきっかけでした。
「その瞬間から、フランスへ強い憧れを感じるようになりました。その気持ちは消えることなく、大学は迷わずフランス語を学べるところを受験しました。高校までフランス語を本格的に学んだことはありませんでしたが、大学在学中になんとしても交換留学でフランスに行きたかったので、合格して4月からの授業を楽しみにしていました」
ところが、入学した20年は未曽有のコロナ禍となり、授業はすべてオンラインに。フランス人留学生たちとキャンパスで交流できるはずが、かなわなくなりました。しかし、秋山さんは、「海外渡航が再開されたら必ずフランスに行く」という強い気持ちを持ち続け、授業に取り組みました。
「フランス語は発音が難しく、話すのも聞くのもコツをつかむまでは難しかったです。動詞の活用もとても多くて大変でしたが、憧れの国の言語だったので必死で勉強しました」
秋山さんが入学した名古屋外国語大学の交換留学でフランスに行くには、フランス国民教育省が認定するフランス語学力テスト(TCF)で300点以上(300点は日常生活や旅行で遭遇する大体の状況に対応することができる語学力)をとる必要がありました。秋山さんはそのスコアを目標に必死で勉強してクリアし、コロナ禍が沈静化した後の22年秋にカーン大学への交換留学生として日本を飛び立ちました。
奨学金利用で持ち出しはほぼゼロ
名古屋外国語大学の交換留学には、「留学費用全額支援制度」があります。これは留学奨学金として、留学に必要な費用を大学がすべて負担してくれる手厚い内容です。現地の居住費は、留学先大学の標準的な宿舎費から見積もった額を留学前に全額支給。往復の航空チケットは旅行代理店を通じて現物支給、ビザ代(実費)や教科書代(標準金額)も事前に大学側から支払われるため、娯楽費以外はほぼ負担ゼロでした。
留学先では、初日からアクシデントに見舞われました。パリの空港に到着し、カーンまでの移動のために乗ったバスが、出発してすぐに故障して動けなくなってしまったのです。
「運転手の早口のフランス語はまったくわからず、困っている私に、同じバスに乗っていたフランス人のご家族の一人が、英語で話しかけてくれました。臨時バスでカーンまで行く時も状況を説明してくれて、宿泊先のホテルまで送ってくれました」
このとき声をかけてくれた子とは、その後も仲良くなり、海へ一緒に出かけるなどつき合いが続いています。フランスの人々の優しさに触れるとともに、このとき、「英語の大切さについても改めて実感した」と言います。
「肝心のフランス語も、授業についていくのは大変でした。最初はまったく聞き取れず、授業を録音して、帰宅後に聞き直すことの繰り返しでした。クラスで日本人は私だけでしたが、クラスメートとフランス語で話せるようになったのは3カ月くらい経ってからです。限られた留学期間をめいっぱい楽しむために、留学前にもっと会話力をつけておけばよかったと反省しました」
ただ、フランス語がわかるようになると自信もつき、クラスメートとの交流だけでなく、マルシェで買い物したり、地域のイベントに参加したりと、積極的に外に出ていきました。
「カーンは田舎の町ということもあって、すれ違う人たちが気軽に話しかけてくれます。年齢の違う知り合いもたくさんできました。楽しすぎて帰国したくなかったほどです」
国の違いや価値観の違いを実感できたことも、とても勉強になったと言います。
「クラスメートの中にアフリカからの移民だという学生がいて、彼女は内戦状態の母国にいる家族が無事かどうかを毎日心配していました。厳しい状況に置かれている人たちの現状を目の当たりにしたことで、国際問題を身近に感じるようになりました」
留学生活を通じて性格も変わりました。
「それまでの私は人見知りをするところがありましたが、帰国後は『明るくなったね』『ポジティブになったね』とよく言われました。留学生活が自信につながったからだと思います。これが留学して一番よかったことかもしれません」
就職活動で注目されたフランス語
留学した経験は、卒業後の進路を考える上でもいい影響がありました。
「留学したばかりで言葉が話せないときに、カーン大学で『インターナショナルディナー』が開催されました。10カ国以上の留学生が自国の料理を持ち寄って楽しむ交流会ですが、言葉が通じなくても、料理のおいしさを通じてコミュニケーションができることがわかって楽しかったのです。もともと料理を作ることが好きでしたが、あらためて料理の力を実感し、飲食業界で働きたいと思うようになりました」
就職活動では、フランス留学がアドバンテージになったと言います。
「面接では多くの企業から『英語が堪能な人はたくさんいるが、フランス語を話せる人はなかなかいない。会社にとってプラスになるので、入社してもらえたらありがたい』などと好意的な言葉をたくさんいただき、食に関連する企業に入ることにしました。まだどんな仕事を担当させてもらえるかはわかりませんが、まずはしっかりと社会人としての経験を積んで、いずれフランス語も役立てられたらいいなと思っています。そしていつの日か、カーンに日本食のお店を出して、美食の国・フランスでおいしい日本食を広めることが今の私の夢です」
非英語圏の留学は「コミュ力の高さ」が評価
名古屋外国語大学国際交流課の玉井正峰さんによれば、外国語学部フランス語学科の定員は1学年あたり50人で、卒業までにこのうち30人ほどが交換留学を含むなんらかの留学プログラムに参加します。
「本学で学べる非英語圏の言語は、ほかに中国語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、インドネシア語、タイ語、アラビア語があります。英語を身につけた後に学ぶ言語として選択する学生が多いですが、それぞれの言語を公用語とする国に留学を希望する学生もいます。これらの言語は大学で初めて学ぶ学生がほとんどなので、語学留学がメインになります。ただし、話せるようになって帰国すると、『将来は専門科目を学ぶ学部留学をしたい』という人も出てきます。その場合は大学を卒業してから留学するのが一般的なパターンです」
非英語圏の言語を生かす就職先としては、その言語を使う国の航空会社(韓国語であれば韓国の航空会社など)や旅行会社、ホテルなどが典型例ですが、同大学では実際には秋山さんのように一般企業に総合職として就職をする学生の割合が高いそうです。
「留学を経験している学生は企業から『コミュニケーション能力が高い』と評価されることが多く、この点も留学のメリットだと思います」
多彩な言語が身につく非英語圏の留学
英語以外にも、世界にはたくさんの言語があり、それらを学べる大学も少なくありません。例えば京都産業大学では、ドイツ語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、インドネシア語、イタリア語、韓国朝鮮語、ベトナム語、日本語(外国人留学生対象)の10言語から、興味のある言語を学ぶことができます。高度な語学力の習得をめざす人には、週に4回の「エキスパート科目」が開講されており、初歩的・基本的なコミュニケーションが十分にできる段階まで4技能(読む、聞く、話す、書く)を伸ばす授業が行われています。
亜細亜大学のように、モンゴル語やヒンディー語など、アジア系の言語を中心とした14カ国語の第2外国語教育を展開し、希望者は4年間を通して基礎から上級レベルまで系統的に学習できるところもあります。
語学を学ぶ理由は人それぞれでしょうが、人とは違う言語を身につけていることが、強みになることもあります。ヨーロッパの非英語圏やアジアの大学の中には、英語で専門科目を学べるところが少なくなく、英語力を伸ばしながら、英語圏にはない世界観を味わったり、その国の言語に触れたりすることもできます。大学で留学しようと考えている場合、第2外国語のラインアップや、非英語圏の協定大学などにも注目してみましょう。
(文=狩生聖子)
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