激しい衝突を繰り返してきた正恩氏とトランプ氏。「ロケットマン」「狂った老いぼれ」…。「言葉の戦争」とも呼ばれた状況から、どう対話に至ったのか、発言の変遷からたどる。
<解説>12日午後、米朝首脳会談後の記者会見でトランプ米大統領が見せた姿は、まさに「政治ゲーム」の主人公だった。1時間5分の間、高揚した表情で、次々に記者団の質問を受けた。
共同声明は「サインする価値もない」(韓国の軍事専門家)ほどの内容だった。トランプ氏は、満足できない会談なら途中退席する考えを示していたのに、会見では、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長を「才能がある。1万人に1人もいないくらいだ」と褒めちぎった。
過去、2002年9月に実現した日朝首脳会談では、日本政府は北朝鮮を相手に、「日本人拉致問題で前進がなければ、小泉純一郎首相を平壌に行かせられない」と踏ん張った。トランプ氏は、非核化の道筋も見えないなか、平壌を訪れるという。
会見を見た米韓関係筋の一人は「トランプ氏は明らかに興奮していた」と語る。
ただ、北朝鮮が「ゲームの勝者」であるかどうかは、まだ分からない。13日付の労働新聞は写真33枚を使って、米朝首脳会談を大々的に報じた。最高指導者の偶像化に成功したという判断だろう。正恩氏は自信をつけ、国際社会と接触する機会を増やすだろう。
北朝鮮は、正恩氏が思うほど盤石ではない。日々の生活に追われた人々は最高指導者に無関心だが、国際社会との接触が増えれば、無関心は反発に変わるかもしれない。
正恩氏に、「都合の悪い」真実を告げる勇気がある側近はいないという。気分を害するような景気の悪い話をすれば、粛清されるかもしれないからだ。12日の会談の、本当の勝者が誰だったのかを知るには、いましばらく見守る必要がありそうだ。(シンガポール=牧野愛博)
2018年6月11日 公開
2018年6月14日 更新