Re:Ron連載「西田亮介のN次元考」第9回
自民、公明の両与党を合わせた議席が過半数を割った。第50回の衆院選の結果、10年以上続いてきた日本政治の風景が根底から覆った。
石破茂首相や自民党幹部は選挙前、勝敗ラインを「自公で過半数」としていたが、それを大きく下回る文字どおりの惨敗だ。さすがに小泉進次郎・選対委員長は責任をとって辞任したが、選挙を決断した総裁たる石破首相や、党の責任者である森山裕幹事長の責任を問う党内の声が高まらないことが、逆に自民が受けた衝撃の大きさを物語る。公明党にいたっては、新代表になったばかりの石井啓一氏が落選し、在任期間1カ月余りで辞任するという笑えない事態になっている。
メディアの関心は目下のところ11月上旬の特別国会における首相指名の行方、石破政権(今のところその可能性が高い)が発足した後の野党との連立や閣外協力などの動きに向いている。そこで鍵を握るのは今回選挙で躍進し、比例で候補者が不足して他党に譲るまでになった国民民主党だ。
キャスティングボートを握る存在として注目を集める国民民主は、特別国会での首相指名選挙では代表の玉木雄一郎氏の名前を書くことを確認するとともに、連立政権入りを否定。与党と幹事長、国対委員長を交えた政策協議を開始するものの、当初は立憲民主党からの代表協議を拒否した。これが意味するところは何か。
存在感高める国民民主
衆院選の結果は、自公が215と定数465の過半数233を割っている。かたや野党・無所属は250で、うち国民民主は28。保守系や裏金疑惑で無所属扱いになっている候補者も含む野党・無所属から28を引けば過半数を割る。さらに自民は早々と裏金疑惑で非公認で選挙を戦った4人を自民会派に戻すことを決めた。首相指名の決選投票で、立憲の野田佳彦代表が過半数の票を得るのは極めて難しい。
そうした状況下で国民民主は、同党にとって極めて合理的な手を次々に繰り出しているといえる。すなわち、建前としては与党と野党双方の顔を立て、支持者に向けては「これまでの方針」の一貫性を維持する。首相指名では石破首相を強く後押しすることで与党に大きな「貸し」を作る一方、連立には参加せず、場合によっては内閣不信任案にくみすることもできる立ち位置を確保し、存在感を高めているのだ。
国民民主の政策の柱は、長く主張してきた基礎控除引き上げやガソリン税のトリガー条項の凍結解除などだ。現役世代重視の政策は有権者に訴求しそうである。連立に参加しないでも実現できるのであれば、喜んで協力できるだろう。それは今回、国民からの不人気があらわになった自公にとっても、実は渡りに船かもしれない。
ところで、自公の議席減は当然ながら、国政上の大きな政策や国会運営にも大きく影響する。
たとえば憲法改正。与党をはじめ憲法改正を主張する政党の議席が減ったことで、憲法改正の発議に必要な条件である「両院それぞれにおいて3分の2」を下回った。憲法改正が近日中に動き出す現実味は大きく後退した。
2012年の安倍晋三第2次政権の発足以来、自民が維持してきた「絶対安定多数」(国会の本会議における議席数が反映される常任委員会のすべてにおいて委員長を選出し、かつ過半数の委員を確保できる状態)はおろか、委員長と与野党同数の委員を確保できる「安定多数」をも下回ったのも深刻だ。来年1月から始まる通常国会において、来年度予算案や各法の成立が難しくなることは容易に想像される。
保守政党、自民が抱える難題
まず、2010年代の自民党政治の常套(じょうとう)手段でもあった、最後は議席数で押し切ることが難しくなった。10年以上にわたって「自民1強」の政治環境が続くうちに、野党との調整経験が豊富な大ベテラン議員たちの多くが政界を去ったのも痛い。数少ない経験がある議員の腕もなまっているであろう。連立に入らず、内閣不信任案に無理なく賛成できる国民民主のことを考えると、自民は野党の主張に真剣さをもって耳を傾けざるをえなくなるが、そこでネックになるのが保守層との関係である。
自民は、民主党に政権を奪われ野党だった2010年につくった綱領で、「国民政党」から「保守政党」に看板をかけかえた。「保守政党」を自認したことで、選択的夫婦別姓や同性婚法制化などのように保守層を刺激する政策については、以前にも増して調整が難しくなったのは明らかだ。裏を返せば、野党にすれば自民党内に分裂を引き起こす可能性のあるこうした法案の実現を迫るのは合理的な戦術であり、自民は苦しい対応を迫られよう。
くわえて、今回の衆院選の背景にあった「政治とカネ」の問題も、衆院選で「みそぎがすんだ」とは言える状況にはなく、政治改革は今後も自民に重くのしかかり続ける。改正政治資金規正法の付則に含まれながら、具体化がはっきりとしない政治資金を監督する第三者機関の在り方をはじめ、長く議論の俎上(そじょう)にあがってきた、政党を定義する政党法なども含め、さらなる改革は避けては通れまい。
これらはボディーブローのように政権と自民を揺さぶり続けるに違いない。来年の夏には参院選、そして国の政治を反映することが少なくない東京都議選が控えている。有権者もさすがに1年もたたないうちに、自民の総裁選から衆院選までの一連の出来事や振る舞い、衆院の解散に慎重だった石破首相が総裁選での前言を撤回して早期解散に踏み切ったこと、衆院選の時期に非公認の議員の政党支部も含め自民党本部から2千万円が振り込まれた問題などを、完全に忘れることはないだろう。
仮に参院選で自民が大敗すれば、事態はいよいよ深刻さを増す。連立を駆使して苦心して衆議院で法案を通しても、野党が多数の参議院で法案が暗礁に乗り上げかねず、政権運営は複雑な連立方程式を解くように難しくなる。そうなれば、来年後半から再来年にかけてのそれほど遠くない時期に、いよいよ政権交代が現実味を帯びてくるかもしれない。
政権交代へのシナリオは
しかし、この見立てには大き…