その取り調べは少し趣が違った。
腰縄で椅子にくくりつけられたまま、黙秘を続ける被告。机を挟んで向き合う男性検事(36)は穏やかな口調で、しかし、一方的に話し始めた。
検事「捜査機関はいろんな人に感謝される。家に引きこもっていると、感謝されることもほとんどないでしょう」
被告「……」
検事「引きこもりのまま人生を終えても、少なくとも社会にマイナスを与えない。それだけでも重要」
被告「……」
そして、検事はたたみかけた。
「木村さんは全然、替えがきく。逮捕されても誰も困らない」「すごくかわいそうな人」
「木村さん」とは、のちに殺人未遂の罪で起訴される木村隆二被告(25)。選挙演説会場で岸田文雄首相(当時)に向けて自作の「パイプ爆弾」を投げたとして、逮捕された人物だ。
見下して、辱める――。
録画された取り調べは「気遣い」から始まり、急激にゆがんでいった。
最高検、「不適正な取り調べ」と認定 そのやりとりは
「体調どうですか」…
- 【視点】
検事といういわゆる「エリート」が、被告や人々全般をどう見ているかが、特に次の発言には表れている。 「憲法とか法律の専門家は私も含めてメジャーリーガーだとして、一般の人は幼稚園児くらい。木村さんはあれだけ勉強して、小学校低学年ぐらいの知識は持たれているなと思う」 「さほど勉強とかも得意じゃなかったと思うけど、法律をかじって、自分がわかったつもりになってるのはすごくかわいいなって思う」 このような尊大かつ横柄に相手を見下す発言について、「自分が偉いつもりになっているのはすごく醜く愚かだなって思う」と言わざるをえない。 検察が下した判断結果自体にも疑問を抱くことが多いが、そこにはこうした傲岸不遜で権威主義的な姿勢が通底しているのではないか。 検察官の養成や試験、研修、組織体質を見直すことが不可欠と考える。 あるいは検察だけではない。いわゆる「エリート」の社会認識を明るみに出し正す作業が必要だ。たとえば竹中佳彦他『現代日本のエリートの平等観』(明石書店)は、そうした重要な研究の一つである。「エリート」と「マス」との間の乖離は歪な社会を生み出し、「マス」の不満に悪質なポピュリズムや「政治ゴロ」がつけこんで選挙結果を誘導する。すでにこの社会は危険水域に達しているように思う。
…続きを読む - 【視点】
この検事の語りからは、「更生」の視点が全く感じられない。相手が罪を認め、服役し、社会に戻ってきて、再び社会の中で生きていく――そこまでを見通した中で、検事として担うべき役割は、と考えるならば、相手の人としての尊厳に傷をつけるみずからの言動
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