ヨシタケシンスケさん流 不安から自分を救うストーリー 記者サロン

ウェルビーイング・働き方

山内深紗子
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 絵本作家のヨシタケシンスケさんが、デビュー作『りんごかもしれない』を担当した編集者の沖本敦子さんと、記者サロン「ヨシタケシンスケさんと語る不安のチカラ」で不安の処方箋(せん)について、9月22日東京本社で語ってくれました。

 ヨシタケさんと沖本さんは、2013年から5年間、4作品を手がけた。ヨシタケさんは「沖本さんは、僕を作家にしてくれた大恩人」と紹介した。

 ふたりとも「不安族」。記者サロンでは、名作誕生の裏にも不安があったことが明かされた。『りんごかもしれない』は、ヨシタケさんにがっかりされるのが不安だった沖本さんが、企画をたくさん準備。その中に「りんごを様々な角度からみる」という企画があり、生まれたという。

 ヨシタケさんは、人付き合いも苦手で、サラリーマン時代にストレスを抱えていた。

 「イヤな上司への思いを言葉で書いた。自分の気持ちだとバレないように女の子のイラストも添えた。その編集の作業を続けていると物語になっていきました」

創造性の源は、自分の毒

 「僕の創造性の源は、自分の毒をバレさせないためのノウハウだった。同じように自分のしんどさもメタ思考で変換できる。自分の苦しみを他人事にできると、今日を生きるのが楽になった」とヨシタケさん。沖本さんは「それをコツコツやり続けていると、ある時から自分をつくっていきますよね」と話した。

 ヨシタケさんは「創造性には幅があり、崇高なものだけでなく、泥臭いものと地続き。僕の場合は自分を救う松葉杖のようなもの」と話した。沖本さんも「創造性は特別な能力ではなく、もっと気さくで、しょうもないものが出発点だったりして、誰もが持っていると思う」。

 また、ヨシタケさんは「生産性」の物語に苦しめられている人がいることも指摘した。その上で、「『自分用のストーリー』が、不安の時代を生きる上で自分を守る」と話した。

 「真実がどうあるかではなく、その日の自分にとって、世界はどうあったほうが良いというストーリーを多く持っておけば、生きやすい。今日はお金中心、今日は人とのつながり、今日は正論、とか。今の時代すぐに判断や意見を求められるけど、5年、10年先でいいんですよ」

自分の頭の中は自由

 ヨシタケさんは昨年の心の不調で「名付けようもないしんどさ」を経験したことに触れた。沖本さんは、「『名付けようもない』というのがヨシタケさんらしい価値観で改めて大切な視点です」。沖本さんも産後うつを経験した際に「原因を探せば治る」というストーリーにとらわれていた。

 ヨシタケさんは「うつもそうだけど、生身の人間が生きていくと、分かりにくいことばかり。生産性のストーリーがあふれかえり、誰が得するのかな?と客観的に考えてみるのもいいですよ」とヒントを語った。

 そして「明日戦争は終わらせることはできなくても、明日戦争を終わらせる方法を思いつくかもしれない。それくらい自分の頭の中は自由。そう考えると少し楽になります。メタ思考で創造性を使いながら、不安と向き合い続けています」と話した。(山内深紗子)

ヨシタケシンスケさん

 よしたけ・しんすけ 1973年神奈川県茅ケ崎市生まれ。イラストレーターを経て「りんごかもしれない」で絵本作家デビュー。「メメンとモリ」など作品多数。

沖本敦子さん

 おきもと・あつこ 子どもの本の編集者。1978年生まれ。ブロンズ新社で「だるまさん」シリーズ、『りんごかもしれない』などを手がける。2019年に独立。

記者サロン「ヨシタケシンスケさんと語る不安のチカラ」

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この記事を書いた人
山内深紗子
デジタル企画報道部|言論サイトRe:Ron
専門・関心分野
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