動物たちはどこへ/変わりゆく動物園 - プレミアムA:朝日新聞デジタル

動物たちはどこへ 変わりゆく動物園

 日本に初めて動物園ができて、まもなく140年が経ちます。高度成長期に次々とつくられ、ずらりと並んだ狭いオリの中に動物たちを展示して、市民のレクリエーションの場としてにぎわった動物園。世界的に動物保護の意識が高まる中で、転換期を迎えています。

 これからも存在していくために、果たすべき役割は何か。情報公開請求して入手した84の公立動物園の資料と取材をもとに、現在の動物園が抱える理想と現実、生じたひずみに迫ります。

「余る」動物たち

 ほのぼのしたニュースとして報じられる動物園での赤ちゃん誕生。だが、限られたスペースや予算などの都合で、成長するにつれて飼育が難しくなる動物たちがいる。
 動物園が飼育できなくなった動物は、どうなるのだろうか?

 公立動物園からほかへ移っていった動物は5年間で約5千頭――。朝日新聞が行った情報公開請求で公開された全国84動物園の文書を分析したところ、そんな結果が明らかになった。

 開示されたのは2014~18年度に搬出、搬入した動物に関する資料。独自に集計した結果、5年間で計4978頭が他の動物園に移ったり、業者に渡ったりしていた。

 動物園から外に出される背景には、繁殖で生まれたもののスペースなどの問題などから飼育を続けられなった、別の動物を繁殖させるために交換した――など様々な事情がある。

出て行った動物ランキング
84公立動物園の総計。2014~18年度分の開示資料を集計

 移動先としては、国内の別の動物園や水族館が62%で最も多かった。動物商と呼ばれる鳥獣売買業者やペットショップなどの業者も25%を占めた。海外に送られたものも3%いて、札幌市のキリンがミャンマーへ、静岡市のレッサーパンダがカナダへ、広島市のオオサンショウウオがハワイへ行くなどした。

 動物別にみると、外に出された動物で最も多かったのはテンジクネズミ(モルモットなど)で、学校や子どもの施設への譲渡が目立つ。このほか、ルーセットオオコウモリ、アカアシガメなどの爬虫類、小型のサルなどペット需要のある動物は業者へ渡っていた。繁殖の目的での移動が多かったのは、レッサーパンダ、カピバラなどだった。

動物が出て行った先

 対価の有無でみると、無償での譲り渡しが全体の47%。動物同士の交換が34%、繁殖のために所有権を移さずに貸し借りをするブリーディングローン(BL)関連が9%だった。金銭を得る売却も2%あった。動物同士を交換する場合、シマウマ1頭とライオン2頭、ペンギン20羽とシロサイ1頭など、動物の評価額を算出し、等価になるように交換するケースがほとんどで、10頭以上がからむ「大型トレード」もあった。

 約5千頭の取引を分析、取材していくと、動物園が直面する課題、未来に向けて模索する姿が見えてきた。動物園は100年後も日本に存在できているのか。

抱える課題、むかう先

 神戸のカバはなぜ中国に渡ったのか。死んだアフリカゾウが1頭で暮らしていたわけは。ショーに出ていたチンパンジーに「できない」こととは。動物園が抱える課題が、動物たちの運命を左右することもある。

100年後もそこにあるために

 上野や京都、天王寺など戦前に開園したおよそ10園を除けば、公立動物園は戦後の復興期から高度成長期に次々と設立された。海外の野生動物を次々と輸入して展示し、来園者を喜ばせた。

 風向きが変わったのは、1980年に日本がワシントン条約の締結国になった前後からだ。絶滅の危機にある野生動物を保護しようという国際的な世論が高まり、希少な動物を展示という形で利用する動物園の存在意義が問われ始めた。レクリエーションの多様化や少子高齢化で、動物園の価値が相対的に低下してきたのもこのころだ。

日本動物園水族館協会の加盟園の状況

 変化に直面した動物園が見いだしたのが、絶滅の危機にある動物たちを繁殖し、後世に残していく「種の保存」という存在意義だった。海外から買ってこられなくなった動物を自分たちで増やすことで「自給自足」する――。絶滅の危機にある動物たちの「ノアの箱舟」たろうという役割に、生き残る道を見つけた。

 近年は動物福祉の向上という使命も新たに加わった。こうして向き合わざるを得なくなったのが、動物園にいる動物の「取捨選択」だ。

 これから100年後、動物園はどんなかたちで存在しているのか。いま、大きな分岐点を迎えている。