押樋光乃
にわかに家がぐらぐら揺れだしてきました。お父さんとヨネさんと私と三人一度に立ってしまいました。だんだんひどくなってきました。地震の時はタンスの前が良いとよく皆に聞いていましたから、すぐそこへ行って座ってしまいました。
物の落ちる音、倒れる音、泣き叫ぶ声。地獄へ行ったようです。お店では、お母さんとお姉さんと抱きついたまま、ひょろひょろしています。
押樋光乃おおとい・みつの
東京・越前堀にあった茶屋「錦昇亭」の一人娘。店は歌舞伎役者や芸者衆がひいきにし、繁盛していた。震災後は護国寺近くや新宿などに転居し、さらに横浜へ。母方の姓の遠藤光乃となり、結婚して4人の子どもに恵まれた。戦後は長く千葉で暮らし、1996年に83歳で亡くなった